2009年10月19日にベータ2版の提供が開始された、Microsoftの次期アプリケーション開発プラットフォーム「Visual Studio 2010」。好調なWindows 7のセールスを背景に、来年リリース予定の正式版「Visual Studio 2010」の期待を抱く開発者も多い。
CodeZineでは、マイクロソフトのデベロッパー&プラットフォーム統括本部の鈴木祐巳氏、近藤和彦氏、新村剛史氏と、Visual Studioユーザーグループ(VSUG)運営委員であるITコンサルタントの奥津和真氏を迎え、「Windows 7時代の開発スタイル」というテーマで座談会を行った。
好調なWindows 7と開発者の現況
Windows 7は、市場に好意的に受け入れられていて、評判がいいと話題になっている。まずは、その評価に対してマイクロソフトの鈴木氏とVisual Studio担当 近藤氏にそれぞれ伺った。
「互換性について非常に労力をかけているので、WindowsアプリやWebアプリともに、旧バージョンでも問題なく動作します。開発者にとっても移行しやすいのが、Windows 7のメリットです」(鈴木氏)
「マイクロソフトは、『the computer in every home, every desk.(すべての机に、すべての家庭にコンピューターを)』というミッションを掲げ事業を展開してきました。現在は、生活の中でもコンピュータが重要な位置づけになっており、ハードウェアやプラットフォームの進化が加速しています。その進化の1つがWindows 7です。しかし、その能力を最大限に活かすためには、Visual Studioを使ってソフトウェアを作り上げていく必要があります」(近藤氏)
企業の中で利用されるアプリケーションの種類には、Windowsアプリ、Webアプリ、Officeアプリなどがあり、さまざまな分野で利用できるが、企業によって適切なアプリケーションは変わってくる。そうしたさまざまなアプリケーション開発に対応できるのがVisual Studioの特徴といえる。
「勤怠管理のアプリケーションを考えた場合、外回りの営業担当者が、外出先から入力する必要がある場合はWebアプリ、表で管理したり印刷したい場合はOfficeアプリ、出社時間だけでなく、業務内容まで記す必要がある場合はWindowsアプリといったように、目的別に必要な開発分野が違ってきます。Visual Studioは、あらゆる種類のアプリケーションをカバー、かつ開発スタイルの一貫性があり、また、開発だけでなく、設計、運用、テスト、保守など、アプリケーションのライフサイクル全体をカバーできます」(鈴木氏)
Visual Studioの現行バージョンは2008。マイクロソフトの調査によると、Visual Studioユーザーのうち、2008のユーザー数は2005のユーザー数を超えている。
Visual Studio 2008にはマルチターゲット機能が搭載されており、.NET Framework 2.0、3.0、3.5を切り替えられるようになっている。しかし、利用者側の立場からの活用状況に詳しい、VSUG運営委員の奥津氏によると、意外にもいまだに2.0ベースの開発が多いという。この意見に対して、実際の利用状況を鈴木氏は次のように語る。
「マイクロソフトでは、.NET Framework 2.0以降とそれ以前で分けて考えているのですが、確実に2.0以降のアプリケーションに移行してきていると言えます。3.0や3.5は、2.0への機能追加として捉えられることが多いものの、LINQやWindows Communication Foundationなど、データ通信の部分は予想以上に注目度が高く、積極的に利用されています」(鈴木氏)
Visual Studio 2010と.NET Framework 4への期待
これまでの話から、Visual Studioユーザーも2005以前のバージョンから、徐々に新しい開発環境に移行しつつあることが分かった。そして、次期バージョンであるVisual Studio 2010も既にベータ版が公開され、開発者たちの期待も高まっているようだ。
「Visual Studio 2008は、開発者の“大工道具”として完成度が高まっていると思います。IDE自体に歴史もあり、その点でもこれまでどおり信頼しています。私がVisual Studio 2010に最も期待するのは、大規模開発の際に必要になるツール『Visual Studio Team System 2008 Team Foundation Server(以下、Team Foundation Server)』が、リーズナブルな『Visual Studio 2010 Professional with MSDN』でも利用できる点。これまで予算面で導入できなかった開発者や企業も、チーム全体での品質向上が期待できるのではと考えています」(奥津氏)
こうした基本機能のさらなる充実など、期待が高まるVisual Studio 2010。担当者である近藤氏と新村氏は、その特徴を次のように語る。
「.NET Framework 4の提供により、さらにリッチな開発ができる点、“道具”自体の使い勝手が洗練されている点、そして製品の機能ではなく、MSDN Professional Subscriptionユーザー向けのTeam Foundation Serverの提供といった、『提供形態』にも特徴があります」(近藤氏)
「Silverlight、Office SharePoint Server、Windows Azureプラットフォームなど、幅広い種類をカバーしている点でも、既存の開発環境から新しいテクノロジーに向けて、さらに分野を広げることができるようになりました」(新村氏)
Visual Studio 2010においても、.NET Framework 1.0からの技術がベースになっており、テクノロジーががらりと変わるわけではない。しかし、Windows 7では、マルチタッチや新しくなったタスクバーなど、新機能が搭載された。Visual Studio 2010では、Windows Vista以前のOSではできなかった開発が可能になることも注目されている。
