「iモード」の頃から変わらない姿勢で、生成AIを駆使して顧客に伴走
技術で顧客の課題を解決していく。そうした仕事に関心があるエンジニアの多くは、SI企業で働いているのではないだろうか。SI企業ではクライアントワーク、つまり顧客からの依頼によって仕事が始まるため、要件によって使う技術が左右されることも多い。例えば昨今話題の生成AIも、自社案件の開発であれば容易に使ってみることができるが、クライアントワークの場合は顧客の了解も必要なため、そう簡単にはいかない。そのためエンジニアの中には、「クライアントワークでスキルアップできるのか」「生成AIを開発に活用しようという動きが加速する中、クライアントワークでも生成AIを活用できるのか」と不安を感じている人もいるかもしれない。
そんな不安をものともせず、生成AIエディタ「Windsurf」などの最新技術を積極的に活用している企業の一つがテックファームである。1998年に事業を開始して以降、インターネット関連のソフトウェア開発およびコンサルティング事業を展開してきた。「受託開発の会社は多いが、当社にはモバイル系に強いという特徴がある」と執行役員石立宏志氏は言う。
それもそのはず。インターネット関連事業を開始してまもなく、同社はNTTドコモの携帯電話向け情報配信サービス「iモード」立ち上げの技術コンサルティングを担当した。今では当たり前となっている携帯電話でインターネットを利用するサービスの先駆けだ。その後、スマートフォンの普及に伴い、NTTドコモがAndroid端末をリリースする際のサポートも担当している。

もう一つの強みが、「最新技術とお客さまが持っている資産やシステムを掛け合わせて、新しいサービスを作り出すところ」と石立氏。XRグラス「MiRZA(ミルザ)」のUI設計および、操作コントローラーとなるスマホアプリの開発や、ドローン、Apple Watchなどを使ったサービス提案など、「最新技術やデバイスを使って何か新しいことをしたいというお客さまの手伝いをすることが多いですね」と語る。
この姿勢は、社名にも表れている。同社の社名を付けたのは、創業メンバーであり現在、取締役会長を務める筒井雄一朗氏。米国では法律事務所をローファームと呼ぶことにちなみ「我々も技術という強みを持ってお客さまをサポートする。そこでローファームのローの部分をテクノロジーに置き換えた。それが社名の由来だと聞いています」(石立氏)
石立氏がテックファームにジョインしたのは、2005年。それまでは大手IT企業で主に金融関係のシステム開発に従事していたという。テックファームに転職するきっかけは、創業メンバーで当時CTOだった小林正興氏(現在は同社技術顧問)と知り合ったこと。「彼からいろいろチャレンジしている話を聞き、面白そうな会社だと思って転職しました」と石立氏は振り返る。
当時は、おサイフケータイが登場して1年弱経った頃。「この頃から、携帯電話は通話やメール、iモードでコンテンツを見るだけではなく、リアルに作用する何らかの機能を持ち始めました」(石立氏)おサイフケータイをはじめ、リアルと連動した新たなサービス開発に向かう幕開けになったというのだ。
その後、スマートフォンの登場で世の中は大きく変わった。「最初にiPhoneを見たときは、当時の携帯電話に慣れた人が本当に使えるのだろうかと思いましたね」(石立氏)
ただ実際、使ってみると「新たな可能性を感じました」と石立氏は振り返る。その後世の中に急速に普及。フィーチャーフォンの世界ではできなかったことが、スマートフォンの登場でできるようになった。「これは大きなターニングポイントだった」と石立氏。
そんな中、石立氏は全日本空輸(ANA)の「Apple Watch」向けモバイル搭乗券の開発プロジェクトに携わることになる。「Apple Wallet(当時はPassbook)」を活用した、Apple Watchをかざすだけでチケットレスで搭乗できるサービスだ。「羽田空港で実際に使っているお客さまの姿を見たときは、嬉しかったですね。お客さまに新たな選択肢を提供できる。それが楽しいから、エンジニアを続けているんだと思います」(石立氏)
そして今や世の中ではXR機やドローンなどの新たなデバイスも登場している。同社ではスマートフォンを中心に、こうしたデバイスを組み合わせ、新たな付加価値を生み出すことにチャレンジしている。
「Windsurf」を導入し、AI駆動開発を推進! その効果は?
