エンタープライズのソーシャル化の可能性と課題
新野氏は「クラウド環境が整い、社内外や家庭でも使いやすいモバイルデバイスが登場し、さらにFacebookやTwitterといったコンシューマサービスが先導した。こうした複数の要因が重なって、新しいコラボレーションの形としてエンタープライズのソーシャル化が進んだと考えられる」と分析する。
そしてその影響は、社内から顧客、そして情報共有から分析・改善へと広がる可能性が高い。さらにあらゆる業務アプリケーションにソーシャルやコラボレーションの機能が組み込まれていくことが考えられる。すでに開発ツールの中にも組み込まれ、稼働しているものも多く、ゆくゆくは経理や決済、営業などの他業務システムへの導入は必然だろう。
そうしたソーシャル基盤を活用することで実現しうる可能性は無限大だ。例えば、社内のコミュニケーションを分析すれば、人事や評価につなげることができるだろう。アプリケーションによる連携で在庫が減ったり、マニュアルが更新されたりすると情報がソーシャルに流れるようにしたりすれば、効率的な業務管理が可能になるかもしれない。
しかし、「決していいことばかりではない」ともいう。アプリケーションごとにエンタープライズソーシャルが入っていれば、それぞれを確認する必要が生じる。現在も業務アプリケーションにありがちな「サイロ化」で、疲弊してしまうというわけだ。
その解決法として、新野氏がイメージするのは、IBMが業務システムのサイロ化を解決するために打ち出したSOA的考え方だ。また、標準技術としてOpenSocial2.0やIDを管理するOpenID Connectなども策定されつつある。そうしたソーシャルの共通基盤によって、社内はもとより顧客までもつながる、コラボレーション環境を実現させることが理想的だという。
ただし、今はまだ黎明期であり、標準技術もどうなるか分からない中では、実際のさまざまなベンダの動向を押さえることが重要だ。そこで、主要ベンダの現状と展望についてリレートークの内容を要約してお伝えする。
グーグル株式会社 エンタープライズ部門 シニア プロダクト マーケティング マネージャー 藤井 彰人 氏
「グーグルの考え方はシンプル。コンシューマ分野で培った技術やサービスをベースに、企業向けに最適化し展開していく。単なるWeb化ではなく、人と人、人と情報のコラボレーションの重要性を認識し、業務の効率化だけでなく、イノベーティブなサービスを提供している。例えば、エンタープライズといっても対象は社内だけではない。多様なコラボレーションがあってこそ、コンシューマの変化を捉え、イノベーションが生まれると考えられる。『どこでも』『どのチームとでも』『いつでも』『どんなデバイスでも』をキーワードに、その可能性を追求していく。その一つの答えが『Google Apps』『Google Maps API, Maps Engine』や『Google+』などのサービス、APIだ。ミッションとして掲げた『世界のすべてを整理して提供する』に基づき、グーグルから提供されるさまざまなサービスやAPIを自由に融合させてコンシューマのパワーを取り込み、新しい価値を創造してほしい」
日本マイクロソフト株式会社 西脇 資哲 氏
「エンタープライズソーシャルについて、マイクロソフトが掲げる目下の目標は、社外と社内を統合し連携する環境を実現することだ。マイクロソフトは、リアルタイムコミュニケーションの『Skype』『Lync』、社内の情報共有として『SharePoint』や近年買収した『Yammer』などを持つ。加えて業務アプリケーションと連携するSFA、ERPなど、大容量データを分析可能なSQLサーバなど、さまざまな製品をトータルに保有し、シームレスに連携できることがマイクロソフトの強みだ。マイクロソフト社内で利用されていたエンタープライズソーシャルの機能などがOffice365に統合され、人、コミュニティ、ドキュメント、案件、商品などをフォローできるようになった。また『Yammer』がいよいよマイクロソフトのプラットフォームに投入される。インターフェースは変わらぬまま、ファイルなどの情報連携が容易に可能になる。そうした連携を進め、使いやすいソーシャル環境の構築に貢献していきたい」
日本アイ・ビー・エム株式会社 東京基礎研究所 村上 明子 氏
「IBMの役割は大きく2つ。1つはエンタープライズソーシャルの基盤を作ること、そしてもう一つはその基盤から得られた情報を分析しフィードバックすることである。ソーシャル成功のための4つの要素として「リーチ:どこからでもつながる」「エンゲージ:貢献する」「ディスカバリー:発見する」「アクション:行動する」を掲げている。ここで最も重要なのは『人』だ。人が集まり、活動することでコンテンツが生まれ、連携が生まれる。その人が活性化するために、ソーシャルの分析とそのフィードバックが有効となる。リコメンデーションというコンテンツもその一例だろう。もちろん人事管理などにも活用の可能性があり、リスクマネジメントとしてのソーシャル分析も必要。しかしながら、場の活性化やマーケティング、顧客満足度調査などポジティブな方面への活用を行うことで、ソーシャルな場が活性化し、有用な情報も得られるようになる。そうした分析に関する提案を研究所として行っていきたい」
株式会社セールスフォース・ドットコム 関 孝則 氏
「ソーシャルメディアで双方向の対話が可能になり、しかもモバイルによっていつでもどこでもアクセスできるようになった。そうした時代には、常にユーザーやパートナーなどの声に耳を傾け、企業としても変化していくことが重要だ。世の中のたくさんの声を分析し、企業活動にフィードバックするために、セールスフォースでは、Facebookをはじめとするソーシャルメディアを含め、全方位で顧客とコミュニケーションを取ることができる仕組みを開発した。社内ソーシャルの中核となるのは、2009年11月に発表した「Chatter」だ。人はもちろん、情報、アプリケーション、システムなどさまざまなものをフォローでき、知らない人とも情報やファイルを介してコラボレーションが可能になり、非定型な情報もファイルや会話などをフォローすることで引き継がれる。この「Chatter」を土台に、APIによって外部との連携も可能になり、権限を変えることでアクセス範囲を変えられるため管理も簡単だ。ぜひ、開放的な環境で自由につながることの可能性を実感してほしい」