「働く場所の自由化」実現への障壁
サイボウズはワークスタイル変革の一環として「働く場所の自由化」を掲げており、こちらは先ほどの「ワークスタイル変革の3要件」を満たしていれば実現できるように思えます。それについて岡田氏は、「3要件がそろっている今のサイボウズでは実現できている。しかし、グループウェアしか存在していなかった10年前のサイボウズでは不可能だっただろう」と、当時を振り返りました。そして「働く場所の自由化」実現への変革を行っていく上で、以下の障壁があったと説明を続けました。
チームの作業効率低下
対面コミュニケーションができず、目の前にいる人に話し掛けている状態ではないので返事待ちの状態となってしまう。また、必要な会議に参加できないケースも発生し、情報格差が生じてしまう。
情報漏洩リスクの増大
「持ち出しPCの紛失」「公衆無線LANの利用で通信傍受される」「クラウドサービスのアカウントが乗っ取られる」などの懸念がある。
心身への悪影響
制度を利用したことで特別扱いされ、周囲の目が気になってしまう。自己管理が苦手な人は「働き過ぎる」「メリハリがつけられない」などの状況に陥ることも。
マネジメントの難易度上昇
働きぶりや勤務時間が分からないため、成果で評価する必要が出てくる。これにより、職種によっては評価が難しくなる。また、マイクロマネジメントができないなど、マネージャーとしての自己変革が求められる。
これらの“障壁”はどんな会社であってもぶつかり、越えなければならないものです。しかし岡田氏は「チームや会社によって、スタートラインも乗り越えなければならない壁も違う。『うちには無理だ』と思うのではなく、1つずつクリアしていくことが大事」と、課題解決に対しての心構えを説きました。
「働く場所の自由化」が企業を救う
「働く場所の自由化」というと、よくありがちな“勘違い”も出てきます。「社員のQOL(Quality of Life:幸福度、満足度)のためだけの制度だ」といったものや、「みんなが同じ場所で働くのが一番良いに決まっている」などの意見です。最近も外資系の企業でリモートワークが禁止されるなど、話題となりました。これについて岡田氏は「勘違いだと思う」と、自らの意見を述べました。
岡田氏は「働く場所の自由化」がもたらすメリットとして3つの要素がある、と実例を挙げて説明しました。
1つ目は「生産性の向上」。宅配便荷物の受け取り等、ちょっとした理由で休まないといけない状況が発生するのはもったいないことです。その人が休みたいのであれば良いのですが、休むつもりもないのに必要に駆られて休日を取得することになってしまうのは不便です。
また、普段1時間で出勤できるところが台風などで交通機関が麻痺し、びしょ濡れになりながら2時間掛けて出勤し、疲れてしまっては仕事になりません。在宅勤務が可能であれば、そもそも出社しなくても良い、という判断も下せます。視野を広げ、生産性向上について考えてみるということがポイントだということです。
ちなみにサイボウズでは台風が来ると社長の写真がリツイートされるそうです。これは数年前、翌日に大きな台風が来るという日に受けたニュースの取材で「明日(従業員は)ほとんど来ないんじゃないですかね」と、語ったときのものです。実際、当日に出社した社員は全体の半分程だったといいます。
2つ目は「災害への対応」。大地震が発生すれば交通機関が長期間ストップする可能性もあります。その間、社員が出社できず業務遂行が難しくなれば会社へのダメージも大きくなるばかりです。
2011年の東日本大震災でも、会社によっては(出社するために)ホテルに泊まったケースもあったようです。しかし岡田氏は、「それは違うのではないか。オフィスへの出社をSPOF(単一障害点)になってはダメで、出社しなければならない理由を減らすべきでは」と、意見を述べました。
3つ目は「人材の確保」。少子高齢化が叫ばれる現在、何もしなければ労働人口、すなわち社員は減り続けてしまいます。一方で、UターンやIターン、在宅勤務等を必要とする人はいるはずです。「会社として、そういった人たちの受け皿になれるかどうかということが、社員を減らすことなく成長を保ち続けられるかどうかのポイントになるのではないか」と、コメントしました。
さいごに
岡田氏は最後に「Uターン/Iターンしたい、在宅勤務したいという申し出は、どの会社でもありえることだと思う。昨今は世論の後押しもあるので、その申し出をチャンスと捉えて課題を1つずつ解決し、会社として前に進んでいってほしい」とコメントし、セッションを締めました。