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【デブサミ2015】セッションレポート(AD)

【デブサミ2015】20-D-2 レポート
サイン照合がセキュアに、紙との連携の可能性も! デジタルインクが提供する新しい付加価値とは

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 「紙に書いたものの代替」と、思われがちなデジタルインク。しかし、インクに「情報」が紐付けられたとき、紙に書いた手書きとはまったく異なる価値が生まれるという。はたしてどのような価値があるのか、その価値を引き出す技術とは何か、そしてどう活用できるのか――。2015年2月20日に開催された「Developers Summit 2015 Growth!」で、株式会社ワコムのタブレット営業本部 マーケティング部 Technology Marketing Gr マネージャーである新村剛史氏が登壇。デジタルインクの最新技術や活用法などを紹介し、活用のヒントとなるデモンストレーションを行った。

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株式会社ワコム タブレット営業本部 マーケティング部
Technology Marketing Gr マネージャー 新村 剛史 氏
株式会社ワコム タブレット営業本部 マーケティング部 Technology Marketing Gr マネージャー 新村 剛史 氏

美しい再現性と標準化を実現した「デジタルインク」を開発

 紙とペン、そしてインクによって行う「手書き」という行為。それをデジタルに置き換えるにあたり、紙はタブレットに、ペンはデジタルペンにと進化するなかで、新村氏は「デジタルインクについては、まだまだその可能性を引き出す余地が残されている」と語る。

 デジタルインクは座標や筆圧といった「情報」から成り立つ。ペンの動きに合わせて断続的に提供される「ポイント」と、一連のポイントをつなげた「ストローク」。それが最もベーシックなデジタルインクの構造である。こうしたペンとパネルからの情報をもとにソフトウェアによってレンダリング(再生成)されてはじめてデジタルインクとして再現される。優れたデジタルインクを開発するためには、ソフトウェア技術が重要な鍵となるわけだ。

 新村氏はここで「紙に書かれた手書き」と「デジタルインクで書かれた」2枚のメモを示し、その違いを強調する。いずれも書かれている内容は同じであっても、裏側にある情報量はまったく異なる。「手書き」には目に見える情報だけだが、デジタルインクには筆圧や勢い、書いた時間など様々な数値情報をメタデータとして盛り込むことができ、その活用によって認証や筆跡鑑定といった新たな価値を生み出す可能性があるというのである。

 「デジタルインクは、見えなかった情報を含めて管理することで新しい価値を創出することができる。ぜひとも、『手書きの置き換え』から、『プラスアルファの付加価値を生み出すツール』へと認識を改めてほしい」と新村氏は語る。

 しかし、そのためにはいくつかのハードルがあるという。その1つが標準化だ。これまで様々な仕様のタブレットが登場し、異なるプラットフォームをまたいで情報をやりとりするのは難しかった。画像化してしまえば編集できず、ましてデータを再利用することはできない。たとえデータを共有できたとしても、データ量が大きいなど、ネットワークを介したやりとりが急増している現在の要件を満たすものではなかった。

 そこで、Windows 8.1以降、iOS 6以降、Android 4.0以降など標準的なプラットフォームで共有できるよう開発されたのがワコムの「WILL(Wacom Ink layer Language)」だ。ブラウザ上でもWebGLとasm.jsによって動かすことが可能だという。

 そして、美しい筆跡の再現性に優れていることも特長の1つ。通常、iOS、Windowsともそれぞれ再現性に癖があり、滑らかに表現することが難しい。「WILL」はそれを技術によって補足し、美しい曲線や跳ね、払いを再現することができるという。

 「ポイントの座標を中心に筆圧に応じた円を描き、そのつながりの輪郭をベクターデータで補完する。それによってアウトラインの美しい線を書くことができる。また、指の場合は筆圧が取れないため、スピードで擬似的な筆圧を再現し、同様に補完することができる」と新村氏は技術的な仕組みについて解説する。