テックファームではAI駆動開発という技術戦略を掲げ、積極的にAI活用を推進している。「GitHub CopilotやChatGPTが2022年にリリースされた当初、未来は感じられるものの、自分たちの業務の中に組み入れるかというとそうではなかった」と続ける。
だが、AIコードエディタ「Windsurf(ウィンドサーフ)」や「Cline(クライン)」が登場したことで、潮目が変わった。今までと同様の流れで、コードの作成や修正、プロジェクト構成の支援が可能になったからだ。昨年末から、これらのAIコードエディタを活用する動きが活発化。同社でもWindsurfを開発プロセスに組み込むことを決めた。
Windsurfを採用した理由について石立氏は「使いやすく、エンジニアががんばらなくてもこなれたアウトプットを出していたから」と話す。
すでに効果も実感している。一つはプロトタイピングの時間が短縮されること。「お客さまから要望をいただいて何かをつくるとき、いくつかの方法が考えつくもの。それを試すためのひな形を短時間でつくれるようになります」(石立氏)
またプロトタイピングの時間が短縮されることによって、「プロトタイピングの数を増やすこともできる。その結果、お客さまにとってより良いものができる可能性があります」(石立氏)
2つ目はより生産性の高い仕事に集中できるようになること。「プログラミングをAIに任せることで、私たちはよりお客さまの課題解決に専念できるようになる。これが生成AIを開発プロセスの中に組み入れることで得られる、最大のメリット。今後はどんどん開発プロセスの中に取り入れることをお勧めします」(石立氏)
テックファームのエンジニアは、開発プロセスに生成AIを組み入れることにとまどいや拒否反応はなかったのか。
「それはあった」と石立氏。世の中的にも、生成AIが登場した当初は「エンジニアという職種は最終的にAIにとって変わられるのではないか」という危機感があった。石立氏自身、就職系のセミナーなどで登壇すると、学生からそういった質問が多く寄せられたという。しかし、こうした疑問に対して石立氏は明確に「NO」と言い切ってきた。確かに生成されるコードに関しては、すばらしいものも出てくる。だが、そのコードが顧客の課題解決にどうつながるのかは、生成AIはコントロールできない。なぜなら、生成AIは顧客の課題を把握出来ないからだ。
そこで同社では生成AIをより良いものづくりのためのパートナーと位置づけ、顧客やプロジェクトの要望に合ったルールや指示を生成AIに与える役割をエンジニアが担うという使い方をしている。
「ルール付けはもちろん、アウトプットに対して評価することもエンジニアの大事な仕事。私たちが意図したものなのかどうかを判断し、意図しないものの場合はこうしてほしいと新たな指示を出したり、例を示したりするスキルが必要になります」(石立氏)
プログラミングであれば、エンジニアがドライバー側で生成AIがコードを書いていくという使い方だ。この場合、今までと同様、もしくは今まで以上のプログラミングスキルが必要だ。逆に新人エンジニアなど、プログラミングスキルが高くない場合、生成AIがドライバーを務めるという使い方も考えられるという。
受託開発でのAI駆動開発を支えるのは、お客さまとの信頼関係
一方で、受託開発でのAI活用は、開発側の意思だけでは進まない。お客さまの協力が欠かせないからだ。お客さまにとってもAIを活用することで、開発効率が上がるのではという期待がある一方で、懸念点もある。WindsurfもClineもクラウドのLLMを使うからだ。そこで同社では、クラウドのLLMを活用しても学習されず、ソースコードの権利が守られることを前提に、ものづくりの質が向上し、新たな価値提供の可能性が高まることをお客さまに説明したうえで、協力を得ている。「受託ながら、お客さまとの信頼関係が築けているので、AI駆動開発に取り組める。エンジニアにとってもよい環境だと思います」(石立氏)
とはいえ、AI駆動開発への取り組みは始まったばかり。「今は試行錯誤で何が出来るのか、探っている状態」と石立氏。開発と一口に言っても設計もあれば、開発、テストというプロセスがある。その中でWindsurfにどんなタスクを任せるのか、試している途中だという。Windsurf以外にも、Googleが提供するNotebookLM(ノートブック形式で情報を整理・管理・検索する)、Perplexity AIが提供するPerplexity(AIエンジン)などの他のAIツールについても試しているという。「この6月までに、受託開発のプロセスにおける、効果的なAIの使い方を提言できるようにしたい。今はそれを探っているフェーズです」(石立氏)
今後、開発現場でのAI活用は当たり前のものになっていく。このようにエンジニアを取り巻く環境は変わるが、「技術でお客さまの課題を解決する、世の中の課題を解決するというのがエンジニアの本分。そこは変わらないので、正しい課題、本質的な課題を見つける能力を磨くことが大事だと思います」と石立氏。一方、次々と登場する技術など変わりゆくものに対しては、「曇り無き眼で見つめること。新しい技術に対しても、経験をベースにすると、正しい判断ができないと思うので、まっさらな状態で見つめ、試して正しく評価することです」(石立氏)
その上で、お客さまや世の中の課題解決、付加価値提供につながるかを考える。このようなスキルを身につけ、磨き続けていけば、「一生エンジニアとして生きていける」と、自ら一生エンジニアを公言する石立氏は言う。
「小説に作家の考えや思いが反映されるように、コードにはエンジニア個人の生き様が出ると思うんです。そういう思いが伝わるコードをこれからも書いていきたい。それは生成AIがアウトプットしたコードであっても変わらないと思います。自分の色がきっと出ると思うし、自分の色が出るコードを生成させたいですね」
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