マネジメントって、楽しい! 5つのポイント
山本氏の現在の主な仕事は、ヤフーの持つテクノロジーやカルチャーの魅力を発信することと、エンジニアが活躍しやすい環境作りを推進することだ。
2004年から開発エンジニアとしてキャリアをスタートし、2012年にヤフーに入社した山本氏。ヤフーでもプレイヤーとして活躍したいと思っていたが、最初に携わったプロジェクトでアジャイルとスクラムに出会い、新しいことにチャレンジしたい思いからスクラムマスターを担当することとなる。これが、山本氏が人やチームに向き合う方向へとシフトチェンジを果たすきっかけとなった。
以降、プロジェクトマネジメントやエバンジェリスト、セールスエンジニアを担当する中で、エンジニアとして社内外の人と向き合う職務を全うしてきた。そして2017年、エンジニアリングチームのリーダーに就任し、ピープルマネジメントの責務を負うことになり、2018年に現職に就任している。
そんな山本氏が声を大にして訴えるのが「マネジメントって、楽しい!」ということだという。山本氏が考えるマネジメントの楽しさとは次の5点だ。
- 1人じゃできない大きなことをやるのって楽しい
- 適材適所でチームワークが上手にハマると楽しい
- チームを信頼した結果、想像を超えるアウトプットが出てくるとテンションが上がる
- ピープルマネジメントの観点でメンバーと対話を繰り返し、メンバーの成長やキャリアが叶うとうれしい
- チームのみんながワクワクした状態でものづくりに打ち込めたら最高
「そもそもエンジニアリングが楽しいのだから、エンジニアリングの成果をより高度化するためのエンジニアリングマネジメントが、楽しくないわけがないじゃないですか」(山本氏)
しかし、世間一般的にマネジメントに対する印象は、必ずしも良くないことが多い。山本氏が社内外のマネジメント志向の薄そうな若手エンジニアに、マネジメントに対する印象を聞いてみたところ、「エンジニアを諦めた人のキャリア」「人の評価が大変」「達成感や成長の実感が薄そう」といったネガティブな答えも返ってきたと言う。
「この前提があるままピープルマネジメントに関するHow toを語っても、『苦しみながら、なんとかしのいできました』といった、マイナスをゼロに戻す印象にしかならない。まずは、これらのネガティブな印象をできるだけフラットに近づけるところから始めたい」と山本氏は語る。
「マネジメントは楽しい」と断言できる理由(1)
マネジメントに対するネガティブな印象を覆すべく、山本氏は3つの問いを立てた。ひとつずつ見ていこう。
1.なぜマネジメントの道に進んだのか?
先に紹介した通り、山本氏がマネジメントの道を歩むきっかけとなったのは、「何事にもチャレンジしよう」の精神でスクラムマスターに挑戦したことだった。そのときスクラムガイドを読み、“自己組織化”されたチームへの憧れを強く抱いたのだという。
「それまでは、あくまでも自分のパフォーマンスが上がれば、価値につながると信じていましたが、“自己組織化”されたチームで誰かBossがいるわけでもなく、自分たちで意思決定をして、何か問題が起きたら自分たちで解決しながら、より強く成長していくって、めちゃくちゃカッコいいと思ったんです」(山本氏)
また、当時山本氏が学んだのが、「パフォーマンスの方程式」(Stephen P. Robbins and Timothy A. Judge, Organizational Behavior, 2001 より)である。これによって、チームのパフォーマンスを決める要素には、“自分ががんばる”以外にもあることに気づいたのだ。
「決してエンジニアを諦めたわけではなく、個人からチームへと関心がシフトしたのと、チームを成長させるという考え方に感銘を受けたのが、僕がマネジメントにギアチェンジした理由でした」(山本氏)
「マネジメントは楽しい」と断言できる理由(2)
2.人を評価することについて、どう考えるか?
