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開発現場のストーリーから学んで実践! 最初で最後のカイゼン・ジャーニー

「カンバン」で目指すカイゼン~1人ではなくチームであることを選ぶ

開発現場のストーリーから学んで実践! 最初で最後のカイゼン・ジャーニー 第2回


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解説:「カンバン」

今回の解説は、御涼が担当しますね。

今回の解説は、御涼が担当しますね。

次から次へと発生するタスクに追われて現場仕事をこなしている人も多いのではないでしょうか? 片瀬のように気が利きすぎて、仕事ができるほど頼りにされ、依頼がどんどん押しよせてタスクを抱え込んでしまう傾向にある人も多いでしょう。個人で仕事をこなすことで成果を上げるよりも、抱え込んでいるタスクを見える化してチームで成果を上げることが、組織としては重要です。それが、組織で働くことの強みなのですから。

今回は”カンバン”という現状の仕事の進捗や流れをボード上で見える化する、チームの仕事管理術の方法を解説していきます。カンバンは、機能(フィーチャー)やタスク、チームの状況の透明性を上げ、価値創造へのカイゼンが進む強力なプラクティスです。

カンバンの例
カンバンのコンセプト

どんなときに効果的?

個人でもチームでも、こんなときにカンバンを使っていきましょう。

個人でもチームでも、こんなときにカンバンを使っていきましょう。


 

カンバンが必要な状況

  1. タスク忘れや遅延が頻発している
  2. 完了したかが分からないタスクが散見される
  3. 隣のメンバーが何をやっているのかが分からない
  4. 個人が集まっただけの組織でチームとして機能していない
  5. チームでタスクの負荷の偏りがある
  6. 依頼が次から次へと発生して一部のメンバーだけが疲弊している
カンバンが必要な状況
カンバンが必要な状況 

なぜやるの?

カンバンをやる目的はなんでしょうか?

カンバンをやる目的はなんでしょうか? カンバンを形式的に導入さえすれば、チームで成果が上がるわけではありません。解決したい課題にフォーカスを当てながら導入し、運用していきましょう。組織の背景により異なりますが、主な目的は下記の通りです。

看板をやる目的
カンバンをやる目的 

1.情報ラジエーターで見える化

 情報ラジエーターとは、自動車の給油や水温などの警告灯や表示灯のように現状の重要な情報を表示するという意味です。見えないものや言語化されていないものは把握しづらいでしょう。他人の考えていることや実施していることは、露出しない限り伝わらないのです。よって、簡単に把握できるように、情報発信地としてカンバンを使い、業務やタスクの状況の透明性を上げるのです。

Point

  • アイデアが生まれてから本番リリースするまでの、価値の流れを表現する
  • メンバーのタスクの状況を見える化して共通認識を得る
  • 仕事の状態の全体を俯瞰して見える場を作り出す
  • 日々の進捗を自分たちで管理する

2.流れの管理と価値提供スピードアップ

 組織の中で重要なのは個人プレーではありません。組織全体で顧客価値を創出するために提供スピードを上げ、成果を上げることが重要になります。

 プロセスに目を向ければ、手戻りが多発している箇所、レビューなどで待ち時間が発生している箇所、後続のプロセスに負荷をかけすぎて根詰まりを起こしている箇所など、流れを悪くしているところが見つかるでしょう。未完了のタスクやテストが完了していない成果物は倉庫に眠っている在庫と同じで、顧客価値は何も生み出していないのです。流れをせき止めているボトルネックに焦点を当て、仕事の流れをスムーズにしていきましょう。

Point

  • タスクが滞留している場所やボトルネックを検知する
  • 流れがスムーズになるように整理して待ち時間や手戻りを減らす
  • 顧客に価値を届けるスピードを上げる視点を組織で持つ
  • デリバリーまでのスピードを上げるべくサイクルタイムの短縮を目指す
  • WIP(Work in Progress:仕掛かり作業)制限で業務切り替えのスイッチングコストを下げる
  • 期間やタイムボックスではなくWIP制限でタスクの量を管理する
  • チームでWIP制限を用い、個人で抱え込んでいる過負荷を下げる
  • 顧客価値に直結しているか業務プロセスのカイゼンを常に考える

3. チームワーク醸成

 カンバンは個人でも有用ですがチームで取り入れるとチームワークも醸成できます。コミュニケーションの場が存在せず、タスクの共有ができていないと、サポートして良いのかすら分かりません。何が遅れているのかも把握しづらいでしょう。仕事が上司や上流工程から降ってくるようなプッシュ型ではなく、手の空いた人が自らタスクを引き取っていくプル型のスタイルに変え、助け合うチームへと変化させましょう。チームの総力で成果を出すためにも、カンバンでコミュニケーションの場を作り、それぞれの得意分野で力を発揮して、チームとして機能させ業務を推進させていきましょう。

