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【第2回】人間の特性を生かした色表現

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2008/05/29 16:30

目次

色表現のそのほかの可能性

 JPEG(JFIF)ではYCbCrという表現を採用しています。それはYCbCrが最良だからでしょうか? それより効率よく表せる表色系はないのでしょうか?

 RGB、XYZ、CIELAB、CIELUV、YCbCrの各表色系で画質を評価した論文*1があるのですが、それによると、CIELUVのパフォーマンスが最も良かったとのことです。正確なところは分からないのですが、JPEG(JFIF)でYCbCrを採用したのは、CIELUVへの変換コストと当時のPCの計算能力とのバランスなどを考慮した結果ではないかと思います。

 また、YCbCrでは「輝度に対して色差に鈍い」という特性を利用しましたが、大脳の前段のブラックボックスには、ほかにもさまざまな特性や色彩現象があります。もしかすると、それらを利用することでもっと効率よく色を表現できるかもしれませんね。いくつかの例を見てみましょう。

*1 JPEG符号化における色空間と画像品質の関係 (テレビジョン学会技術報告 Vol.16, No.64(19921016) pp. 13-20)

CbとCrの感度特性

 先ほど、NTSCのYIQ信号ではI信号に比べてQ信号の方が人間は区別しにくいという性質がある、と述べました。実は、CbとCrでもCbの信号の方が空間周波数に対して感度が低いのです。これは、L・M・S錐体の個数比がおよそ40:20:1であり、青色を受け持つS錐体が極端に少ないことに起因しています。なぜ、S錐体がこんなに少ないのでしょうか。

 人間の眼は厳密には色収差の影響により、短波長と長波長の光に対して同時に焦点を合わせることができません。そのため、青色の像はぼけてしまうので、青を識別するS錐体が多くあっても有用ではないからだと考えられています。このことを利用すると、CbとCrで空間の間引き方に変化をつけるなどの工夫をすることも可能かもしれません。

色の見え方のモード

 例えば、真っ暗な部屋の奥の方に小さな四角いオリーブ色が見えたとき、それを、穴から光が差し込んでいると見るか、そこに紙切れがあると見るか、という意識の違いによって認識する色が変わってしまうというものです。これは非常に興味深い現象ですが、色表現の効率化に寄与できるかと考えると、難しいように思います。

色恒常性

 人間は太陽の下でリンゴを見ても、蛍光灯の下でリンゴを見ても、リンゴの色に違いは感じられません。このことを「色恒常性」と呼びます。しかし、実際の分光強度、つまり波長の分布状況は両者の間で異なります。デジカメは見たままの光を記録しますが、人間は光によらず白いものを白いと感じます。デジカメのホワイトバランスを調整するのは、何が白いのかをデジカメに教える必要があるからです。

プルキンエ現象

 「プルキンエ現象」とは、薄暗い時間には赤色が暗く見え、青色が明るく見えるという現象です。錐体は明るい光の下でのみ働きます。それに対し、弱い光の明るさを判別するのが「桿体(かんたい)」です。錐体と桿体では(光の波長に対する)感度のピークが異なり、錐体で560nm、桿体で510nmです(図5)。そのため、明るい昼間は赤色が目立ちますが、辺りが薄暗くなってくると青系の色が目立ち始め、逆に赤系は認識しにくくなってきます。このことは、薄暗い写真のときは赤系の色が劣化しても影響が少ないことを示しています。

 また、桿体細胞は1種類しかないために色を認識できず、輝度だけを高感度に知覚します。そのため、錐体が全く働かないような暗闇の世界では、人間は色を認識できません。この情報も劣化を抑えた色表現に可能性を与えてくれそうです。

図5:明所と暗所の視感度曲線(Color-club.com「カラースクールVol.17:眼」より引用)

色視野

 実は、人間は視野のすべての領域において色を正確に認識できるわけではありません。錐体はそのほとんどが網膜の中心に集中しています。これは、周辺視野では色の見え方が違うことを意味しています。実際、緑色の見える範囲が非常に狭く、赤もそれに次いで狭い範囲でしか認識できないようです。そして、鼻側では中心からおよそ60°で色を認識できなくなるようです。信じられない話ですが、そう思うのは、通常は視点を固定しない上、大脳で何らかの補完がされているからではないかと考えられています。JPEGを発展させた「JPEG2000」仕様のROI(Region of Interest)は、この特性を利用していると言えるかもしれません。

 

 ここまでに挙げた例以外にも、人間が色を感知する際には、色の占める大きさによって認識する色が変わったり、なだらかなグラデーションを表現したときに階調の境界で境界線を認識しやすくなったり(マッハバンド)します。色は感覚であるため、それを認識する仕組みは単純ではないのですね。だからこそ、特定の条件ではもっと効率よく色を表現できる可能性も残されているかもしれません。ひょっとすると、ほかのフォーマットではすでに利用されているのかもしれませんね。


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連載:JPEGを散歩する

著者プロフィール

  • 藤原 剛(フジワラ タケシ)

    34歳。株式会社ビー・ユー・ジー熱血社員。名刺の肩書きはファームウェア職人。^^ 組込みではブートローダやOSポーティング、デバイスドライバあたりが好み。CPUではSHやMIPSよりARMやPowerPCが好き。WindowsやMac等の高級OSでは、デバイスドライバやソフトのチューニングが好き。...

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