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イベントレポート

マイクロソフトによるベンチャー支援の取り組み
――イノベーションアワード2009

Microsoft Innovation Award 2009 優秀賞の5作品

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 パシフィコ横浜で26日~28日までの日程で開催された「Microsoft Tech・Ed Japan 2009」の会場では、「Microsoft Innovation Award 2009」の優秀賞に選ばれた5社の製品説明会とデモンストレーションも行われた。

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12月に優秀賞の中から最優秀賞を選出

 パシフィコ横浜で26日~28日までの日程で開催された「Microsoft Tech・Ed Japan 2009」の会場では、「Microsoft Innovation Award 2009」の優秀賞に選ばれた5社の製品説明会とデモンストレーションも行われた。

 このアワードは、マイクロソフトによるベンチャー支援プログラムの一環として3年前から行われている。起業から3年以内の高い技術力を持つベンチャー企業を、多方面から支援すべく、応募された製品のなかから、革新性に優れた製品を5つ優秀賞として選ぶものだ。そして、12月には、優秀賞に選ばれた製品の中から、Tech・Ed参加者、マイクロソフト全社員、同役員による投票によって最優秀賞を1社選出する。

 今回優秀賞に選ばれた5社とその製品は、三三の「Link Knowledge」、スカイフィッシュのリアルナレーターズ with 「JukeDox」、マジックチューブの「WallThrough」、リトルアイランドの「Sokkly」、ワンビの「トラストデリート」となっている。

Innovation Award 2009 優秀賞の5作品

 まず、三三のLink Knowledge(リンクナレッジ)は、名刺をスキャニングして読み方の修正などを含め、データベース化してくれるという企業向けサービスだ。同社では、これを「名刺SaaS」と呼んでいた。このサービスは、名刺スキャナと登録端末をレンタルする形で、ユーザーが企業活動でもらってきた名刺をスキャンする。スタンドアロンの名刺スキャナならば、これを自分のPCで読み方や判読できなかった部分を補正してローカルの住所録に追加していくのだが、Link Knowledgeでは、このデータはすべて三三のサーバーに送られ、オペレータによる手作業でデータベースの登録が行われる。

 データベース化されるので、ただの住所録機能だけではなく、CRMへの応用(コンタクト管理)、名刺情報から取引先の組織図作成、リスト管理によるナレッジの共有などが可能になっている。名刺登録のある企業名で検索したプレスリリースや関連ニュースをプッシュしてくる機能もある。同社では、ビジネスの基本である名刺は情報の宝庫なのだが、紙ベースでの個人管理では、同時に情報の墓場にもなっているとして、このLink Knowledgeを新しいCRM、SFAとして開発したという。

三三:名刺データをCRM、SFAリソースとして活用する(左)、IMG_1788.jpg:スキャナと登録端末(右)
三三:名刺データをCRM、SFAリソースとして活用する(左)、IMG_1788.jpg:スキャナと登録端末(右)

 続いて、スカイフィッシュのリアルナレーターズは、いわゆる読み上げソフトの一種だが、PowerPoint 2007のスライドショーと連動させる機能が特徴の製品だ。スカイフィッシュ自体、すでにさまざまな読み上げソフトを開発しており、ひとつにJukeDoxという製品がある。このJukeDoxに、PowerPointのノート欄の内容を読ませるものがリアルナレーターズだ。スライドと連動した読み上げ音声により、自動デモンストレーションや、日本語以外の言語を発声させれば、同時通訳つきのスライドショーなどが作成できる。

 ノート欄に入力するテキストは普通の日本語テキストファイルで問題ないが、固有名詞や難読文字の処理、あるいはイントネーションのチューニングなどができるように、専用のXML形式で入力する。ただし、読み上げテキストをPowerPointのノート欄にただ入力するだけではなく、専用のタグによって読み方、抑揚などがつけられる。また、字幕機能もサポートしており、読み上げ中の文字をスライド中に字幕表示させることもできる。JukeDoxなどは本来アクセシビリティ分野の製品として開発されたものだが、リアルナレーターズは、ドキュメントのリッチエクスペリエンスツールとしての機能を重視し、あえてPowerPointという特定のアプリケーションに特化した形で、自社の構文解析技術、読み上げ技術を活用している。

スカイフィッシュ:管理画面の機能例(左)、スカイフィッシュの製品ロードマップ(右)
スカイフィッシュ:管理画面の機能例(左)、スカイフィッシュの製品ロードマップ(右)

 マジックチューブのWallThroughは、フェイストラッキングによる「窓」を再現したユーザーインターフェイス技術だ。具体的には、画面をみている顔を動かすと、表示されている画像の視点も動き、いままで見えなかった部分が見えるようになる。つまり、窓から見える範囲は、顔を近づけると視野が広がり、左から右を覗き込むと右側の奥行きが広がる、という現象を再現したディスプレイ表示技術だ。

 原理は、広角レンズを備えた固定カメラの映像を、フェイストラッキング用のCCDを搭載したディスプレイに、閲覧者の位置に応じた視界で再生するというものだ。小さいディスプレイなら、フェイストラッキングをしなくても本体を傾けるという操作で、同じような現象を再現できるが、同社では、新しいユーザーインターフェイスとしてあえて、本体は固定式の大型ディスプレイとしたそうだ。最近では、デジタルサイネージ市場が伸びているという報告もあるが、この分野での応用が期待できそうな技術である。

