用語の話
最後に、ギア本で使われている用語の話をして終わりにします。第1章を読むと、いくつかの言葉に違和感を抱くかもしれません。なぜ、それらの言葉(訳語)を採用したかを説明します。
「テスト」と「テスティング」
最初の訳案では、これらの言葉(testとtesting)は区別していませんでした。翻訳を進めるうちに、これはニュアンスが微妙に違うなという気がだんだんとしていきました。第6章の訳が上がってきて、テストとテスティングを明確に分けて定義していることがわかり、全面的に訳を見直しました。
「典型的」
原書でexemplaryという言葉を、ギア本では「典型的」と訳しています。exampleの形容詞体で、「他の見本となるような」「見せしめ」というような意味があります。しかし、これがどうにも訳文としっくりこない。Dorothyさんに直接確認したところ、本文に出てくるレーダーチャートの指標を4つのe(effective、economic、evolvable、exemplary)で揃えたかったらしいです。
一般に正常系といわれる確認系のテストは、エラーで中断されません。複数の検証項目を途中に織り交ぜながら「正しい処理」とみなされる典型的なパターンを通るはずです。そこから「典型的」という訳を当てました。
「発展的」
原書ではevolvableです。こちらもDorothyさんに確認したところ、保守性に近いニュアンスで説明されたのですが、maintainablityと区別するために「発展性」「発展的」としました。
おわりに
ギア本の前半は古い話だから不要という方もいます。ここで挙げたような年寄りの昔話が面白かったかどうかはさておき、テストや品質の大元のところは、ギア本が刊行された1999年ごろからあまり変わっていないのかなと筆者は感じています。そういう意味でも、ギア本はいまだに有効です。第2部以降の書き下ろしの事例はまさに「今」の情報として使える情報になっていますが、その根底に流れる考え方はやはりギア本前半にあるということが伝われば幸いです。
末筆になりましたが、さまざまな方がギア本をお読みになり、ブログなどで話題に取り上げてくださいました。この場を借りてお礼を申し上げます。