副業NGの制約下で 趣味と人助けから生まれた“収益に縛られない個人開発”
宮崎氏からバトンを受けた幸浦祐作氏は、企業エンジニアとしての副業禁止という制約と向き合いながら、身近な世界を豊かにする個人開発のあり方を語った。

現在、ダイキン工業のテクノロジー・イノベーションセンターに所属し、AWSを用いたリファレンスアーキテクチャの開発に従事する幸浦氏。業務のかたわら、Webアプリやスマホアプリ、最近ではデスクトップアプリの個人開発に取り組んでいる。
個人開発が注目される昨今、「アプリで広告収入」など収益を主眼にした取り組みも多い。しかし副業禁止という企業文化のなかでは、収益を目的としたアプリを開発することができない。そんななか幸浦氏がたどり着いたのは、「自分の趣味のため」と「身近な人を助けるため」の開発だった。
ゴルフが趣味の幸浦氏は、自分が練習記録をつけたいという思いから記録用アプリを自作した。日記形式での振り返りや、ラウンド中のショット記録など、自身が欲しい機能を実装した結果、友人からも好評を得るアプリとなった。
また、ポケモンの非公式大会で使われる複雑なルールに対応したチェックツールも開発。その結果、違反者ゼロで大会運営を支えたという。このような「周囲の人助け」を起点とした開発は、リアルタイムなフィードバックやユーザーとの対話を通じて、業務的な仮説検証にもつながる貴重な経験となっている。

収益化を目指さないからこその自由さや快適さもある。広告を入れる必要がなく、技術選定も自分の学びたいものに集中できる。さらに、開発を途中でやめても誰にも迷惑がかからず、気軽に次のアイデアへと移行できる柔軟性も大きな魅力だという。
一方で、費用回収ができないことや、家庭を持つ場合には時間とお金の捻出に理解を得る必要があるなど、実際の制約についても語られた。とくに費用面に関しては、「同じように開発をして、収入を得ている人が羨ましいと思ったこともある」と率直に打ち明ける。
それでも、「ユーザーからの感謝」は何にも代えがたい報酬であり、「このやり方だからこそ得られる喜びがある」というのが現在の幸浦氏の感触だ。
「今は副業が禁止されていても、将来的には状況が変わるかもしれない。そのときを夢見て、引き続き開発に取り組んでいきたい」。そう語る幸浦氏のまなざしには、現実を受け止めながらも未来を見据える、等身大の開発者としての誠実さがにじんでいた。