 マジックチューブによれば、実際の市場へは、学校や公共機関、病院、研究室などへの展開を考えているそうだ。病院などではナースセンターの画像つきナースコールや、心理学の実験での応用の可能性があるとのことだ。

マジックキューブ:画面の左方向から右側の視点で画像が見える(左)、左方向からの見え方と右方向からの見え方を比べてほしい(右)
マジックキューブ:画面の左方向から右側の視点で画像が見える(左)、左方向からの見え方と右方向からの見え方を比べてほしい(右)

 リトルアイランドのSokkly(そっくりー)は、本人の写真と声からつくるぬいぐるみ型のロボットだ。人工知能内蔵により、持ち主との会話が楽しめる。会話パターンはいくつかのシナリオが用意され、シチュエーションに応じた対話となるそうだ。表情は動かないが手が動き、一定のアクションも加わる。シナリオはXML形式になっている。製品としてはコンシューマ向けのおもにエンターテインメント分野ということになるが、ロボットの顔や服装などすべてがオーダーメイドで指定できるというのも特徴だろう。

 ロボット自体は、産業用のPCボードが内蔵され、機能は普通のPCとまったく同じだそうだ。無線LANも内蔵し、インターネットに接続させれば、天気予報やニュースを調べさせたりもできる。リトルアイランドによれば、将来的には、PCやインターネット端末の代わり、ひとつのコンピューティングスタイルになるという期待も寄せているそうだ。なお、必要なら、キーボードやマウス、ディスプレイを接続することもできるし、USBスロットも搭載している。内蔵しているOSはXPだそうだ。じつは、このSokklyは、すでにテレビ取材なども受けており、英国BBCのバラエティ番組にも出演している。

 ぬいぐるみや洋服は、アウトソースかと思っていたが、確認してみると、これらのすべて自社で作っているとのことだ。写真から本人に似せた人形の顔を作ったり、着せる洋服なども注文に応じてハンドメイドだそうだ。この特注可能ということから、結婚式場での採用事例は、新郎新婦のSokklyを披露宴に登場させ、終了時に人形部分だけをプレゼントするというものがあるそうだ。それでも、Sokklyは本体のみで198,000円(衣装代別)とかなり普及価格を意識している。

リトルアイランド:Sokklyのバリエーション。麻生総理もいる(左)、TV放送されたSokkly(右)
リトルアイランド:Sokklyのバリエーション。麻生総理もいる(左)、TV放送されたSokkly(右)

 ワンビのトラストデリートは、紛失・盗難したPCのデータをリモート操作で消去するというソフトウェアだ。重要データを含むPCが盗難にあったとして、それを携帯電話や管理者のPCからワンビの管理サーバーに連絡を入れる。この状態で、盗難PCがオンラインになったら、管理サーバーからそのPCに消去命令が送られる。これによって、重要データの漏えいを防ぐというものだ。

 類似の製品やサービスはこれまでも存在していたが、トラストデリートの特徴は、消去に対してサーバーが消去証明書を発行できること、設定によって一定時間、サーバーとの認証が行われなかった場合に、データの自動消去もできること、また、盗難PCなど、オンライン上で動作している状態のログがサーバーに残ること、だそうだ。指定されたディスクのデータだけでなく、Winodws MobileなどではカメラやSDスロットなどデバイスの無効化もできるようになっている。データの消去方法は、0書き込みかNSA方式のランダム値3回書き込みを選ぶことができ、消去時間はおよそ1GB/分だそうだ。巨大なファイルはそれなりの時間が必要なので、消去対象ファイルはある程度優先度をつけて選択しておく必要がある。

ワンビ:トラストデリートの特徴(左)、Windows 7への対応予定(右)
ワンビ:トラストデリートの特徴(左)、Windows 7への対応予定(右)

アワード以外のベンチャービジネス支援の取り組み

 以上がInnovation Award 2009の優秀賞を受賞した5製品だが、マイクロソフトではこのようなアワード以外にもベンチャービジネスを支援するプログラムを展開している。マイクロソフト 業務執行役員 CTO 加治佐 俊一氏によれば、アワードによる技術奨励とその告知効果による企業支援以外では、BizSpark(ビズスパーク)というスタートアップ企業向けに、技術的な支援、ツールの提供を去年より開始しており、2009年以降は、ビジネスや企業経営という意味でのトレーニングなどを支援を拡大していくプランを語ってくれた。

 実際、2008年に支援企業に選ばれた名古屋のステップワイズのCEO 長谷川誠氏のような、「起業したてのベンチャーにとって、マイクロソフトのベンチャー支援を受けられるということは、ツールなどのサポートだけでなく市場への遡及効果が絶大でした。システム開発において飛び込み営業はありえないので、マイクロソフト関連のページへの露出や認定実績が多数の引き合い、問い合わせにつながっています」という声も聞かれた。

マイクロソフト 業務執行役員 CTO 加治佐 俊一氏(左)、ステップワイズ CEO 長谷川誠氏(右)
マイクロソフト 業務執行役員 CTO 加治佐 俊一氏(左)、ステップワイズ CEO 長谷川誠氏(右)

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この記事の著者

中尾 真二(ナカオ シンジ)

フリーランスのライター、エディター。アスキーの書籍編集から始まり、翻訳や執筆、取材などを紙、ウェブを問わずこなす。IT系が多いが、たまに自動車関連の媒体で執筆することもある。インターネット(とは当時は言わなかったが)はUUCPの頃から使っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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