「初めてピープルマネジメントをするときに、評価することに対する恐怖感がすごかった」と振り返る山本氏。その危機感から評価制度をしっかりと読み込み、どうすれば納得感を持ってもらえるかと考えたところ、定期的な中間評価を自然と行うようになったという。
試行錯誤の中でたどり着いたのが、“評価の本質とは給与を決めることではなく、期待値と現状認識のすり合わせである”といった考え方だった。人事考課は、あくまでも結果にすぎないのだ。
「評価は、個人の成長やキャリアを支援する行為の1つ。役割分担にすぎないと思えば、心が軽くなりました」(山本氏)
3.マネジメントの中で達成感や成長を感じる瞬間は?
山本氏の考えでは、プロダクトやプロジェクトに対して感じるユーザーが増えた、納期が守れたといった達成感は、プレイヤーとマネージャーの間に差はないが、個人として感じる達成感には少し違いが生じるのだという。
パフォーマンスの方程式を分解すると、プレイヤーとマネジメントでは、成果の出しどころが異なることがわかる。プレイヤーに求められるのは、自身の生産性を上げることであるのに対し、マネジメントに求められるのは、共同作業によるシナジーの最大化である。
「成果の出しどころは違えど、課題を解決する意味では何も変わらない。ただマネジメントの達成感においては直接的な貢献ではないのがもどかしいところではあると思います。とはいえ、マネジメントの達成感や成長は、自分の分だけでなくメンバーの数だけ濃くなる。プレイヤーよりもマネジメントのほうが、達成感や成長を感じるサイクルは早いと思うくらい、楽しい仕事です」(山本氏)
ヤフー流、成長支援で大切にしている2つのポイント
そんなマネジメントの仕事をもっと楽しくするためには、メンバーの成長支援が欠かせない。山本氏は成長支援において大切なこととして、「学ばざるを得ない状態を作ること」と、「成長に気づいてもらうこと」の2点を挙げた。
そもそも成長支援がなぜ必要かといえば、“成長の実感がある”といった理想の状態と、現状の間にギャップがあるからだ。つまり、「1.何をどう学べば良いかわからない」「2.学んでいるはずなのに成長の実感がない」といった状態に陥っていると言い換えられる。
まず「1.何をどう学べば良いかわからない」悩みを抱えがちなのは、組織に新しく入ったメンバーであり、ティーチングが有効であると山本氏は説く。しかし、ティーチングだけでは自発的な行動につながりづらい。そこで学ばざるを得ない状態を作って自らの行動をあおるのだ。
「人は危機感を抱くと行動します。僕もスクラムマスターに進んで手を挙げてしまったときに、相談する相手が周りにおらず、社外のコミュニティに助けを求めました。そんな行動をとったのは初めてです。『自分が勉強しないとみんなに迷惑がかかる』状況になれば、人は必ず行動を起こす。あえてその状況を作ることが大切です」(山本氏)
ただし、その際に注意しないといけないのは、危機感による行動は持続性がない点だ。“学んだことがすぐに仕事に生かせた”といった即効性のあるポジティブな体験を作ってあげることも、同じくらい大切だと山本氏は強調する。
次に「2.学んでいるはずなのに成長の実感がない」のは、ベテランで同じ案件に長くいる人が抱きがちな悩みだ。これにはコーチングが有効であると山本氏は話す。
0→1の変化はわかりやすいが、10→11の変化は差分が小さくわかりづらい。このジレンマを解消するため、ヤフーではエンジニア組織だけでなくすべての部門で1on1を採用している。成長に対する気づきを加速させるためだ。
さらに、エンジニアがアウトプットできる環境作りにも全社で積極的な取り組みを進めており、全国で技術コミュニティを立ち上げ、エンジニアの成長へとつなげている。興味のある人は「connpass」でヤフーのアカウントをウォッチすると良いだろう。
最後に「マネージャーという言葉が悪さをしていると思っているので、今日もなるべくマネージャーという言葉は使いませんでした。僕は、あくまでもマネジメントをするプレイヤーだと思っている。マネジメントの楽しさにフォーカスを当てることで、マネジメントというキャリアを選択肢から外す人を減らしていけたら」と語り、山本氏は講演を締めくくった。
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