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先輩ライターに訊く、技術文書執筆のアレコレ

先輩ライターに訊く、技術文書執筆のアレコレ(1)
~花井志生(宇野るいも)さん

技術文書執筆の現場(1)

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4 執筆作業の実際

 これから執筆をしてみようかなという方のために、実際の執筆作業について簡単に紹介してみたいと思います。

4.1 開発プロジェクトと比べると

 私は主に企業向けのシステムの開発プロジェクトに携っています。こうした開発プロジェクトと執筆作業と比べると、まず書く内容さえ決まっていれば、見積りが割と当たります。開発プロジェクトでは、常に見積精度が問われますが、執筆の場合最初に50ページくらい書いてみて、それにかかった時間を6倍すれば、だいたい300ページを書く期間が算出できます。このためマスタースケジュール(つまりは締切)くらいは意識する必要がありますが、プロジェクト管理に類するような作業はほぼ不要です。

 執筆は常に自分との戦いです。良くテレビ番組などでは「自分との戦い」がさも大変なことのように放映されていたりしますが「人との戦い」、つまり人に作業を頼んで、その品質と納期を間に合わせる方が実際は余程大変です。少なくとも自分はそうです。逆に言えば自分との戦いの方が楽と感じる人は執筆に向いているのかもしれません。

 本業がある中で、個人として執筆するのであれば、休日が犠牲になるのは仕方がありません。逆に言えば、文章を書くこと、そしてそれを読んでくれた人の何らかの役に立つことに喜びが見い出せるようでないと続けるのは難しいでしょう。

4.2 執筆の実際

 私の場合、編集さんとの雑談とか、依頼がきっかけの場合が多いです。そこで大体のマスタースケジュール決めをします。その一方で編集さんはテーマを社内で稟議にかけ、それが通れば本格的に執筆を開始します。書籍の場合は半分から2/3くらい終わったところで最終締切を決めるので、本業がデスマーチ化したりしなければ、割と時間に余裕を持って進められます。一方雑誌の場合は締め切りが定期的に、非情にやってきます。特に月刊誌は大変なので十分に余裕を持って進める必要があります(できれば、前倒しで数号分書きためておくのが良いでしょう)。

 納品は、テキストファイルやワープロ文書などが多いようです。私はもっぱらEmacsというエディタでテキストを書いています。ワープロで書く時も組版(紙面の形に文章や図を構成すること)は編集さんの仕事なので、執筆者は特にページレイアウトまで気にすることはありません。ところで文書を多量に書く方は、SKKという漢字入力プログラムをぜひ一度試してみてください(SKK Openlab)。いわゆる連文節の漢字変換は、ある程度まとまった文章を入力してから変換を行い、その変換結果が正しいかを見て必要に応じて修正、確定という作業を行うため、視線の移動量が多くて気が散ってしまい執筆に集中できません。これに対しSKKの場合、単語単位で変換するために、視線の移動がとても少なくて済み、送り仮名まで人間が指定するので変換ミスが少なくて済みます。独特の操作に慣れるのに少し時間がかかりますが、慣れてしまうととても快適に文書を書くことができるようになります。

 図は手書きのスケッチでも、ドローイングツールで描いたりしたもので構いません。専門のイラストレータの方が綺麗に書き起こしてくれるので、こだわって綺麗に仕上げる必要はありません。

 原稿を送ると、それを組版したゲラというものが上がってきます。最近はPDFがほとんどです。ここにPDFの校正機能を使って修正を入れて送り返します。これを2回くらい繰り返して完成で、最後に「はじめに」とか「著者紹介」を書いて完了です。

4.3 スケジュールを守るために

 執筆は自分との戦いですから、自分自身を客観的に見て特性を掴むことが大事です。ここでは私自身の話を書きますが、誰にでも当てはまるというわけではないでしょうから、ご自身に合わせてスケジュールを守る術を会得してください。

 まず一般的な注意として、夏休みの宿題のように後でまとめてやろうと考えないことです。必要なページ数を締切までの期間で割って、週あたり何ページ書かなければいけないかを算出します。週ごとに進捗を見て遅れていれば週末にキャッチアップします。

 プログラミングに工数が馴染まないように、執筆にも工数という考えはなじみません。時間がない時、本業が忙しい時は「もっと時間があればなぁ」と嘆くくせに、不思議と時間がたっぷりある時とか、本業が暇な時には思ったほど捗りません。本業が暇な時というのはどうもテンションが下がってしまって、執筆の方もあまり進まなかったりします。「明日から三連休だ」と三連休があること自体に安心して、終わってみればちっとも進んでいなかったなんてこともしょっちゅうあります。