 この技術によって、美しい再現性を実現するだけでなく、データ量も飛躍的に軽量化できる。つまり、通常の画像化されたデータでは、少ないストロークでもデータ量は大きくなってしまう。しかし「WILL」では、軽量なデータ形式で、保管はもちろんネットワーク送信も容易に行えるという。新村氏はデモンストレーションで、画像化されたデータと比較して1/250のデータ量で同様の滑らかな筆跡を再現した。さらにAndroidで書いたものをネットワークでiOSへ送信し、ほとんど時間的誤差を生じさせることなく再現するなど、その効果を示して見せた。実用化がかなえば、別々の場所であっても、インターネットを通じて複数名がほぼ同タイミングで議事録に書き込むこともできるというわけだ。

ネットワークを通じてデータを配信し、異なるデバイス上でリアルタイムに筆跡を再現
ネットワークを通じてデータを配信し、異なるデバイス上でリアルタイムに筆跡を再現

 そしてもう1つの特長として、新村氏が上げるのが冒頭「データの埋め込み」である。前述したように「WILL」は筆跡の中に「いつ、誰が、どこで」といった情報をメタデータとして埋め込むことができる。その活用によって、特定の筆跡のみを抽出したり、多くの筆跡データを解析したりすることができるというわけだ。今はまだ画像データと切り離した活用はできないが、今後はデータのみを取り出して加工することも取り組んでいきたいという。

筆跡の中に「いつ、誰が、どこで」といった情報をメタデータとして埋め込み可能
筆跡の中に「いつ、誰が、どこで」といった情報をメタデータとして埋め込み可能

紙との連携やデータの活用で広がる「デジタルインクの実用化」

 データの軽量化と再現性に優れ、OSやプラットフォームの境界を越えてデジタルインクを活用できる「WILL」。その活用、応用によって、どのようなことが実現できるのか。新村氏は「ぜひ一緒に考えてほしい」と呼びかけながら、具体的な活用イメージとヒントを紹介した。

 まず一つ目の着眼点は「アナログとデジタルの融合」だ。2014年のワコムの調査では、まだまだ「手書き」が好まれる傾向があり、それは基本的にはいつの時代も変わらないと考えられている。そこで、紙の書き心地を活かしたまま、デジタルデータのメリットを利用する、つまりは”いいとこ取り”をしようというわけである。

 たとえば「紙の下に敷く、センサーが入ったクリップボード」や「ペン先がボールペンになっているデジタルペン」などで、紙に書く感覚でデジタル化ができればどうだろう。紙に書いたものをデジタルに変換し、さらに文字変換を行えば、正しいかどうかの判定が用意になる。さらには書き順など、これまで見えていなかったものについても情報を得ることができる。

 これが実用化すれば、テストの答案の丸付けも簡便になり、宅配便の受け取りサインも効率的に管理できる。紙で書く必要があるシーンで、紙で書きつつ、デジタル化することで、新しい価値を得ることができるというわけだ。

 そしてもう一つ「照合アルゴリズムの活用」も大きなポイントだろう。たとえば、従来のサイン照合は、「目に見える視覚情報」であるため、まねることがさほど困難ではない。しかし、デジタルデータであれば、目に見える筆跡に加え、空中筆跡、筆圧、速さなど、非視覚情報も含まれており、それらを活用する「動的サイン照合」によって、より精度の高い照合が可能になる。ただし、日本を含めたアジア言語の場合、ストロークが短く、特徴が出にくいため、さらに精度を高めるための今後の技術開発が必要だという。

非視覚情報に基づく照合アルゴリズムの活用で、より精度の高いサイン照合が可能に
非視覚情報に基づく照合アルゴリズムの活用で、より精度の高いサイン照合が可能に

 とはいえ、そうしたデジタルデータを保有していること自体が、セキュリティを高める効果があるようだ。たとえば、スペインの銀行ではデジタルインクによるデータ保有によって、偽造などの抑止力が高まり、たとえ偽造事件があっても裁判になる前に解決するようになったという。

 新村氏は最後に「今後、デジタルインクは多方面で活用され、様々な価値を生み出すことは間違いない。ぜひとも、皆さんの技術力と多彩な連携の中から新しい価値を見出して欲しい」と、会場に向けてデジタルインクのさらなる活用を訴え、セッションを終えた。

 なお、「WILL(Wacom Ink layer Language)」は下記のサイトにて情報を提供しているとのこと。興味のある人は、チェックしてみてはいかがだろうか。

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