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【デブサミ2019】セッションレポート

かつてなく盛り上がったITエンジニア本大賞、技術書とビジネス書の大賞は?【デブサミ2019】


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 2019年2月14日、ITエンジニアの祭典「Developers Summit 2019」にて、翔泳社が主催する「ITエンジニアに読んでほしい! 技術書・ビジネス書大賞 2019」の決選投票イベントが開催。会場では著者や編集者によるプレゼンを経て、技術書部門には『エンジニアリング組織論への招待』、ビジネス書部門は『イシューからはじめよ』が大賞に。その様子をお届けする。

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 東京のホテル雅叙園東京で開催された「ITエンジニアに読んでほしい! 技術書・ビジネス書大賞 2019」は、今年で6回目の開催となる。「出版社や刊行年は問わず、この1年を振り返っておすすめしたい技術書・ビジネス書」をITエンジニアの投票によって決めるイベントで、今回も1月まで各部門ごとに一般投票を受けつけていた。

 なんと今回は前回の2倍もの投票数となり、より多くのITエンジニアが本に注目している状況が浮き彫りになった。その投票をもって得票数の多い順にベスト10が決定。そのうち上位3タイトルずつが会場でのプレゼンと決選投票に臨むことになる。

 プレゼンでは著者や編集者に本の読みどころや狙い、込めた想いなどを発表してもらい、聴講者と特別ゲストが投票。各部門とも、最も得票の多い本が大賞を受賞する。

 特別ゲストはスマートニュースの瀬尾傑さん、アトラクタの永瀬美穂さん、ジュンク堂書店の平木啓太さん。自身がエンジニアであったり、IT技術や本に造詣の深い方が集った。より大きな会場に舞台を移した今年は、どのようなプレゼンが行われたのか。大賞とともに紹介していきたい。

 なお、今回初めてイベントの様子がニコニコ生放送で中継された。

技術書部門

エンジニアリング組織論への招待 ~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング~
広木大地、技術評論社

カイゼン・ジャーニー たった1人ではじめて、「越境」するチームをつくるまで
市谷聡啓&新井剛、翔泳社

ゼロから作るDeep Learning 2 ――自然言語処理編
斎藤康毅、オライリー・ジャパン

ビジネス書部門

RPAの威力 ロボットと共に生きる働き方改革
安倍慶喜&金弘潤一郎、日経BP社

イシューからはじめよ ――知的生産の「シンプルな本質」
安宅和人、英治出版

1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術
伊藤羊一、SBクリエイティブ

バグを憎んで人を憎まず 『エンジニアリング組織論への招待』

広木大地さん
広木大地さん

 最初に技術書部門のプレゼンが始まった。登壇したのは『エンジニアリング組織論への招待』の著者、広木大地さん。広木さんが本書を書いたのは、2025年以降は毎年12兆円の技術的負債による経済的損失があまり騒がれないこと、そして失われた20年はまだ続くのかという強い問題意識から。その解決策として、自身が実践するエンジニアリング組織についてまとめたそうだ。

 本書はエンジニアの組織論ではなく、あくまでもエンジニアリング全般の組織論。エンジニアリングとは、広木さんによれば不確実性を減らすことだ。組織やプロジェクトという複雑な存在には必ずつきまとう不確実性に対し、どのように向き合っていくか。その処方箋が書かれた本だということになる。

 不確実性の大きな原因は未来と他人。それらに向き合ったとき、人は心理的安全性を確保するために闘争するか逃走することを選んでしまう。広木さんは、そうではなく仕組みで解決しなければならないと強調。問題は人間の心理面が悪く作用する構造やアーキテクチャにあるのだ。

 そうした悪い構造をよい構造にするのがリファクタリングの役割である。広木さんは発生してしまうバグは仕方ないものだとし、バグを憎んで人を憎まず、コンピュータと人間の新しい関係を作るために本書を役立ててほしいと語った。

現場で越境しようとしている人へ 『カイゼン・ジャーニー』

市谷聡啓さん
市谷聡啓さん

 次に登壇したのが『カイゼン・ジャーニー』の著者である市谷聡啓さんと新井剛さん。2人は本書を「現場で越境しようとしているITエンジニアのための本」だと位置づける。本書は目次に象徴されるように、まず1人からカイゼンを始めていく。そしてチームを作り、さらにその枠を広げてみんなで現場、そして会社をカイゼンしていく様子が描かれる。

