企業が捉えるべき、今後起こりうる3つのフェーズ
――クリエイターは、メタバースやVRをどのように捉えればよいのでしょうか。
企業が開催するカンファレンスを見ていると、Microsoftも2022 年の提供開始を予定している 「Mesh for Microsoft Teams」でメタバースにも注力していくことを発表したり、アドビが主催するイベント「Adobe MAX」でもメタバースとNFTは重要視されていました。今後、メタバースが普及すれば、VRであるかARであるかに関わらず、すべてのデザインが3Dになります。「ARグラス」が使われるようになるのも、そんなに遠くない未来だと思いますし、3Dの技術を身につけておくのも良いでしょう。
また、NFTの作品を作ってみたり、VRコンテンツを楽しむなど、まずは実際に手を動かしたり触れてみることをオススメします。すでに利用しているクリエイティブ系のツールを活用しながら、Unreal EngineやUnityといったゲームエンジンも非常に重要になると考えています。
――では企業は、今後の変化をどのように考えれば良いのでしょうか。
VRやARが普及するフェーズをイメージしてみると、大きく3つに分かれていると思います。
ひとつめは、ゲーム機としての成功です。ゲームはほかのエンタメ産業と比べても市場規模が非常に大きい。そのなかで、PlayStation VRはすでに500万台を販売し、Meta Quest 2は2021年の年末あたりに1,500万台に達するかもしれません。たとえばPlayStation 2、Nintendo Wii、PlayStation 4、Nintendo Switchなどの累計販売台数は、1~1.5億台規模。1億台までいくと現在のゲームマーケットが見えてくるのではないかというのが、ひとつの大きなゴールだと感じています。これは4~5年先とそれほど遠くない未来に見えてくるはずです。中国をふくめて考えると、もう少し早いかもしれません。
ふたつめは、ゲーム以外のユーザーをいかに巻き込むかです。ポイントはふたつあり、ひとつはビジネスにおける「生産性向上」です。ZoomやPowerPointが置き換えられ、企業で使用されるようになるのではないでしょうか。もうひとつは「教育」です。たとえば化学であれば、元素記号を立体で見たほうがよりわかりやすいかもしれません。PCやタブレット市場も取れるようになると、VR市場もさらに何倍にも伸びてくると考えています。こちらも3~5年くらいで変化があると思います。
3つめのフェーズは、スマートフォンに並ぶこと。そのためには、極めてクオリティが高い「ARグラス」を待つ必要があると思っています。わざわざ集まらなくても、リアルと遜色なく飲み会を楽しむことができたり、そうなった時には、ユーザーがVRなのかARなのかを選べるかもしれないですね。
この3つめのステップに到達するまでは、少し時間がかかるでしょう。いよいよ2022年にMetaとAppleが初期型のARグラスを発売すると言われています。Microsoftの「HoloLens」や、Snapchatを提供するSnapも「Spectacles」を、またポケモンGOを開発したナイアンティックも着手していますよね。
価格や軽さ、デザイン、あとはバッテリーの持ち具合など技術的な課題はまだまだありますが、とくにバッテリーは、現状だと数時間程度で充電が切れてしまうのではないでしょうか。いまはVRゲームを1時間すると体力的に疲れるためちょうど良いかもしれないですが、ARグラスでスマホの代わりになっていくなら、少なくとも半日はバッテリーを持たせなければいけない。そう考えるとARがスマホに置き換わるのは、早くても10年後になるのではないかと想像しています。ただ、“イケてるARグラス”が登場し、最先端のテクノロジーに興味がある人たちが使っているという状況は、3年後くらいに訪れるのではないでしょうか。
――最後に、Thirdverseの展望や今後のお取り組みについてお聞かせください。
2021年10月末にFacebookが社名を「Meta(メタ)」に変更したことでメタバースにもいっそう注目が集まりました。Meta Quest 2の売れ行きが好調で1,000万台が見えてきたことで、ビジネスとしての確信が持てたのではないでしょうか。
決算説明会でも、いままではひとまとめにしていた新規事業関連のトピックをしっかり独立させていました。一度オープンにすれば、これからもずっと情報や数字をこまかく開示し続けなければなりませんよね。そのことからも、強い覚悟を感じました。
僕がgumiを辞めてから、Thirdverseのほかに、FiNANCiEというブロックチェーンベースのクラウドファンディングの会社、gumi Cryptosというクリプト系に特化したファンドという3つにおもに取り組んでいますが、最終的に実現したいことは、映画『レディ・プレイヤー1』に登場するVR空間「オアシス」のような、独立した完全な仮想世界をつくることです。
ここがマーク・ザッカーバーグ氏と僕とで決定的に異なっている点です。彼は、リアルなアイデンティティとアバターを使い、スマホだけではなくてVRでもスマホでもARグラスでもどこにいても人がプレゼンスを感じながら集まることができるFacebookのメタバース版をイメージしているのではないかと思います。
一方、僕が取り組みたいことは、バーチャル世界に入ったときに、容姿や人種、性別を変えることができたり、猫や犬になることができたり、自身のアバターを自由に選ぶことができる、バーチャル空間上のコミュニティづくりです。
今のリアルな世界は、ひとつの外見にひとつの性格、ひとつのコミュニティ、ひとつの経済圏に縛られているように思います。それを「今日は可愛いルックスにしようかな」、「明日は威厳のある容姿にしよう」といった、複数の外見や複数の性格、複数のコミュニティ、複数の経済圏を自身の選択で自由に選んで生きることができる “仮想世界”を作っていきたい。そういったバーチャルファーストな空間で、世界中の70億人と簡単につながれるような世界を実現していきたいですね。
――國光さん、ありがとうございました。