データサイエンティスト、AIエンジニアに求められる3つのスキル
先の事例からもわかるように、すでに多くの業務の現場で、これまで専門家や専任の担当者が行っていた業務を、過去のデータを活用することでAIに置き換えている。そして、それを実現するのがデータサイエンティストやAIエンジニアの役割だ。
データサイエンティストやAIエンジニアの仕事は本来、「データサイエンス、ビジネス、データエンジニアリングという3つのスキルをカバーすることが求められる」と安部氏は説明する。
データサイエンスのスキルとは「情報処理、人工知能、統計学などの情報化学系の知恵を理解し、使う力」。ビジネスのスキルとは「課題背景を理解した上で、ビジネス課題を整理し、解決する力」。データエンジニアリングのスキルとは「データサイエンスを意味のある形に使えるようにし、実装・運用できるようにする力」である。
データサイエンティスト、AIエンジニアそれぞれで、この3つのスキルの習得具合に強弱はある。AIエンジニアであれば、「データエンジニアリングをベースとして、ビジネスやデータサイエンスの課題を解決できる人材」ということだ。
もちろん、1人でこれらすべてをカバーするのは難しいため、「組織としてこの3つをカバーできればいい」というのが安部氏の意見だ。一点注意すべきなのは、データサイエンスはデータサイエンス、エンジニアリングはエンジニアリング、ビジネスはビジネスというように、それぞれが専門に特化してしまい、お互いを理解し合わない体制ができてしまうことだ。そうなると、なかなかデータ活用が進まなくなる。「無理解の壁をなくすことが大事」と安部氏は指摘する。
補完し合えるチーム編成ができると、どういうことが可能になるか。例えば、AIエンジニアがビジネスの知識を獲得すると、ビジネス上の課題を実装により解決できるようになる。その一方で、データ活用の根拠が弱いため、データサイエンスを得意とする人が手助けすればいい。また、データサイエンスとデータエンジニアリングのスキルがあれば、データ活用についてはデータ活用の根拠に対する理解が深く、実装もできる。しかしビジネス課題の設定・理解は弱いため、ビジネスサイドの人たちと協力することでデータ活用ができるようになる。
データサイエンティスト、AIエンジニアの生存戦略
では、これからデータサイエンティスト、AIエンジニアとして生き残っていくためにはどうすればいいのだろうか。エンジニアリングのスキルを得意とするAIエンジニアの場合は、それを核に「ビジネスもしくはデータサイエンスいずれかの専門性を身につけること」と安部氏。そして残りの2つのスキルのいずれかの選択においては、自分および一緒に仕事を進めるパートナーが持っているスキルを把握し、それを補完するようなスキルを見極めることが重要になる。安部氏は「そうすることで市場価値を高めていくことができる」と力強く語る。
また現在、Webアプリ開発など、AIやデータサイエンスに携わっていないエンジニアが、AIエンジニアに転身することはできるのか。高坂氏は「PHPなどでアプリ開発をしていた40歳前後のエンジニアが、AI系職種に未経験で転職した成功事例がある」と話す。自分が持っているスキルをきちんと把握し、足りないスキルについては「これから学んでいく」というチャレンジ精神が買われたとのことだ。
安部氏も、「データ活用の場面では、エンジニアリング力は非常に重要になるので、すでにそれを身につけていることはすでに大きなポイントになる。その上で大事になるのは、他の2つのスキル領域に対して排他的にならないこと」と語る。
現在、数多く求められているAIエンジニアやデータサイエンティストだが、今後の需要についてはどう予測しているのか。「データ活用、AI活用はバブル的な匂いを感じる人もいるが、それらの成功事例ができるとその分野においては当たり前となる。そういう世界観ができると、データサイエンティスト、AI人材はこれからも求められていく。そのためにも、今、優れた人がこの業界に入ってきてほしい。そして、どんどん良い事例を作り、AI人材、データサイエンス人材の需要を伸ばしていってほしい。今が正念場なので」と安部氏は熱く語りかけた。
AI活用がこれからどうなっていくか、「本当のところはわからない」と両氏。だが、AIやデータサイエンスに関する知識を習得していることは損にはならないという。
「今日1日で終わるのではなく、AIやデータサイエンスに関する情報収集をするといった次の行動がキャリアを変える一歩になるはずだ」高坂氏は最後にこう会場に呼びかけ、セッションを締めくくった。