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Developers Summit 2022 レポート(AD)

「モノがつながる」が当たり前の時代、エンジニアが知っておきたいIoTの基礎知識【デブサミ2022】

【18-E-3】IoT(エンジニア)として歩んだ6年間から見る「IoTの今と展望」 ~ 今できる事と、これからに向けた準備

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 新たなデジタルテクノロジーのひとつとして注目を集めているIoT。スマートスピーカーやクラウドと連携した専用デジタルデバイスなど、すでに実用的なプロダクトが数多く登場している。その技術領域は、組み込みデバイスからクラウド・モバイルネットワークまで広がっており、ITの総合格闘技とも称されているという。このセッションでは、IoTプラットフォームを提供する株式会社ソラコムでテクノロジー・エバンジェリストを務める松下享平氏が、IoTの現状とIoTで変化したモノづくりのルールについて解説した。本記事では、そのポイントを紹介する。IoTに興味を持つエンジニアにとって、全体を俯瞰するよい機会となるだろう。

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株式会社ソラコム テクノロジー・エバンジェリスト 松下享平氏
株式会社ソラコム テクノロジー・エバンジェリスト 松下享平氏

今だからこそ「IoTとは何か」を考える

 「以前は、IoTの後ろにカッコ書きで(モノのインターネット)や(Internet of Things)と書いてあるのが普通でしたが、最近ではニュースなどでも付かなくなってきている印象です」と松下氏は話し始めた。IoTという言葉が市民権を得てきているというのだ。

 では、改めてIoTとは何なのだろうか。松下氏は説明のために、2つの簡単なデモ動画を紹介した。

 1つ目は「SORACOM LTE-M Button」というデバイスによるデモだ。長さ10cm、幅3cmほどのスティックに押しボタンが1つ付いている。このボタンを押すと、SORACOMのモバイル回線で信号が送られて「LINE Notify」を通じて、スマートフォンのLINEアカウントにメッセージが送られる。

IoTボタンでLINEに通知するデモ
IoTボタンでLINEに通知するデモ

 もうひとつのデモ動画では、LINEから送ったコマンドでネットワークカメラの方向を制御する様子を見せた。松下氏は、このようなIoTは次の3つの要素で構成されていると説明する。

 まずはIoTの「Things」にあたる「モノ」である。つまり、センサーやスイッチなどの入力部分、モーターやLEDなどの出力部分、それをコントロールするデジタルデバイスを指す。このようなモノが現場をデジタル化する役目を持っている。そして、デジタル化された現場のデータは、従来であればモノの中で処理していたが、IoTでは「クラウド」で処理するのだ。さらに、このモノとクラウドをつなぐために「ネットワーク」が必要となる。IoTは、業種・業態・規模などに関係なく、この「モノ」「クラウド」「ネットワーク」の3つの要素で構成されているという。

 「IoTを利用することで、遠く離れたモノや現場をデジタル化できます。IoTを活用するエンジニアは、現実世界と人をつなげて価値を創り出す役割を担うことができるのです」(松下氏)

 では、実際にどのようなモノをつなぎ、どのような価値を創っているのだろうか。

 松下氏は、代表的な事例をピックアップして紹介した。例えばダイキン工業では、オフィス用空調機器の定期点検のため、エアコン内部の定点カメラで画像を送信して、AIによる分析で清掃時期を自動判定している。これにより、人間は必要なときにのみ清掃すればよくなり、ビル管理業務の効率化が実現した。

 「このように、IoTによって新しい価値を創り出すことができます。どこでもつながるデータ通信により、従来の労働を置き換えられます。収集できるデータの解像度が向上することで、既存ビジネスのスマート化が実現するのです。こういったテクノロジーを業界を超えて連携させることで、新たな顧客価値を生み出すことができます」と、導入の効果を説明した。

IoTエンジニアが創り出す価値
IoTエンジニアが創り出す価値

 「SORACOMでは、すでに2万以上のお客さまに300万を超えるIoT契約回線を提供しています」と松下氏は語った。なおデブサミ2022の開催後、2月22日に同社は400万回線を達成したことを発表した

IoTで見えてきた「技術のサイクル」

 ここで松下氏は、IoTが向き合ってきて見つけた技術サイクルについて説明した。「デジタル化→ネットワークによる共有→データ活用」というステップを繰り返しているというのだ。

