ギブアンドテイクじゃなくて、ギブギブの精神が新たなキャリアを開く
――ふりかえりの重要性を広げる活動の原動力は何ですか?
森:実はDevLOVE関西の発表では、ふりかえりではなく、アジャイルな価値観を実現するための働き方や仕事の進め方を話していました。DevLOVE関西をきっかけに社外の人と話すことが多くなり、話を聞いていると、ふりかえりそのものを改善してる人があまりないことに気づいたんです。
「イベントをやったら、次やるときにはどうすればいいかな」「ここがうまくいった、ここをもうちょっと変えてみるといいかも」というのを日常的に書きためていることを、とあるイベントの中で話したら、「すごいね、見せてほしい」と盛り上がり、自分がやっているふりかえりに価値があることに気づきました。じゃあ、ふりかえりのことをもっと発信してみようかなと思うようになりました。
そして、2017年12月にアジャイルひよこクラブで、ふりかえりのテーマでLTすることになったんです。ふりかえりに価値があることに気づいてはいるものの、何かその行動に至っていない人って結構多いのかなって思いまして。私がふりかえり好きだったのもあって、それからずっと発信し続けるようになりました。
ふりかえりが楽しいからそのために働く。ふりかえりを糧に生きてるみたいな感じになってきて、「ふりかえり駆動開発」と当時言ってましたね。
――これまでキャリアや強みを築く上でこれまで心がけてきたことは?
森:入社してからずっと、「自分の専門性は何だろう」と考えていました。同期はサーバーなら任せろとか、ネットワークは任せろという、スペシャリストが多かったので彼らに埋もれずに、自分の価値を出すにはどうすればいいんだろうって。
当時はふりかえりなんて思いつきもしませんでしたし、今得意としてるファシリテーションなんて、ファの字も知りませんでした。プロセス改善、マネジメント……いろいろ試しながら、自分が現場で最大限の価値を出せるやり方を常に考えていました。
自分が周りに価値を与えることができるものは何かを意識しながら発信する。それが私のキャリアを築く原動力であり、大事にしてきたことですね。
もう1つ大事にしているのは、人との出会いやつながりです。仕事で一緒に働いて戦友になった人たち、アジャイルコミュニティで出会った人たちとはずっとつながっていますし、情報交換しています。
技術コミュニティの人たちってギブアンドテイクじゃなくて、ギブギブなんですよね。基本ギブの精神なので、何かギブするからテイクするのではなく、とにかく与えまくる印象があります。私もコミュニティだけではなく、社会に対してもそれを続けていきたいです。
自分が持ってる知識をどんどん吐き出し、そしてまた出会った人たちとつながり、ネットワークが広がっていく。どんどん増えていくつながりを大事にして、その中で自分ができることを与えられること、ギブできることって何なんだろうと考え続けてきたからこそ、今のキャリアが築けたと思っています。
発信することで、自分の価値や強みに気づくことができる
――新しいことへのチャレンジを考えている若手デベロッパーへアドバイスをお願いします!
森:私がこうした場で話せるようになったのは、自分の経験に価値があることに気づき、ふりかえりを通じて自分やチームの未来を考える活動を続けてきたからです。だから、私からのアドバイスは、「ふりかえりをしましょう」。
もう1つは、アウトプットすることです。皆さんは「自分がやってることなんて大したことない」と思っているかもしれません。でも実際はそうじゃないんです。周りの人からすれば、値千金の情報になりうるし、あなただからこそ考えられたことがあるはずです。
これに関しては年次なんて関係ないと思います。人それぞれの強みや特性、育ってきた環境があります。その全ての複合があるからこそ生まれる考え方なので、それをぜひいろいろな人に伝えてほしいです。どんな小さなことでもいいので、まずは発信してみましょう。
Twitterでつぶやく、LTで話してみる、周りの誰かに考えていることを伝えてみるでもいいと思います。想いを伝える活動を続けていけば、その想いを受け取り、つながりが広がって、新しいステップアップを開くための糸を垂らしてくれる人も出てくるでしょう。人によっては、転職や仕事のステップアップにつながることもあるかもしれません。まずは勇気を持ってアウトプットしてみることが、新たなキャリアを開く道につながると私は信じています。
――最後に今後の目標や展望を聞かせてください。
森:当面の目標としては、日本全国に楽しいふりかえりをもっと広げることです。そもそもふりかえりの効用を知らないで苦しんでいる人たちがたくさんいますし、過去の私のようにまだまだネガティブな印象を受け持っている人も少なからずいます。そういった人たちにも届くように、引き続き楽しくふりかえりをして、チームをよくする啓蒙活動をしていきたいです。
また、ITに関係なく職種を超えてふりかえりがその起点になるように活動を続けていきたいですね。何年後にはふりかえりなんて当たり前になっていて、ふりかえりという言葉すらなくなってるかもしれません。日本をよくしていく活動の一環として、そうした未来を作ることが今後の展望です。
――森さん、貴重なお話をありがとうございました!