Zoomはキラーアプリケーションからキラープラットフォームへ
コロナ禍以前、映像を含むオンライン会議は技術的には可能でも、慣れていないこともあり一般的な手段とは言えなかった。しかし状況は一転し、ビデオ会議は常識となったことは誰もが知るところだろう。
そこで、映像コミュニケーションのメリットを自社サービスに積極的に取り込んで、より顧客とのエンゲージメントを深めようという動きが出てきている。Zoomを提供しているZVC JAPAN株式会社(以下、Zoom)では、このようなニーズの高まりに応えるべく、デバイスが用意されたスペースで複数が同時参加できるビデオ会議システムのZoom Rooms、Zoomの機能を電話向けにしたZoom Phone、双方向オンラインイベント向けの Video Webinars や、Zoom Eventsなどのソリューションを提供している。
今回のデブサミでは、Zoomを自社サービスと連携したり、Zoomの映像コミュニケーション機能を自社向けにアレンジして活用したりできるZoom Developer Platformの紹介が行われた。ZVC Japan株式会社 ISVビジネスディベロップメントマネージャー 佐野健氏は「Zoomは今、キラーアプリケーションからキラープラットフォームという形で進化を遂げております」と強調し、Zoomのより広い活用をアピールした。
Zoom Developer Platformは、Zoomがアプリケーションやサービスなどの開発者向けに用意したものだ。同社ソリューションエンジニア 澤村陽介氏は「Zoom MeetingやZoom Webinarで使える、Webポータルでの会議設定やユーザー情報の設定といった部分、さらにスマートフォンやPC向けのZoom Clientソフトウェアといったサービスを、Zoom Developer PlatformではAPI化もしくはSDK化して提供します」と説明した。つまりZoomの既存機能をAPIやSDKで提供し、高品質映像サービスを自社向けに組み込めるのだ。
澤村氏は、Zoom Developer PlatformでのAPIとSDKの提供は、機能別にZoom API、Meeting SDK、Video SDKの3種に分けられるとして、それぞれの概要を紹介した。
Zoom APIは、Zoomリソースへ容易にアクセスすることができるもので、サーバーサイドでの利用を想定している。APIはRESTアーキテクチャに基づいており、利用する場合は認証トークンをヘッダーに含めてHTTPSにてアクセスする。講演では、APIからリクエストすることで、ユーザー一覧の取得、個々のユーザーのミーティングIDやウェビナーIDの生成を行うデモンストレーションが披露された。この手法を使えば、スケジュールソフトで会議を設定すると、同ソフト上からZoomによるWeb会議の手配も同時に行えるなどの連携が可能だ。このリクエスト作成は、デモの説明を含め数分で行えるなど手順の容易さもうかがえた。
Zoom APIは、他のソフトとZoomの連携を可能にするが、映像コミュニケーションはZoomそのものを利用する。対してMeeting SDKは、Zoom MeetingやZoom Webinarの映像コミュニケーション機能を自社のソリューションに組み込むことができる。つまり自社ソリューションからユーザーを離さずに、Zoomによる映像機能を利用できる。このときUI、UXは通常のZoomのものを使えるので、Zoomに慣れているユーザーなら説明なしで利用できる。
Meeting SDKは、Zoomの機能コンポーネントをパッケージ化して提供するもので、同社のDeveloper Platform用のサイトからサンプルコードを含めてダウンロードできる。こちらもデモが行われ、サンプルコードを基本に簡単な操作で、WebページにZoomの映像表示/操作画面が埋め込まれた。このZoom画面は大中小の大きさが選べたり、インラインに埋め込んだりできるといった柔軟さを持っている。
また本Meeting SDKは、ブラウザ以外、iOS、Android、Windows、macOSにも対応しているので、既存のサードパーティー製のアプリケーションにZoomの機能を組み込むこともできる。澤村氏は「開発担当の方がデザインすることなく、ZoomのUI、UXを活用できるのもメリットのひとつ」と付け加えた。
3番目のVideo SDKは、Meeting SDK以上にZoomを自由に自社ソリューションに実装できるもの。Zoomの映像、音声、画面共有、チャットといった機能のコンポーネントがパッケージ化して提供される。このため通常のZoomのUI、UXは含んでおらず、開発者はZoomのUI、UXに縛られずに、自社がもっとも良いとするUI、UXを目指せる。Video SDKもMeeting SDK同様、専用サイトから必要なSDKをダウンロードして利用する。
デモではWeb Video SDKを使って、オリジナルの映像Webサービスの作成方法が紹介された。本サービスを別途Android端末向けにも搭載し、パソコンとAndroidによる映像会議が実演された。こちらもSDKをダウンロードして、サンプルコードを元にサービスを作成したが、Meeting SDK同様数分で実施できた。なおVideo SDKはMeeting SDKと違って、iOS、Android、Windows、macOSで映像のRawデータを利用できる。Rawデータなら、映像にアニメーションを合成するといった加工も可能なので、新たな映像表現を加えることができる。
