クラウドが「創造するもの」は、コミュニケーションがカギに
新野氏は「成功するためには成功するセグメントにいることが大切。クラウドがもたらす『破壊』から逃れ、新しく『創造』される分野に着目し、そこに向かってほしい」と力説する。それでは、どんな「創造」が期待されているのだろう。新野氏は3つの仮説を紹介した。
まず考えられるのが新たな「サービスモデル」である。クラウドで提供することで、オンサイトのサポートが不要となり、発表の場としてもさまざまなマーケットプレイスが登場している。パッケージ展開は規模的に難しかった小規模なソフトウエアベンダでも、サービスの中身で勝負できる時代になったというわけだ。
さらに主要機能はクラウド側で実装するため、クライアント側の負荷が小さくなるという利点がある。すると「モバイルを含むマルチデバイス展開」にも大きな期待がかかるだろう。モバイルの可能性を鑑みると、現在のPCを対象にしたサービス以上の社会的インパクトも考えられる。
そしてもう一つ、「情報分析や活用」も大きな可能性を秘めている。ネットを通じて集められた、「誰が何を買ったか」「いつどのくらい人が見たか」といった膨大なデータも、クラウドであれば分散処理が可能となる。そうした「ビッグデータ分析によるサービス改善能力」が問われる時代になれば、何をどう分析するかが重要な鍵だ。「データサイエンティスト」など、分析を担う職種やサービスが重視されるようになるかもしれない。
このように、クラウドによって「サービス」の価値がダイレクトに問われる時代では、すべてコミュニケーションがカギとなる。サービスの価値を高めるためには、サービスと運用は一体化する必要があるからだ。例えばTwitterがダウンすれば、すぐになぜダウンしたのか、いつ復旧するのかなどをユーザーに向けて発信しなければならない。その対応に問題があった場合、ユーザーはすぐさまそっぽをむくだろう。迅速に適切に対応するには、開発者と顧客窓口が綿密に連携していることが必要なのだ。
ビジネス向けの「ソーシャルコラボレーションツール」が続々登場
新野氏は「サービスの価値向上を目的に、社内の業務アプリケーションのソーシャル化のニーズが高まりつつある」と語り、「2009年11月に発表されたセールスフォースの『Chatter』が業務アプリケーションのソーシャル化が進むきっかけになった」と分析する。
他にも、シスコでは「WebEX Social」を立ち上げ、IBMではかなり以前から「Project Vulcan」という業務アプリケーションのソーシャル化のプロジェクトを立ち上げている。現在個人ユーザーがほとんどのGoogle+も、まもなく企業向けに提供されるだろうというのが大方の予想だ。オラクルも2012年「Oracle Social Services」を打ち出してきたが、その中には社内のコラボレーションを促進するツールとともに、顧客とのコミュニケーションを分析する機能も盛り込んでいる。これまで開発者向けにノンオフィシャルで「Office Talk」を提供していたMicrosoftもYammerを買収し、そろそろ本気を見せつつある。
海外に目を向ければ、山ほどのツールやサービスが登場しているが、その傾向は日本でも変わらない。例えば、SonicGardenの「YouRoom」、サイボウズもグループウェアサービスの中で提供を開始した。このようにエンタープライズのソーシャル化は、明確なトレンドということができるだろう。