クラウドを前提とした初のメジャーバージョンアップ
リレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)は、米IBMサンノゼ研究所のエドガー・F・コッド博士が1970年に発表した論文「A Relational Model of Data for Large Shared Data Banks」で提唱したリレーショナルモデルを、コンピュータ上で利用できるように実装したものだ。その意味で、IBM DB2は、数あるRDBMSの中でも最も正統な血筋の製品といえるだろう[1]。
そのDB2の新バージョン11.1が6月にリリースされた。現行バージョン10.5のリリースが2013年6月だから丸3年ぶりのことだ。その間にIaaSベンダのSoftLayerを買収するなど、IBMはシステム基盤の主軸をクラウドへと切り替えている。つまり、バージョン11.1は、クラウドの巨大コンピューティングリソースの上で稼働させることを前提に含む、初めてのメジャーバージョンアップなのである。
イートン氏はインタビューの中で、DB2バージョン11.1(以下、単にv11という)での新機能として次の4つを紹介してくれた。
- ペタバイト級のインメモリ・ウェアハウジング
- インメモリデータベース機能や列(カラム)指向のデータ管理機能を実現するBLUアクセラレーション[2]が、数千台のサーバーを1つの単位として運用可能にした。
- 超並列処理が可能なアナリティクス機能を組み込み
- R言語やNetezzaのアナリティクス技術(将来予測など)がDB2上で利用可能になった。BLUアクセラレーションが提供するMPP(Massive Parallel Processing:超並列処理)機能により、数千台のサーバーに展開して処理を実行できる。
- 暗号化キー管理の一元化に対応
- KMIP 1.1プロトコルをサポートし、暗号化キー管理の一元化に対応した。エンタープライズシステムをハイブリッドクラウド(オンプレミス+クラウド)で稼働させる場合、システム内にある多数のアプリケーションやサービスで使われる暗号化キーの管理が課題となる。KMIPはそれらの暗号化キーを中央サーバーで保管し、管理者にかかるその運用の負担を軽減する。
- 可用性の向上
- 同社の連続稼働ソリューションであるDB2 pureScaleに、DB2の高可用性災害時リカバリ(HADR)を組み合わせて使えるようにし、顧客ビジネスを止めないようにした。
中でも注目したいのは、数千台のサーバーを1つの単位として適用可能になったBLUアクセラレーションである。これはクラウドを前提にしないと必要とは思えない規模への対応だ。スマートフォンの普及により、現在でも膨大な量のデータが集まってきているが、IoTが本格化すればさらに大きく膨れ上がるだろう。もちろん、大規模データを保管できるだけでは意味がない。だから、BLUアクセラレーション上でR言語やNetezzaのアナリティクス技術を利用可能にした。
また、災害時などでもビジネスを止めることなく大規模データを運用可能にするには、新技術の導入が必要だったのかもしれない。DB2 pureScaleとHADRのテクノロジーの組み合わせも、処理性能の向上と並行して実現された。クラウドの導入により、いっそう大規模化・複雑化するシステムで増す安全性確保の負荷を軽減するため、暗号化キー管理の一元化にも対応した。
いずれの新機能もクラウドだからこそ必要なものばかり。DB2 v11はクラウドの利用拡大後に初めてリリースされたバージョンとして、やはりクラウド上での稼働を最優先に考えられたRDBMSなのだ。
クラウド最優先という点は、DB2のライセンス料にも反映されている。v11から導入された「仮想プロセッサー・コア(VPC)課金」というライセンスでは、動作環境のコア数という共通の月額料金体系でどこでもDB2を使用できる。比較的安価だといい、Amazon Web Services(AWS)やAzure上でもこのライセンスの下で手軽にDB2を使用できるという。
注
[1]: 正統性は使用可能なSQLからも伝わってくる。DB2で使用できるSQLの文法は、米国の標準化団体ANSIが定める標準構文に最も準拠しているといわれている。
[2]: DB2 BLUアクセラレーション機能の詳細は、EnterpriseZineのこちらの記事の解説がわかりやすい。