漢字に迷ったら引く
文章を書いていて漢字に迷ったら、辞書を引きましょう。漢字が書けないというのはIMEのおかげでなくなりましたが、どっちの漢字か分からないことはいまだによくあるでしょう。
例えば、タイトルにした「辞書を曳く」は変だと思うでしょう。「辞書は引くものだ」と。では、「曳く」や「牽く」などはどういうときに使えるのでしょう? キャンピングカーは「引く」ものでしょうか、「曳く」ものでしょうか、それとも?
この頃のIMEは、候補に用例も出してくれます。じつは、「引く」/「曳く」/「牽く」の使い分け程度なら、それで分かることも多いです。例えば、次の画像はWindows 10標準のIMEの場合です。
牽く
引っ張って前進させる.⇒引く.「車を*牽(=引)く.」 *常用外曳く
引っ張る,引きずる.⇒引く.「船を*曳(=引)く.」 *常用外引く
〔一般的〕「くじを引く,辞書を引く,人目を引く,身を引く.」
これを見ると、「キャンピングカーは車だから『牽く』だ!」と分かりますね。
なお、「常用外」というのは、「常用漢字表に載っていない漢字」という意味です。メディアによっては、常用外は使っちゃダメというところや、独自の常用漢字表を持っていてそれ以外の漢字はダメというところもあります。
さて、もしもIME候補で分からなかったら、辞書の出番です。「ひく」や「引く」をググってみてください。いくつか辞書のWebページが見つかります。
辞書によっては、「曳く」/「牽く」は常用外と示しているだけのものもあります(次の画像)。これでは、どういうときに使えるのか分かりませんね。だから良くない辞書というわけではないですが、今回の探索目的には合っていません。
次の画像の辞書では、ところどころに二重山括弧「《》」で括って漢字が書いてあります。凡例(はんれい)を見ると「二つ以上の漢字表記がある語で、語義によって用い方が異なる場合」にその漢字を表示しているとなっています。
これを見ると、「牽く」は「貨車を牽く」のように、荷車(にぐるま)/貨車/橇(ソリ)などに使えると分かります。「曳く」は、荷車/貨車/橇などに加えて、「馬を曳く」/「裾(すそ)を曳く」などとも使えます。
さらに上の辞書には、今回のタイトルにした「辞書をひく」場合も載っています。⑫のところに「辞書・索引などを参照する。 《引》 『辞書を-・いて調べる』」とあります。使う漢字として「《引》」だけが示されていますから、「曳く」/「牽く」は使えなくて、「辞書を引く」と書くんだと分かります。
また、辞書によっては、使い分けを載せているものもあります(次の画像)。これはちょっと古いのですが(1998年発行)、私の使っている学研国語大辞典です。
「引く」は、自分のほうに来るように動かす意で、一般に広く使われる。
かつては
「=曳く(後ろに付けて進む)」
「牽く(=前から力を加えて前進させる)」
「惹く(=注意や心を向けさせる)」
「退く(=後ろにさがる、とおざける)」
「抽く(=引き出す)」などと使い分けがなされてきたが、
現在はおおむね「引く」でまかなう。
※太字は筆者による。また、適宜改行を挿入した
このような使い分けの解説が見つかったら、ラッキーです。この例だと、(昔は使い分けていたけど)「現在はおおむね『引く』でまかなう」と分かりました。つまり、「なんでも『引く』でOK、こだわりたいときに調べて使えばいい」ということですね。
このように、辞書には使い分けの指針が書いてあったりします。使い分けに迷ったときは、いくつか辞書を引いてみましょう。そのものズバリの指針が見つからなくても、意味ごとに漢字を示してある辞書はきっとあります。
探索の目的によって辞書ごとに向き/不向きがあります。「こういうことを調べるときには、あの辞書がいい!」という、あなたのお気に入りの辞書を見つけてください。