SDKのダウンロード、関連ドキュメントの参照など、開発に関する情報は全て同社のデベロッパー向けサイトに掲載されている。SDKの機能、実装状況、サンプルコードなどの詳細な情報もあるので、澤村氏は試用を促した。
Zoom Developer Platformの活用事例
澤村氏によるデモンストレーションのあと佐野氏は、Zoom Developer Platformの具体的な利用方法や、すでに始まっている各種事例を紹介した。
まず、Zoom Developer ProgramのAPIやSDKは、社内利用や社内検証用であれば追加料金が発生すること無く、Zoomの有償ライセンスさえあれば試せることが紹介された。また社内で検証を実施した上で連携する方法としては、Zoom App MarketplaceによるOAuth認証と、ISV契約による方法があるという。
Zoom App Marketplaceには、Zoomと連携できるアプリケーションやサービスがたくさんあるので、ぜひ連携してみてほしいとアピールした。Marketplaceではユーザーの認証にOAuthを利用できるので、Marketplaceに登録されたさまざまなサードパーティーの便利な機能を、Zoomから活用できる。佐野氏は「Googleカレンダーでミーティングを作成するときに、アドオンのZoomミーティングを選んでいただければ、APIを利用して自動的にZoomミーティングも作成してくれます」と便利な利用法を紹介した。
自社のサービスやアプリにZoomを組み込んでユーザーに提供したい場合は「Zoom ISVプログラム」ライセンスを利用する。これはプラットフォームのライセンスで、通常のZoomライセンスでは利用が認められていない第三者利用および収益化が認められ、自社向けにAPI、SDK、Zoomクライアントアプリを利用することができるという、企業にとって使い勝手の良いプログラムだ。料金も利用料に応じて課金という柔軟な体系になっている。すでに多くの国内企業での導入も進んでおり、ISVプログラムによるZoomのプラットフォーム利用は益々進んでいくと思われ、今後の展開にも注目したい。
Zoom Video SDKは、独自のUI、UXを持つアプリケーションやサービスを作成できるものだ。本プランならば、かなりカスタマイズした映像コミュニケーションを行うことができる。ライセンスの購入はオンラインでクレジットカードを登録することで即時に発行可能。利用料は当面、毎月1万分までは無料となっている。独自の映像ソリューションを検討しているなら、無料枠もあるのでぜひ試してみてほしい。
佐野氏はこれらライセンスの理解を深めてもらうため、講演では4社の事例を紹介した。
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株式会社イープラス:ISVプログラム、Zoom API、Zoomクライアントを利用
- オンラインのイベントが運用できるサービスを、オンラインチケットの販売と組み合わせて提供。
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株式会社GABA:ISVプログラム、Zoom API、Meeting SDK(Web版とiOS版)を利用
- Gaba Onlineとして教師との映像コミュニケーションによる英会話のレッスンを自社のサイトやアプリの中で提供。
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株式会社藤本コーポレーション:ISVプログラム、Zoom API、Meeting SDK(Web版)を利用
- 同社が始めた「DO-MO」という、会議中に手土産が送れるサービスに利用。
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Task Human社:Video SDKプランを利用
いろいろなウェルネスのコーチングを、映像を使ってiOSとAndroidのアプリで提供。
また佐野氏は、Zoom Developer Platformを使うことでハードウェアにZoom機能を搭載した最新事例も紹介した。それは株式会社チカクの「まごチャンネル」という専用のセットボックスを使った映像送受信のサービスで、セットトップボックス内のAndroidに、Meeting SDKを使ってZoomによるライブビデオ通話機能を組み込んでいる。「まごチャンネル」のビデオ通話機能は現在βテスト中で、近日正式に公開されるようだ。
最後に佐野氏は「Zoomは一見すると、単純にビデオ会議ができるアプリだと思われがちですが、本日ご紹介させていただいたように、開発者の皆様が使える多様な機能を持つプラットフォームになっております。まずそのことを知っていただいて、お試しをいただければと思っています」と開発者に向けてのメッセージで講演を結んだ。
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