Point

  • チームメンバーの総力で仕事の成果を出す
  • 遅れているタスクを全員でフォローし合う
  • タスクの平準化でムラをなくす

 流れを見える化すれば、同じレーンにある付箋紙が留まり続けている状態がひと目で分かり、ボトルネックやシグナルを検知できるでしょう。メンバー間に潜んでいたお互いの期待値、ゴールイメージや判断基準などのギャップが浮き彫りになり議論も発生します。議論して、ギャップを埋める意思決定ができればメンバーで同じゴールに向き直れるのです。これは、チームでカイゼンする絶好のチャンスになります。

 チームで同じ全体像を意識しながらゴールに集中することは、当たり前のようで意外とできていないことが多いのです。カンバンによって、過負荷なメンバーの状況を見える化し、仕掛かり作業を制限し滞留を減らし、助け合うチームへと変化させることができます。

作成手順

今いるところから表そう

今回はポジティブな行動特性の勢いをそのまま削ぐことなく、やりっぱなしを軌道修正するためのふりかえり方法を紹介します。YWTを使ったふりかえりが、今回のシチュエーションには良い選択だと思っています。さて、YWTとはどんなふりかえり方法なのでしょうか?YWTとは、英語ではないんです。日本語で、Yatta(やったこと)、Wakatta(わかったこと)、Tsugi(次にやること)の頭文字なのです。

カンバンでは、横軸で時間を表現し、フェーズやステージの状況をレーンとして管理します。全体把握のために現状を見える化すれば良いので、プロジェクトの現状を変える必要はなく、始めるのがプロジェクトの初日である必要もありません。プロジェクトのどのタイミングからでも作成・運用可能です。

また、リーダーが主導でカンバンを作るのではなく、メンバーが自分たちで管理する自分たちのカンバンを作りあげましょう。自分たちでその背景を知っているので目的にあった手段のカイゼンアイデアも生まれやすく、愛着も芽生えるのです。

事前に決めておくこと

 以下の部材を用意すると良いでしょう。

  • 付箋紙(強粘着 75mm × 50mm、50mm x 50mm)
  • サインペン(人数分)
  • 模造紙 or ホワイトボード
  • タイマー(スマホ)
 

メンバーのスケジューリングと場所の確保

  • 実施時間:1時間~1時間30分程度

カンバンで管理する対象範囲の決定

 カンバンの目的や概要を事前に決めて、メンバーに周知しておきましょう。

 初めて実施する場合には担当プロジェクトのメンバーで集まり、抱えている既存のタスクを対象にカンバンで管理すると良いでしょう。

設置場所

 日々運用していくためには、カンバンの前にメンバーが集まりコミュニケーションしていくことが重要です。なるべくメンバーの自席の近くで設置できる場所を確保しておきましょう。

事前準備
事前準備 

当日の流れ

 当日の大まかな流れは以下の通りになります。

  1. オープニング(1~5分)
  2. 抱えているタスクの書き出し(10~15分)
  3. カンバンレーンの作成(15~30分)
  4. タスクのマッピング(10分)
  5. WIP制限の管理(10分)
  6. デモンストレーション(10~15分)
  7. クロージング(1〜5分

1. オープニング(1~5分)

 肩肘張らずに気軽にタスクを露出することを促しましょう。レーンの種類や付箋紙のフォーマットなどを含めて、プロセスカイゼンすることも目的のひとつであれば、失敗や正しさばかりに気を巡らせなくても済みます。カイゼンする際のそれぞれの気づきや学びを大事にしましょう。

 「せっかくなら『現状を見える化する』ことをゴールにして、完璧なものを作ろうとせず、まず1週間やってみましょう」とファシリテーターから伝えましょう。

2. 抱えているタスクの書き出し(10~15分)

 完成させる機能(フィーチャー)に対して、開発工程とデプロイ工程ではタスクが異なるでしょう。機能とタスクは分けて付箋紙に記載し、タスク管理をしていきます。機能(フィーチャー)に付随するタスクがすべて完了したら、機能(フィーチャー)のみがレーンを移動していく仕組みです。

 それでは、対象の機能(フィーチャー)とそのタスクを付箋紙に一つずつ書き出していきましょう。他の人が読めない字では透明性の威力が半減してしまいます。丁寧に書くように促しましょう。

  • 大きいサイズの付箋紙に手がけている機能(フィーチャー)を書き出しましょう。※図では黄色の付箋紙
  • その機能(フィーチャー)のタスクを小さいサイズの付箋紙に書き出します。※図では緑色の付箋紙
  • 待ち状態のものも仕掛かり中のものも、現在抱え込んでいるすべてのタスクを付箋紙に書き出しましょう。※図では緑色の付箋紙

 付箋紙に記載する際には下記をファシリテーターから伝えてください。

  • 付箋紙1枚につき、タスクを1つ書くようにします。複数のタスクは複数枚に記載しましょう。
  • 仕事を細分化しタスクの進捗や達成を毎日確認できるように、タスクの粒度は1日以下になるように6時間、4時間、2時間、1時間の単位にします。
  • タスク内容をすべて書くよりも、メンバーに伝わるキーワードを書きましょう。