 執筆の精神的な障壁は2つあります。まず執筆文書をエディタで開いて書き始めるまで。そして別の作業への誘惑(特にWebブラウザ)です。気が乗らない時は文書をエディタで開くこと自体が億劫になります。「先にxxxをやってから」みたいに言い訳をして先述ばしにしてしまいます。そういう時は、とにかく書かなくてもいいから今まで書いた分を読み直してみるくらいの気持ちで文書を開いてしまうのが良いようです。すると読み直すうちに、ここを直そう、ここを書き足そうとだんだん気持ちが乗ってくるものです。もしも気が散って別のことがしたくなったら後ろめたい気持でこっそりWebブラウザをチョコチョコ覗きにいくのでなく「10分Webブラウザで好きなニュースを読んでヨシ」とすっぱり切り替えてしまいます。いざ自由に見てよいですよとブラウザを目の前に出されると、特段見たいものがあるわけでもなく、なんで自分はあんなにWebブラウザに誘惑されていたのかが不思議に思われるものです。

 意外と集中できるのが電車の中です。通勤の際には少々遠回りでも座れる経路を選んで、通勤時間を執筆時間に割り当てると思いの外集中できて執筆が進みます。また集中するためのテクニックとして、ポモドーロテクニックというのがあります。タイマーを使って時間を決めて集中する方法で、実際に試してみると確かに集中できます(ものすごく疲れますが)。そういえば試験の時みたいに時間が決まっている場合も集中できますし、電車の中で集中できるのも同じ原理なのかもしれません。

4.4 自分の売り込み

 売り込みというと大袈裟ですが、普段、情報発信していれば思わぬところで声がかかったりすることもありますし、やはりいろいろな人と情報交換できた方が世界が拡がるので、なるべく多くの人と交流したいものです。

 ブログは以前ほどは注目されなくなりましたが、それでもある程度まとまった文書を公開する場としては、今もって有効なメディアでしょう。毎日更新する必要はありませんが、なるべく継続して更新するようにします。またブログリーダを使って、他の人のブログもチェックしてコメントやトラックバックするのも「売り込み」の一つです。今だとtwitterなどから紹介するという形式の方が一般的かもしれません。

 Twitter、Facebook、Google+といったSNSの存在感は、今や完全にブログを超えた感があります。いずれも他の人の発言を読むための仕組み(twitterならフォロー)があり、これにより相手に通知が行くため「売り込み」機能になります。相手から「フォロー返し」してもらうためには、自分のプロフィールをきちんと書き、自分自身の発言をある程度行ってからフォローします。まぁそんなに気負わなくても、面白い文書を書く人をフォローして回り、面白い文書があれば紹介(twitterならリツイート)するくらいから始めるのが良いでしょう。

 外部の勉強会も交流を拡げるための機会です。折角出席するなら受け身で聞くだけよりも、発言、発表をした方が目標も持てて良いと思いますが、出席の仕方は人それぞれなので、肩の力を抜いてまずは参加してみることから始めるのが良いと思います。できれば勉強会の後の飲み会に参加して、同じ趣味の人達と話をするといろいろ刺激になると思います。そのときは会社の名刺ではなく、個人名刺を作っておくと良いです。特にペンネームを持っている場合は本名だと誰だか分かりません。

 こういった交流を通じて意見交換をする際、若い時はとかく自分の考えで相手を説得したがるもので、まぁそれはそれで若気の至り、持ち味だったりするものですが、そこに留まると世界が狭まってしまいます。どこかで相手との意見の違いを「楽しむ」ように転換すべきです。相手の主張に対し「そうじゃない」ではなく意見の違いを認めた上で「そんな考えをする奴もいるんだなぁ」と楽しむのです。SNSでフォローする時もついつい自分と同じ意見をもつ人ばかりをフォローしがちですが、たまには自分と反対の意見を持つ人をフォローしてみるのも面白いのではないかと思います。

5 最後に

 文章を公開するようになると、自分が書いた文書に対して何らかの評価を目にすることがあると思います。例えばブログへのコメントや、執筆文書であればAmazonの書評などです。ネガティブな内容だったからと言って、それらに一喜一憂することはありません。世の中にはさまざまな人がいますから、自分の文書を読んでくれた人全員が良いと評価したとしたら、それはそれでかえって気持ち悪いことです。そうした中には具体的に何を改善すべきなのかをきちんと記載してくれているものもあります。そういったものがあれば、真摯に内容を受け止めて自分の糧とさせていただきましょう。

 なんだか最後の方は説教くさくなってしまいましたが、以前と比べて自分の文書を公開するための敷居は非常に低くなりましたし、検索エンジンなどの技術の発達によって、自分の文書を他の人に読んでもらえる確率も格段に上がりました。ぜひ執筆にチャレンジしてみてください。

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花井 志生(ペンネーム 宇野るいも)(ハナイ シセイ(ペンネーム ウノルイモ))

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https://codezine.jp/article/detail/6165 2011/09/26 14:00

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