フロー状態の心の中で描く
一般的なクリエイターやビジネスパーソンは、自己実現と承認欲求のバランスに苦しんでいるように思う。自分らしい仕事がしたい、それによって社会や周りから認められたいというのが理想ではないだろうか。しかし、日々の業務が単調なものに感じられたり、今と違うことにチャレンジしようとすると後ろ指を刺されている感覚に陥るのが現実かもしれない。
この連載でキーワードとして掲げているのは、自分のWorkを作品と捉え、自己表現として働くこと。
デッサンやアート制作では、ひとつの色や線の軸に合わせて周辺を描き足したり、微修正を重ねて作品を仕上げていく。仕事も同じように自分の軸を定め、周りを巻き込みながら日々のPDCAを改善していくことで、自分らしい仕事につながっていくのだと思う。
自分らしく働くためには、他人の軸に惑わされることなく、自分で最高の状態として自身のマインドも描いていく必要がある。
心理学者のミハイ・チクセントミハイ氏は、著書『フロー体験 喜びの現象学』のなかで、自分の最高状態を発揮している状況を「フロー」という概念を提唱している。フロー状態では、周りが見えなくなるほど集中し、どんな苦労でもその経験そのものを楽しみとして感じているという。
このようなフロー状態を意図的につくりだすために最初にすべきことは、自分を認識することでだ。そして、現在の自分と理想の距離が遠いほど、マインドセットが重要になる。どんなに忙しくてもマインドセットを習慣化すれば、新しいアクションに前向きに取り組むことができる。マインドセットにあわせて振り返りを習慣化することで、その効果は増大する。
自分が誇れるキャリアやアウトプットはこの1年以内のものか、今年身についた新たなビジネススキルは何か、といった年単位の振り返りから、自分の制約がプロジェクトの制約になっていないかという日々の振り返りまで、定期的な内省により新しい未来の輪郭が表れる。
質の高い経験を積み重ねる
当然すべてのアクションが成功に直結するわけではない。時代とタイミングが早すぎたことから、受け入れられなかったものもある。たとえば、アートの世界ではゴッホなど一部のアーティストは死後に評価を高めていたり、ビジネスの世界でも最初は市場にフィットしなかったものが、競合の参入やキャズムの壁を超えると急速に拡大することもある。
自分の軸が周りから認められなかったり、受け入れないことはとても不安になるが、時間をかけてその軸を磨いていくことで、他人には簡単に真似できない強みに変わっていくのだ。
そのためには、やはり時間がかかる。たくさんの失敗と向き合わないといけない。これまでの成功体験すら手放すシーンが現れるかもしれない。だからこそ、経験と時間の密度がもっとも大切である。1年という短い時間を最大限に活かす質の高い経験を毎年積み上げることが長期的には圧倒的な強みに変わるのである。
自分には特筆すべき強みやキャリアがないと焦っている人も当然いるだろう。だが、どんなクリエイターやビジネスパーソンも、理想と現実のギャップにジレンマを感じている人は多いのではないだろうか。だからこそ、まずは自分の心と向き合うこと。それが、仕事を作品に変えていく第一歩である。