マネージャーとしての未来
一方で誰もがアルファギークになりたいわけではない。「もうコードを書くのはいやだ、早く管理職になりたいという人もいる。コードを書くのが嫌なら、それでいい。人それぞれ」と谷口氏が述べるように、管理職(マネージャー)として働くことも1つの選択肢である。伊藤氏は「自分も以前は35歳定年説を聞いて愕然としていた。ただ、自分も年齢が上がるにつれ、プロジェクトを管理する仕事が増えてきたが、これが意外と面白い。下を使って自分1人ではできなかったことができる楽しさがある」とマネージャーの魅力を説く。
また、弾氏は「OSSはマネージャーが不足している」と述べ、プログラマとして経験を積む場として紹介されたOSS開発においてもマネージャーは必要とされている点を強調した。
「マネージャは重要。優れたエンジニアの能力を引き出すこと、それを製品に結びつける人がプロジェクトには必要になるし、マネージメントがうまくまわっているときは、エンジニアが生き生きしてる。もう1つ大事なのはマネージャーにも技術に対する理解が必要だということで、それがないとエンジニアの技術を生かすことができない。だから、たたき上げの人が技術力を持ってマネージャーになる、プログラムをやりたい人は続ける。そういうのが理想なのかなと」(伊藤氏)
ブラック企業は淘汰されるべき
会場から「そもそも、コードに興味がないのにIT業界に入っちゃった人は?」という質問が出ると、よしおか氏からは「それは解決できない。自覚して就職しようよ。自分の人生に一番興味あるのは自分なのだから」と厳しい一言が。興味はあるが、技術力がない人について伊藤氏は、「自分は入ってすぐ技術力がないことに気づいた。じゃあ、どうしたらいいかというのはないが、結局勉強するしかない。勉強もしないし、努力もしないし、でスキルが身につくことはない。そういうことができないぐらい忙しいなら会社を辞めるしかない」と述べ、「意外と辞めても大丈夫。」と会場の笑いを誘っていた。
勉強する余裕もないほど忙しい企業は、よく「ブラック企業」と言われることがある。ひが氏は「ブラック企業は辞めるしかないと思っている」という。「今のSIerは全部横並びで、今後は上流にシフトしていきますよと言ってくる。そうすると差別化できないから、単価が下げるしかない」と、他社と差別化できない企業は、そのツケが社員にまわってきてしまう点を指摘した。
伊藤氏からは「業界を変えるのは淘汰しかない。そうするとブラック企業を学生さんが選ばない方がいいんだけど、『そういう会社を選ぶ学生が悪い』という自己責任論だと、建設的な議論にならない。例えば、僕はおもしろい会社をたくさん知っているし、それを伝えたい。どうしたらそれが学生さんに伝わるか」という問いかけがなされた。
これに対して学生からは、「自分の技術を世の中に生かしたいと思いインターンに参加したが、意外と通用しなかった。社会に貢献したいなというままではダメだと感じた」(源馬氏)という自身のインターンシップ体験をもとに、企業が積極的にインターンシップ活動を行うこと、それを広報していったらどうかという意見が出された。他にも、転職情報サイトだけでなく社員自身がブログで会社のことを伝えたり、そういったことをしやすい環境作り、たくさんの人を受け入れられるような会社作りなどがあげられた。
企業と学生、お互いが歩み寄ること
パネルディスカッションそのものは、「IT業界」という巨大なテーマを取り扱ったために、少々話が拡散してしまった面があった。ただその中でも、学生側からは自分にとって未体験ゾーンである「IT業界」に対する漠然とした不安が、またエンジニア側からはIT業界の魅力や実情を伝えきれないもどかしさが垣間見えてきた。
「企業がもっとアプローチする努力が必要だ」という意見が出されたが、企業側が情報を出したくても学生が欲している情報をくみ取れていない実情もありそうだ。また、学生側も「企業はもっと情報を出して欲しい」という漠然とした意見にとどまり、「こういった情報が欲しい」という具体的なところまで踏み込めていない印象もあった。
しかし、オープンソースプロジェクトへの参加や、業界全体でブラック企業を淘汰していくべきという、いくつかの意見も出された。今後の討論では、テーマを絞り込みながら、それぞれの「できること」「やってほしいこと」を明確にしつつ、議論を深めていく必要があるだろう。
・エンジニアの未来サミット(公式サイト)