しかし、多くの企業が海外市場に目を向ける中、近年ではデータセンターがむしろ海外であることのメリットも注目されつつある。北米や東南アジアでのサービスを展開する場合、パフォーマンス、ネットワークのレイテンシなどから、現地や現地に近いデータセンターを利用する意義が高まっている。加えて、震災以降、ディザスタリカバリ(DR)の観点から、サーバやストレージを地理的に分散させる企業も増えている。
そのような中、北米を中心に欧州、東南アジアとグローバルにIaaS事業を展開するSoftLayer(2013年にIBMが買収)のサービスを導入した企業がある。マネージドホスティングでコストパフォーマンスに定評がある「データホテル」だ。
同社の事業開発室 シニアマネージャー/室長 冨成章彦氏に、SoftLayer導入の背景や狙いについてお話を伺った。
ビジネス規模が大きくなっても、安心してインフラ運用を一任できる
マネージドホスティングサービス「DATAHOTEL for App.」
――データホテルでは、「DATAHOTEL for App.」というサービスにSoftLayerの基盤を利用すると発表しましたが、詳しいお話を聞く前に、このサービスの概要をご説明いただけますか。
冨成氏:DATAHOTEL for App.は、ゲーム開発ベンダーやスマートフォンアプリのプロバイダー向けに、回線・サーバ・ストレージ・ミドルウェアなどのリソースを提供するサービスです。特徴は、単にホスティングでラックやネットワークを提供するというだけでなく、システム設計から構築・運用までワンストップでサポートするマネージドホスティングサービスである点です。
――DATAHOTEL for App.はゲーム開発者やサービスプロバイダー向けとおっしゃいましたが、利用する企業はベンチャーやスタートアップが多いのでしょうか。
冨成氏:そうでもありません。むしろ中・大規模システムの利用者のほうが多いと思います。DATAHOTEL for App.のようなワンストップのマネージドサービスは、インフラやリソース保持や管理運用コストが重く感じるスタートアップ層にメリットがあるのも事実ですが、その恩恵を最も受けられるのは、パブリッククラウドのIaaSのような課金が時間単位、CPU単位であるサービスが適した規模ではありません。
サービス規模や負荷がある程度のレベルを超えると、従量課金はかえって割高になります。従量課金は使わないときの無駄をはぶけますが、トラフィックのピーク付近で高止まりしているときでも同じ割合でコストが発生します。初期費用+月額方式ならトラフィックが増えるほどトラフィックあたりのコストを下げることが可能になります。
SoftLayerにより、海外展開においてもサービス品質を維持しつつ
「撤退しやすく成功時にはそのまま拡張も行える」サービスを実現
――DATAHOTEL for App.にSoftLayerを利用するに至った背景や経緯について教えてください。
冨成氏:DATAHOTEL for App.は、対コストのパフォーマンスにこだわっているので、データセンターも国内でかつ自社のリソースでのサービスを基本に展開していました。また、サーバも仮想化されたものだけでなく実機によるホスティングにもこだわっています。
しかし近年、ソーシャルアプリやゲームなどの海外進出の事例が増え、レイテンシの問題から現地サーバでの運営のニーズが高まってきています。具体的には北米や東南アジアのユーザーに自社のゲームやアプリを展開したい場合、日本のサーバだけで運用していると、国や回線の条件によって反応が遅れたりパフォーマンスがでないことがあります。ゲームなどはレスポンスが重要なものもありますから、この点は重要です。
低コストで実機サーバのパフォーマンスも得られるDATAHOTEL for App.の特徴を生かしながら、企業の海外展開のニーズを満たすため、自社のデータセンターを海外に展開するのは、膨大な投資が必要なのであまり現実的ではありません。SoftLayerのデータセンターは、北米、EU、東南アジアとグローバルに展開していて、かつ実機サーバによるホスティング基盤を提供しており、弊社の戦略やポリシーとも一致していたので導入しました。
DATAHOTEL for App.で海外展開するお客様は、現在SoftLayerの基盤により海外サーバでのサービス提供を選択できるようになっています。
――DATAHOTEL for App.のサービスでSoftLayerの基盤を使うことによる利用者のメリットはどんなところにありますか。
冨成氏:仮想サーバと実機サーバを統合された環境で使える点(補足1)は、機能テストやサービスの初期段階をスモールスタートで行い、性能テストや本運用時に実機サーバに簡単に切り替えることができます。このとき、テスト中は無料試用期間を利用してサービスイン時にDATAHOTEL for App.の課金が開始されるような使い方も可能です。このようなメリットに加え、SoftLayerならではのストレージサービス、信頼性の高いネットワーク回線、マネージドサービスといった機能を利用できます。
他にも、サーバ構成などデザインテンプレートの適用範囲が広いという特徴もあります。IaaSの種類によっては、仮想化サーバ構成などの自由度があまりないサービスもありますが、仮想サーバと実機サーバのハイブリッド環境を提供し、システム設計やサービス企画の段階からかかわることの多い弊社のマネージドサービスの場合、柔軟な構成が可能です。
SoftLayerは、「Flex Images」という技術によって物理環境/仮想環境間をシームレスに移行でき、柔軟なシステム構成を取れる特長がある。
他社サービスの導入がもたらした、自社サービス開発との相乗効果
――最後に、今後の課題や抱負、あるいはSoftLayerに対する希望などあれば教えてください。
冨成氏:ローカライズという点で細かい希望はありますが、SoftLayerのサポートは24時間体制で対応が早いので、とても役立っています。質問や問い合わせに対して翌日までには回答が得られます。また、IBMのエンジニアも技術的な質問や相談などにきちんと答えてくれています。
現状でゲームやアプリベンダーの利用者が多いと言いましたが、DATAHOTEL for App.やSoftLayerの用途はもっと広いので、今後は業務システムなどへの利用を広げたいと思っています。海外のデータセンターということを活かしてディザスタリカバリ(DR)への応用などもアピールしていきたいですね。例えば、災害などによって、国内のサーバやデータセンターがダウンした場合、海外のサーバにバックアップイメージをリストアして、すぐにサービスを再開するといった使い方です。
今回、ホスティングに外部のサービスを導入したことになるのですが、他社のサービスやシステムに触れることで、自社の既存サービスを見直したりと社内的にはいい刺激になっています。この動きを広げて、SoftLayerの機能と自社機能をもっと連携させて、サービスを拡張できたらよいと思っています。
――本日はどうもありがとうございました。