IPとICMPについて
IPは信頼性のないコネクションレス型のデータグラム転送サービスです。信頼性のないというのは、データが正しく宛て先に届いたのかなどのことが保障されないということを意味しています。また、コネクションレス型というのは、接続に関する情報を一切管理しないことです。
つまり、IPはデータ転送に最大限の努力をするシンプルプロトコルなのです。これをベストエフォート型ともいいます。何故このような設計になっているのかといいますと、第1回で述べたようにTCP/IPプロトコルスイーツは個々をシンプルにし、役割分担を明確に行うことにより柔軟性や拡張性を確保しているからです。詳しくは連載第1回を参照してください。
しかし、IPが様々な通信エラーや接続に関する情報を提供しないとなると開発者は非常に不便です。そこで、TCP/IPにはICMP(Internet Control Message Protocol:インターネット・コントロール・メッセージ・プロトコル)が別途用意されています。まずはICMのフォーマットを解説します。
各フィールドの意味は次の通りです。
フィールド | 説明 |
タイプ | ICMPが表すメッセージがどのような種類のものなのかを大まかに判別するためのフィールドです。 |
コード | ICMPメッセージの詳しい内容を表す値です。各数値に意味が割り当てられています。 |
チェックサム | ICMPメッセージが妥当なものかをチェックするための値です。※この連載ではとりあげません。 |
後続のデータ | チェックサムフィールド以降は、タイプとコードの値により異なります。 |
ICMPはタイプとコードの組み合わせにより、様々なバリエーションがありますので、ひとまずこの連載では一番メジャーなエコー要求/エコー応答と宛て先到達不能メッセージについて解説します。
有名なネットワークコマンドであるpingはこのICMP要求メッセージとICMP応答メッセージを使用して実装されています。
ICMPの大まかな流れを掴むためにサンプルプロジェクトのIcmpTestを実行してください。このサンプルプロジェクトでは、Aネットワークに属する端末Aが、Bネットワークに属する端末Bと通信できる状態にあるかをチェックしています。次に、到達することができない端末Cと通信できる状態にあるかをチェックしています。このサンプルプロジェクトの結果は、端末Bとは通信できて、端末Cとは通信できないことが表示されます。
この判別をするためにICMPが使われています。1回目の通信(端末Aから端末Bの応答チェック)では、ICMPエコー要求メッセージとICMPエコー応答メッセージを使って、通信可能の有無を判定しています。2回目の通信では到達できない端末Cが指定されていますので、ICMPの到達不能メッセージ(Destination_Unreachable)が送り返されている点に注目してください。
この動作を表すコードは次の部分です。このコードを読めば、ICMPの動作がイメージできることと思います。
/// <summary> /// エコー/エコー応答メッセージを使用して、対象となるホストが通信できるのかチェックします。 /// </summary> public bool Echo ( MacFrame data ) { //ICMPエコー要求メッセージを作成 bool result = false; data.UsertData.Protocol = Protocol.ICMP; EchoMessage msg = new EchoMessage ( true ); data.UsertData.UserData = msg; this.lan.Gateway.Send ( data ); result = this.echoFlag; this.echoFlag = false; return result; } /// <summary> /// 到達不能となったデータを基に到達不能メッセージを作成し、送信元へそのメッセージを送ります。 /// </summary> /// <param name="data">到達不能のデータ</param> /// <returns></returns> public void SendDestinationUnreachableMessage ( MacFrame data ) { MacFrame sendData= new MacFrame ( ); sendData.TypeOrLength = ( ushort ) EtherType.IP; //宛て先へ送り返すための設定 sendData.UsertData = new IPv4 ( ); sendData.UsertData.Protocol = Protocol.ICMP; sendData.DestinationAddress = data.SourceAddress; sendData.UsertData.DestinationAddress = data.UsertData.SourceAddress; sendData.SourceAddress = this.selfMacAddress; sendData.UsertData.SourceAddress = this.selfIpAddress; //到達不能メッセージを作成 DestinationUnreachableMessage msg = new DestinationUnreachableMessage ( ); msg.SauceDatagram = data.UsertData; sendData.UsertData.UserData = msg; //送信元へメッセージを送信 this.lan.Send ( sendData ); }
''' <summary> ''' エコー/エコー応答メッセージを使用して、対象となるホストが通信できるのかチェックします。 ''' </summary> Public Function Echo(ByVal data As MacFrame) As Boolean 'ICMPエコー要求メッセージを作成 Dim result As Boolean = False data.UsertData.Protocol = Protocol.ICMP Dim msg As EchoMessage = New EchoMessage(True) data.UsertData.UserData = msg Me.lan.Gateway.Send(data) result = Me.echoFlag Me.echoFlag = False Return result End Function ''' <summary> ''' 到達不能となったデータを基に到達不能メッセージを作成し、送信元へそのメッセージを送ります。 ''' </summary> ''' <param name="data">到達不能のデータ</param> Public Sub SendDestinationUnreachableMessage(ByVal data As MacFrame) Dim sendData As MacFrame = New MacFrame() sendData.TypeOrLength = CUShort(EtherType.IP) '宛て先へ送り返すための設定 sendData.UsertData = New IPv4() sendData.UsertData.Protocol = Protocol.ICMP sendData.DestinationAddress = data.SourceAddress sendData.UsertData.DestinationAddress = data.UsertData.SourceAddress sendData.SourceAddress = Me.selfMacAddress sendData.UsertData.SourceAddress = Me.selfIpAddress '到達不能メッセージを作成 Dim msg As DestinationUnreachableMessage = New DestinationUnreachableMessage() msg.SauceDatagram = data.UsertData sendData.UsertData.UserData = msg '送信元へメッセージを送信 Me.lan.Send(sendData) End Sub
なお、ICMP到達不能メッセージを送る状況については、既に提示したRouterクラスのicmp.SendDestinationUnreachableMessageを呼び出している部分です。これでICMPがIPを補完する重要なプロトコルであることと、TCP/IPの役割分担についての具体的イメージが掴めると思います。
まとめ
今回はインターネット層に属する重要なプロトコルであるIPとICMP、そしてIPと関連が深いARPについてサンプルコードを交えながら解説をしました。インターネット層には沢山のプロトコルがあります。しかし重要なポイントはこの記事で解説しましたので、より深く学習する際にも本記事が役に立つものと思います。次回は、トランスポート層に関連する事柄を解説します。お楽しみに。
参考資料
書籍
- 『詳解TCP/IP Vol.1 プロトコル』 W.Richard Stevens著、橘康雄・井上尚司 訳、ピアソンエデュケーション、2000年12月
- 『マスタリングTCP/IP 入門編 第4版』 竹下隆史・村山公保・荒井透・苅田幸雄 著、オーム社、2007年2月
- 『インターネットRFC事典』 笠野英松 著、マルチメディア通信研究会 編、アスキー、1998年10月
ウェブサイト
- @IT 『Master of IP Network』