 本書の特徴はストーリーパートと解説パートが交互に展開されること。ストーリーでは状況や背景が描写され、現場で疲弊している主人公たちに読者が共感できる作りになっている。より効率的に能動的に仕事をする環境を作り、よいプロダクトを開発していくために試行錯誤する主人公の思考や学びが追体験され、解説パートでの実践方法をより深く理解できる。

新井剛さん
新井剛さん

 では、本書で言うジャーニーとは誰の旅なのか。著者の2人は、自分たちがこれまで関わってきた人たちとの記憶を盛り込んで描いたと話す。様々な出会い、問題だらけでも乗りきった事件、そうした経験が詰まった現場を下敷きにして、読者にカイゼンの旅を伝えた本を作ったそうだ。

 本書の発売後、いろいろな人にそれぞれのジャーニーについて話してもらえたという。つまり、ジャーニーは現場で越境してカイゼンしようとしている人の数だけ存在する。この場が皆さんの新たな旅の始まりとなりますように、と2人は話を締めくくった。

作れないものは理解できない 『ゼロから作るDeep Learning 2』

斎藤康毅さん
斎藤康毅さん

 技術書部門の最後に登壇したのが、前作が同賞2017で大賞を受賞した斎藤康毅さん。前作は10万部を突破したベストセラーで、画像認識をテーマにディープラーニングを学べる本であった。画像認識自体は2012年にブレイクスルーが起き、2015年に人間の能力を上回ったそうだ。

 近年、自然言語処理にもディープラーニングが活用されるようになり、目覚ましい発展を遂げている。人間の言語をコンピュータで扱えるようになりつつあり、機械翻訳や対話システム、検索エンジンも性能が大幅に向上しているそうだ。本書『ゼロから作るDeep Learning 2』はこの自然言語処理をテーマにし、ディープラーニングを学べる1冊となっている。

 斎藤さんは前作と同じく、「ゼロから作る」というコンセプトを大事にしたと強調する。ディープラーニングは高度な技術に思えるが、それを理解しようとするにはどうすればいいのかというと、ブラックボックス化したツールを使うのではなく、自分が理解できるツールを使って作ってみることが需要だそうだ。斎藤さんはリチャード・ファインマンの言葉を引用し、「作れないものは理解できない」と述べる。テキストを読んで表面的に理解したつもりになるのではなく、作って仕組みを理解する過程が大切なのだ。

 また、繋がりのない技術を並び立てるのではなく、読み進めれば関連する技術を順番に学んでいけるストーリーを意識したという。プレゼンの最後を飾ったのは、本の帯にも登場し、以前のプレゼンでも強調された「作る体験はコピーできない」という言葉だった。

デジタル改革にみずから携わってほしい 『RPAの威力』

安倍慶喜さん
安倍慶喜さん

 ここからはビジネス書部門のプレゼンを紹介する。最初に登壇したのは『RPAの威力』の著者の1人、安倍慶喜さんだ。安倍さんはまず、本書のテーマであるRPAやAIの発展で進行する第4次産業革命が終わると、これまでと同じビジネスのやり方では生き残っていけないと強い問題意識を示した。

 競争に勝つには生産性を高めないといけないが、日本企業の生産性は低い。だから、RPAに大きな注目が集まっているという。ソフトウェアやロボットに人間の作業を代替させる仕組みをRPAと呼ぶが、今では単純作業だけでなく判断を伴う仕事もこなせるようになってきている。となると、人間の仕事がどんどんなくなっていくのだ。

 安倍さんは会場の聴講者に「皆さんの仕事はどうなるのか、奪う側か奪われる側か」と問いかけた。AIと組み合わさったRPAが普及したあと、人間の行うべき仕事とは? それは、デジタルレイバーを使いこなすか、0から1を作ることだ。日本で働く全員に、こうしたデジタル革命を進めることに携わってほしいと安倍さんは語気を強めた。

それは本当にイシューなのか? 『イシューからはじめよ』

山下智也さん
山下智也さん

 2番目に登壇したのは、『イシューからはじめよ』を刊行した英治出版の編集者である山下智也さん。著者でも担当編集でもない立場で恐縮だと話していたが、今回のプレゼンでは20万部に到達した本書を読んだ読者と、編集者の目線からの感想が述べられた。

 本書はバリューのある仕事とは何かという命題に向き合った1冊。2010年の刊行からAmazonレビューは209件(2月14日時点)まで蓄積し、その中で「犬の道」に言及されている感想が印象的だったそうだ。犬の道とは、本当に解決すべきイシューを見つけようとせず、周りで目についた些末な問題にもがむしゃらに突撃し、解の質だけを上げようとする道のこと。本書では、バリューのある仕事をするにはまず向き合うべきイシューの質を高め、そのあと解の質を高めなければならないと説く。

