環境にも恵まれ、導入・運用上の障害は少なかった
そのほか意外な理由として、代替が必要だった旧アナログ交換機が20年も前の機種で、保守も部品交換もできないほど旧式だったことがある。このため、 Asteriskの導入で最大の障害となる、日本の電話機に特有の「ラインキー」機能をそもそも使っていなかったという。また、IP電話にしたことで音質が上がったので、周囲の無駄話まで電話先に聞こえてしまうことが問題になった、というくらい以前は電話の環境がよくなかった。オールドスタイル過ぎたため、素人がAsteriskで構築しても改善につながったのだ。
また、全庁で500台の電話機を導入といっても、同時接続数は最大でも25通話を下回っており、サーバーやネットワークへの負荷はそれほど高くないこと。さらに、役所ならではの事情だが、職員の勤務時間が正確で、稼働時間はほぼ午前8時から午後6時くらいまで。それ以外の時間をすべて保守に利用できる。 24時間100%の稼働率はそもそも必要ないし、とにかく昼間だけ動いていてくれればよいという割り切りもできる。また遠距離にいる業者に構築や保守を依頼するより、自分たちで判断し、自分たちで直せるように構築した方が即時性も高まる。
このように、既存の電話網が旧式で、ラインキー機能を使っておらず、稼働時間が短く、保守の時間が十分に取れ、予算の削減を迫られており、オープンソースに興味のある職員がおり、上司の理解が得られ、全庁でせいぜい数百台の電話機を入れ替えればいい程度で、業者を呼ぶと到着まで数時間以上はかかってしまうほどの地方、という条件ならば、意外なことに都会の企業などよりAsteriskとは相性が良いようだ。
第2・第3の秋田県大館市は現れるか?
まして平成の大合併の後始末として、内線電話網を再構築しなければならない地方自治体はかなり多いのではないだろうか。そうした自治体に、今回の大館市の事例が波及するのかどうか。日本の電話業界は、インターネット業界とは違ってこれまでオープンソースの波を受けず、交換機から電話機まで自社製品で固めたプロプライエタリなソリューションが中心だっただけに、今後の成り行きが注目される。
なお、2億円という数字は大館市総務課による試算段階のものだったそうで、実際に業者に発注したならば初回の構築で2~3千万ではないかという。とはいえ、それでも数千万の案件であり、職員だけでいちからオープンソースで構築してしまったというのはかなり衝撃な話なのだが、中村氏自身にはまったくそういった気負ったところがなく、ごく普通に「やれることをやっただけ」というところが印象的だった。
大館市は、今回のOSCの展示ブースに中村氏が常駐し、観光パンフレットや秋田県のポスターとともに、導入した電話機を展示している。興味がある方はブースを訪れてみるとよいだろう。
【関連リンク】
・CodeZIne 『地方のオープンソース技術者はどう活きるべきか?』
・秋田県大館市 『IP-PBX導入に関する情報公開』
・ITpro 『見積もり2億円のIP電話を820万円で構築した秋田県大館市から学べること』
・ハムスター速報 2ろぐ 『俺の秋田犬フォルダが火を吹きたがっているようなのですが』