はじめに
本連載では、マルチプラットフォーム化が進む.NETと、そのWebアプリケーション開発フレームワークであるASP.NET Coreの全体像を俯瞰します。ASP.NET Coreは、アプリケーションの目的や開発スタイルに応じて選択することができる多彩なサブフレームワークを搭載しています。それらの基本的な性質や機能を読者に示すことで、ASP.NET Core導入の一助になることを目的とします。
対象読者
- 「Core」以前のASP.NETに慣れ親しんだ方
- Web開発の新しい選択肢としてASP.NET Coreを理解したい方
- ASP.NET Coreの多彩なフレームワークを俯瞰したい方
必要な環境
本記事のサンプルコードは、以下の環境で動作を確認しています。
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macOS Big Sir / Windows 10 (64bit)
- .NET SDK 6.0.100
- Google Chrome 96
.NETの全体像
ASP.NET Coreの理解には、そのベースとなる.NETへの理解が欠かせません。まずは、.NETについて見ていきましょう。
.NETとは
.NETは、Microsoftが設立した.NET Foundationによって提供されている、アプリケーションフレームワークのオープンソースプロダクツです。オープンソースであるのですべてのソースコードは公開されており、MITライセンスおよびApache 2ライセンスに従い、誰でもその機能を利用することができます。
.NETは、アプリケーションの動作基盤であり、開発環境でもあります。さまざまな種類のアプリケーションを動作させることができ、それらアプリケーション開発のためのツールが提供されます。最新版は、2021年11月にリリースされたばかりの.NET 6です。
.NETが動作と開発をサポートする主なアプリケーションの種類は以下のとおりです。
- クラウドアプリケーション(Azure)
- Webアプリケーション(ASP.NET、Blazor)
- デスクトップアプリケーション(MAUI、WPF、WinForm)
- モバイルアプリケーション(MAUI、Xamarin)
- ゲームアプリケーション(Unity)
- IoTアプリケーション(ARM32、ARM64)
- AIアプリケーション(ML.NET)
.NETはマルチプラットフォーム対応であり、WindowsはもとよりmacOS、Linux、Android、iOSなどのためのアプリケーションを、提供されるSDK(ソフトウェア開発キット)を用いて開発することができます。さらに、クロスプラットフォームにも対応しており、たとえばWindows用の.NETでモバイルアプリケーションの開発を行うことも可能です。プロセッサ・アーキテクチャとしては、x64/x86とARM64/ARM32に対応しています。
開発環境としては、CLIベースのツールが提供され、プログラミング言語としてC#、F#、Visual Basicが利用可能です。さらに、GUIによる開発環境として別途Visual Studioが提供されます(WindowsとmacOSのみ)。ただしVisual Studioはオープンソースプロダクツではなく、Microsoft社の有償の製品となっています(一部無償利用が可能)。
CLIベースのSDKは、Microsoft社の提供するコードエディタであるVisual Studio Code(以下、VSCode)から利用することも可能です。VSCodeは無償で利用できるので、本連載では基本的にSDK+VSCodeによる開発を紹介し、一部オプションとしてVisual Studioにおける開発を紹介していきます。
[NOTE].NETと.NET Coreと.NET Framework
.NETという名称は、最新の.NET 6ではオープンソースのアプリケーションフレームワークの名称として使われていますが、よく似た.NET Frameworkや.NET Coreという名称がかつてから存在し、少々紛らわしく感じられる状況になっています。
.NET Frameworkは、2002年に登場したWindowsプラットフォームのためのアプリケーション基盤です。かつては.NETといえばこの.NET Frameworkを指し、現在もWindowsアプリケーションや古いWebアプリケーションを動作させるために使われています。
その後、2016年にMonoなどの成果を取り込んでオープンソース化とマルチプラットフォーム化を行った.NET Coreがリリースされました。.NET Coreはバージョン3.1までリリースされ、次のバージョンに相当する.NET 5では、Coreの語が名称に含まれなくなりました。.NET Frameworkは、.NET 5と同様に.NETの実装のひとつとして.NETに含まれる形になっています。この流れが現在の.NET 6に続いています。
なお、.NET Frameworkは機能強化がないものの、Windowsプラットフォームのみにて提供される実装として、引き続きサポートされることがMicrosoft社によって示されています。
本連載では、.NETと言えば.NET 6を指すものとして、特に断らない限りはこの名称を用いていくことにします。
.NETの構成
.NETでは、各プラットフォームで共通の基本ライブラリ(API)が中心となります。すべてのアプリケーションは、その種類にかかわらず、この基本ライブラリのAPIを呼び出すことで動作します。
また基盤として、ランタイム、コンパイラなどのツール、プログラミング言語が用意されます。
ランタイムには、プログラミング言語間の差異を吸収する共通言語ランタイム(CLR)が含まれます。プログラミング言語の種類にかかわらず、プログラムは共通中間言語(CIL)に変換され、CLR上で動作することで相互の呼び出しなどを可能にしています。
プログラミング言語としては、Microsoft発のC#、F#、Visual Basicに加えて、Pythonなどの使用も推進されるようになりました。たとえばこのPythonでは、Python.NET(pythonnet)が有志によりリリースされており、C#からPythonのコードを利用することなどが可能になっています。
[NOTE].NET 6におけるVisual Basic
Visual Basicは.NET 6においても引き続きサポートされていますが、その用途はコンソールアプリケーション、Webフォーム・WPFなどのデスクトップアプリケーションとWeb APIの開発に限定されます。また、C#のような言語仕様の拡張も今後は予定されないということなので、新しく取り組む言語には適しません。あくまでも互換性を考慮した開発においての使用に留めるべきでしょう。
LTS版.NET
.NET 6は、.NET初のLTS版(Long Term Support=長期サポート版)となっています。これは、毎年11月にリリースされるメジャーバージョンの偶数バージョンをLTS版とすることが決まっており、それに倣ったものです。ちなみに.NET 5の前のメジャーバージョンは.NET Core 3.1ですが、これは.NET Core 3の次すなわちバージョン4に相当するとされ、同じくLTS版となっています。
.NET 6のサポート期間は3年間で、実稼働を前提とした場合、十分な期間となります。Microsoftの発表したロードマップによると、次回のメジャーバージョンアップは2022年11月の.NET 7になりますが、LTS版としては2023年11月の.NET 8が予定されています。その翌年の2024年11月に、.NET 6のサポートは終了します。