「これまでのアプリケーションは、CPUの速度が上がると性能が上がっていましたが、マルチコアのCPUでは、それに最適化した開発を行わないと、その恩恵を受けることはできません。.NET Framework 4の新機能の1つとして、マルチコアへの容易な対応が挙げられます。.NET Framework 2.0から3.5までの共通言語ランタイム『CLR』が、.NET Framework 4ではデバイスやハードウェアの進化に対応するためCLR 4.0として新しくまとめられました」(新村氏)
奥津氏にVSUGメンバーの視点から、Windows 7向けアプリケーションの開発状況について聞くと「パッケージソフトはかなり対応が始まっていますし、業務アプリはこれから開発が進むでしょう。また、開発者にとってはParallelクラスによるマルチコア対応が嬉しいです。マルチコア向けの開発は難しく、生半可な知識でやるとまともに動きませんから。幅広い開発者がマルチコアに対応しやすくなるのがひとつのバリューとなります」と語った。Windows 7のデフォルトの.NET Frameworkのバージョンは3.5。現状では、Windows 7向けの開発にはVisual Studio 2008が最適と言える。
「企業の中で、Internet Explorerなど1つのコンポーネントをアップデートするのは大変です。そうなると、Windows 7向けの開発はしばらくの間.NET Framework 3.5がターゲットとなるでしょうが、3.5に移行しつつ、.NET Framework 4を見据えた開発を行って欲しいですね」(鈴木氏)
MSDN Subscriptionなら、Visual Studio 2010へ自動アップグレード
こうしたWindows 7時代の開発スタイルへの移行を容易にするサービスの1つが、『Visual Studio with MSDN Subscription』といえる。『Visual Studio with MSDN Subscription』とは、Windows環境におけるソフトウェア開発を行う開発者をサポートするサービス。開発ツール、OS、サーバー、SDKなど、開発に必要な幅広いマイクロソフト製品が提供されるほか、専用サイトから各種製品のダウンロードや、製品および各種テクニカルリソースを収録したメディアの提供、マイクロソフトの技術者による技術サポートなどが含まれる。来年からはWindows Azureクラウド・コンピューティングの利用も可能となる。
「アプリケーション開発には、開発ツールだけでなく、対象となるOSやサーバー製品といったミドルウェアも必要で、環境構築のため個々に購入していくのは現実的ではありません。企業によっては、部門別に異なるOSを使っている場合もあるでしょうし、Windows XPよりも前のバージョンのOSをターゲットとした場合、開発者がそのOSを入手できないことも多いでしょう。開発環境をそろえる手間やコスト、プロフェショナルなサポートなどを考えると、MSDN Subscriptionが断然おすすめです」(近藤氏)
「Visual Basic 6.0以前や.NET Framework 1.0や1.1など、古い環境からの移行・変換作業を行う際も有効です。提供内容が変更される可能性はありますが、現状で市中在庫しか販売していないVisual Basic 6.0などを入手できるのは『MSDN Subscription』だけです」(新村氏)
実際の開発現場でコンサルタントとしても活躍する奥津氏から見ても、そのメリットは多いという。
「古い環境でしか動かないソースを持つ顧客から、発注があることも多い」と話し、加えて「開発中に要件が変わったりするため、必要な製品のトータルコストの管理は非常に難しい。MSDN Subscriptionは、開発者ごとにライセンスが提供されるので、開発者数に応じたライセンス数で管理できます。購買部門にとっても、ありがたいのではないでしょうか。また、正しいライセンスの製品で開発しているということは、コンプライアンス的にも優れています」(奥津氏)
Visual Studio with MSDN Subscriptionは、今すぐに入手したとしても、自動アップグレードにより製品のレベルに応じて、Visual Studio 2010へ移行できるのも魅力の1つだ。
「2010へは2008で利用している製品よりも、同等かまたは上位のレベルにアップデートできるのが、大きなメリットです」(近藤氏)
「Windows Azureプラットフォームも、来年1月から利用できるようになります。使い勝手を考慮したリッチなアプリケーション、クラウド、仮想化など、アプリケーションに新しい技術を導入しようというマインドは向上しているので、少しでも先行して利用していただきたい」(鈴木氏)
「来年は、弊社の製品のリリースが続きますので、MSDN Subscriptionの活用をお勧めします。クラウドは先進的なものですが、サーバーの仮想化に関する開発は需要が増えています。各種環境への対応、システムインテグレータ企業に求められますし、競争力を高めていただくことができるでしょう」(新村氏)
「開発者にとっては、手元に1番新しいバージョンがあって、触りたいときにすぐ試せるという環境が望ましい。企業内では、新しい製品を購入するには時間がかかりますし、上司に相談をする必要もあるでしょう。上司が開発者でない場合、新バージョンのメリットを説明するのが難しい。こうした面倒なことをせずに、新しいツールを手に入れられる『MSDN Subscription』のメリットは、疑いようがありません」(奥津氏)
Windows XPからWindows Vistaにアップグレードしなかった企業は多く、Windows 7への期待は高まっている。Visual Studio 2010のリリースへ向け、過去のアプリケーションのメンテナンスから、Windows 7対応、将来の新サービスまでカバーできるVisual Studio with MSDN Subscriptionを利用するなら今がちょうど良い時期だと言える。