3. カンバンレーンの作成(15~30分)

 業務のワークフローをレーンにマッピングします。フェーズやステージを洗い出しレーン名にしていきます。ワークフローの作業単位を細分化することを意識すると良いでしょう。ステージの状態も検討するとカンバンのメリットである流れを管理しやすくなります。慣れないうちは、TODO、DOING、DONEのシンプルなタスクボードから始めてみるのも手です。

  • 時間軸とワークフローをイメージしながらフェーズやステージをレーン名にして、ホワイトボードにレーンとして記載しましょう。
  • 各ステージのタスクの状態に着目して分割してみましょう。待ち状態(Ready)、仕掛中(DOING)、完了(DONE)など、チームの文脈に合ったレーン名を使いましょう。
  • 付箋紙に書き出したタスクをレーンに流してみて、実際の業務に合っているか確認し、レーンを追加、修正、削除しましょう。
カンバンのレーンの例
カンバンのレーンの例 

4. タスクのマッピング(10分)

 各レーンに現在のタスクの状況を反映させていきます。上がより優先順位が高く、下が低くなるようにします。

  • 付箋紙に書き出した機能とタスクのセットをレーンにマッピングします。
  • 貼り付けながら他のメンバーに簡潔に説明しましょう。
付箋紙を貼り出した例
付箋紙を貼り出した例 

5.WIP制限の管理(10分)

 タスクや仕事の結果は、次の工程、もしくは顧客の手に渡って初めて価値が生まれます。仕掛かり途中の作業をなるべく減らすように、チームでルール化することが大切です。

 複数のタスクに同時に着手するのではなく、今の作業に集中して、ひとつひとつのタスクを終わらせることから始めるのです。チームの状況により、必ずしもWIP制限が1がベターなわけでありませんが、初めて実施する際には、おのおのが着手できるタスクは1つから始めてチームでのWIP制限数を割り出しましょう。

  • タスクが滞留している箇所を見つけます。
  • 流れがスムーズになるようにWIP制限を考えましょう。
  • "○○中"という進行状態で滞留している箇所に着目してWIP制限を決めましょう。
  • 決定した数値をレーン枠にWIP制限数として書き込んでおきましょう。
  • おのおのの着手中のタスクを明確にするために付箋紙にマグネットを置きましょう。
アバターで仕掛中の印をつけWIP制限数とタスクのマッピング結果
メンバーを模したマグネットで仕掛中の印をつけ、WIP制限数とタスクをマッピング

6.デモンストレーション(10~15分)

 カンバンを作成した段階で、簡易朝会を開催して日々の進捗確認を試しにやってみましょう。翌日の朝会のリズムを簡易的に体験しておくことで、明日から邁進できそうだとモチベーションを上げていくのです。

 ファシリテーターとして下記を1人ずつ問いかけてみましょう

1. 「本日、すでに仕事が進捗しているタスクがあれば、その付箋紙を移動させてください」

 付箋紙を移動させ進捗を確認し、達成感を味わいましょう。

2. 「現在実施中の付箋紙に指をさして説明してください」

 タスクの状態を全員に共有します。指をさしながら説明することで、話す言葉だけよりも情報量が増えます。また、全員の目線を集めることで、上位職者への説明という形ではなく「課題vsわれわれ」の構図が作りだせます。

3. 「不安になっていることはありますか?」

 タスクの進捗だけでなく、タスクのゴールが見えているか、チームで共通認識が得られているかのチェックにもつながります。他のメンバーの支援・協力などにもつながるように促しましょう。

7.クロージング(1~5分)

 デモンストレーションも終わり、運用していく感覚がつかめれば十分です。顔をカンバンに向ければ全体を俯瞰できることが分かっただけでも大きな前進です。日々のカイゼンに向けてメンバーを勇気づけて終わりましょう。

 最後に、事前に決めておいた設置場所にメンバー全員で配備しましょう。

次のページ
日々の運用とふりかえりで相乗効果

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この記事の著者

市谷 聡啓(イチタニ トシヒロ)

 ギルドワークス株式会社 代表取締役/株式会社エナジャイル 代表取締役/DevLOVEコミュニティ ファウンダー サービスや事業についてのアイデア段階の構想から、コンセプトを練り上げていく仮説検証とアジャイル開発の運営について経験が厚い。プログラマーからキャリアをスタートし、SIerでのプロジェクト...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

新井 剛(アライ タケシ)

 株式会社ヴァル研究所 SoR Dept部長/株式会社エナジャイル 取締役COO/Codezine Academy Scrum Boot Camp Premiumチューター CSP(認定スクラムプロフェッショナル)/CSM(認定スクラムマスター)/CSPO(認定プロダクトオーナー) Javaコンポー...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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