事業戦略を理解し、成果物最大化に貢献する──サイボウズ流のEMとは
組織変革の理論的基盤として、上岡氏はSpotifyの組織論で著名なHenrik Knibergの「Alignment enables Autonomy(方向性の一致が自律をもたらす)」概念を紹介した。縦軸をアライメント(何を目指すかという方向性の一致を示す)の高低、横軸を自律性の高低とした4象限において、最も理想的なのは「高いアライメント×高い自律性」の状態だ。
「サイボウズの組織では、それぞれのチームや個人が問題発見や解決についてはある程度慣れていましたが、アライメントが取れていない状態でした」と上岡氏は分析し、当時の状況を、同じ「川を渡る」という目標でも、あるチームは橋を作り、別のチームはトンネルを掘ってしまう「ミスアライメント(方向性の不一致)」で例える。
この課題解決の核となったのが、EM体制への転換だ。上岡氏は、その狙いを「従来の職能マネージャーやチームリーダーとは別に、成果物に責任を持つ役割を再定義しました」と説明する。
EMの責務は明確だ。事業戦略を理解し、チームの意思決定や成果物への説明責任を持ち、成果物最大化に貢献する。「代表者として、プロダクトマネージャーなどのチームの外とチーム内の活動を接続できる形にする」ことで、従来プロダクトマネージャーに集中していた判断をエンジニア主導で行える体制にした。
重要なのは、EMが必ずしも部長職ではない点だ。「部長とEMの役割を兼ねる人もいれば、部の業務マネジメントを委譲する形でEMを任命する場合もあります。また部以下のチーム単位で責任を持つEMも任命しています」と上岡氏は説明し、役割の多様性を強調した。なお、上岡氏自身もチームのEMでありながら複数の部の部長も兼任している。