 いい仕事をしたいという思いだけではバリューのある仕事はできない。山下さんは本書が突きつける「それは本当にイシューなのか?」という問いは生涯の問いだと感銘を受けたそうだ。日々の業務をこなしていると何がイシューなのかを考える時間がなくなってしまう。イシューであるかどうか判断せず取り組んでしまうこともしばしば。そうした状況を改め、今真に取り組むべきイシューを見極めることができればバリューのある仕事を生み出せる、本書を日々の仕事に活かしてほしいと語り、プレゼンを終えた。

誰も話すことが上達する 『1分で話せ』

多根由希絵さん
多根由希絵さん

 ビジネス書部門の最後を飾るのが、刊行1年弱で25万部を突破した『1分で話せ』。プレゼンターは担当編集者の多根由希絵さんだ。本書に掲載されている「報告がだらだら長い部下」の例は、実は多根さんのことだという。

 多根さん自身、本書を読んで要点を端的に伝えられるようになったと話す。話がわかりにくいと言われた人に読んでもらいたい、とプレゼンも約1分で締めくくられた。

大賞は『エンジニアリング組織論への招待』と『イシューからはじめよ』

 聴講者による投票を終え、まずはゲストによる特別賞が決定した。瀬尾傑さんが選んだのは『イシューからはじめよ』。永瀬美穂さんは『ゼロから作るDeep Learning 2』、平木啓太さんは『エンジニアリング組織論への招待』を選んだ。

 これらの結果を受けて、いよいよ両部門の大賞が発表された。

 ビジネス書部門の大賞は、もはや歴史に残る名著と言っても過言ではない『イシューからはじめよ』となった。著者と担当編集者の代わりにプレゼンを行った山下さんは「これからも長く読まれる本にしていきたい」と意気込みを語った。

イシューからはじめよ

 技術書部門の大賞は、いずれも得票が僅差だったそうだが、『エンジニアリング組織論への招待』に決定。著者の広木大地さんは朝からデブサミ会場の物販コーナーで本の手売りをしていたそうで、そうした地道な活動が実った形。広木さんは「ソフトウェアとビジネスの部門は一見離れているようで、実は近いところにあり、生産性を妨げるいがみ合いは隠れた構造に原因がある」と改めて語り、「みんなで考えて解決していこうというテーマの本が受賞して嬉しい」とコメントをしてくれた。

エンジニアリング組織論への招待

 今回の両部門ベスト3を眺めると、技術書とビジネス書の境界が以前より曖昧になってきているように感じられる。大賞を受賞した『エンジニアリング組織論への招待』もまさにそうした1冊であり、純粋なIT技術の解説書だけでなく、ビジネス領域も加味した本も求められているようだ。

 実際、翔泳社でも技術書の売上は出版不況と言われる中でも成長している。技術書典という技術書中心の同人誌即売会も活況著しい。これは情報が多くなりすぎている時代において、本というまとまりのある情報媒体が必要とされていることの表れだろうか。いずれにせよ、多くのITエンジニアが本で勉強する今、読者の皆さんも気になった本があれば気軽に手に取ってみてもらいたい。

ITエンジニア本大賞 特設ページへ

技術書部門

エンジニアリング組織論への招待 ~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング~
広木大地、技術評論社

カイゼン・ジャーニー たった1人ではじめて、「越境」するチームをつくるまで
市谷聡啓&新井剛、翔泳社

ゼロから作るDeep Learning 2 ――自然言語処理編
斎藤康毅、オライリー・ジャパン

ビジネス書部門

RPAの威力 ロボットと共に生きる働き方改革
安倍慶喜&金弘潤一郎、日経BP社

イシューからはじめよ ――知的生産の「シンプルな本質」
安宅和人、英治出版

1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術
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この記事の著者

渡部 拓也(ワタナベ タクヤ)

 翔泳社マーケティング課。MarkeZine、CodeZine、EnterpriseZine、Biz/Zine、ほかにて翔泳社の本の紹介記事や著者インタビュー、たまにそれ以外も執筆しています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

関口 達朗(セキグチ タツロウ)

フリーカメラマン 1985年生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。大学卒業後、小学館スクウェア写真事業部入社。契約満期後、朝日新聞出版写真部にて 政治家、アーティストなどのポートレートを中心に、物イメージカットなどジャンルを問わず撮影。現在自然を愛するフリーカメラマンとして活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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