 例えば、PCブームでビジネスや日常生活をデジタル化できるようになり、インターネットがその成果を共有することを可能にして、クラウドの普及でデータ活用が促進されているといった具合だ。

 そして、この技術サイクルがIoTでも繰り返されようとしている。IoTで現場のデジタル化が進み、5G/LPWAでネットワークを介した共有が可能になり、AIや機械学習によりデータ活用が進むということである。

 「もちろん、こうした応用もゼロからつくっているわけではありません。すでにある技術を土台にして、言わば巨人の肩に乗ることでいち早く対応できます」と、松下氏はIoTによるモノづくりについて説明する。

IoTでも技術サイクルが繰り返される
IoTでも技術サイクルが繰り返される

 では「すでにある技術」として、IoTでは何が利用できるのだろうか。

 モノにあたるデバイスとしては「Raspberry Pi」や「M5Stack」などのマイコンモジュールが比較的安価で入手できる。クラウドは、クレジットカード1枚あればオンラインで契約し、5分でサーバーを立ち上げることが可能だ。

 しかしIoT実現のための3つ目の要素、ネットワークには課題があった。SORACOMが登場する以前は、ネットワークの設定を人力で行うことが前提になっていたのだ。エアコンの中にネットワークカメラを設置するとしても、その設定やメンテナンスは人間が行う必要がある。

 「IoTをやってみようと考えた際に、モノとクラウドは簡単に手に入るにもかかわらず、ネットワークは面倒くさいというケースが多くありました」(松下氏)

 そこで登場したのが、IoT向けのデータ通信である。SORACOMは2015年のサービス開始当初から、誰でも購入可能でどこからでもつながる「IoTのためのネットワーク」を提供してきた。すでに、日本国内だけでなく世界140を超える国と地域で利用可能で、IoTエンジニアは世界で活躍できるという。

IoTで変化した「モノづくりのルール」

 ここで松下氏は「IoTでは、製品の定義が変わってきています」と、新しいルールについて説明した。今までは、センサーやモーターなどをマイコンで制御していた。つまり、これまでのモノづくりの領域は、下図のオレンジ色の部分のみにとどまっていた。

IoTではクラウド連携まで含めてモノづくりが必要になる
IoTではクラウド連携まで含めてモノづくりが必要になる

 これに対し、通信モジュールを標準搭載してクラウドと連携することが、IoTにおけるモノづくりとなる。製品の定義がオレンジ色から水色の部分にまで広がっているのだ。

 例えば、スマートスピーカーでは通信モジュールまでがハードウェア的な境界となるが、実際に機能を発揮するためにはクラウド連携が必須といった具合だ。

これからIoTに取り組むためには?

 松下氏は「IoTは、クラウドとの連携によりデータを活用して初めて価値を発揮できます」と改めて強調する。そのため、データ活用までの時間が勝負になるのだという。

IoTではデータ活用までの時間が勝負になる
IoTではデータ活用までの時間が勝負になる

 「IoTで解決できる課題を見つけたとしても、モノ・クラウド・ネットワークのことをすべて考える、言わば総合格闘技のような形で展開していく必要があります。しかも、1回の試行でうまくいくことはほぼありません。

 そのような状況でIoT開発のスタートラインはどこになるのか。IoTを使う側から見たスタートラインは、水色のところ。データ活用が始まってから、やっと『おっ便利じゃん』と感じてもらえます。

 一方で、IoTをつくる人から見たスタートラインは、赤い部分が非常に長いことが多い。にもかかわらず、IoTを使う側から見ると『あの人たちは一生懸命電子工作をしているけれど何なんだろう』と、赤い部分は価値のない時間になってしまいがちです」(松下氏)

 この赤い部分をいかに短縮するか。そのために、巨人の肩に乗る方法を学ぶ必要があるのだという。

 「経験ゼロでも素早く始めるには『作らずに創る』という考え方が必要です。SORACOMでも、IoTデバイスやデータ通信・クラウドサービスなどを提供しています。ハードウェアは1個から購入できますし、通信環境も用意しています。クラウド環境として、PaaSやSaaSも提供しています。なぜ私たちがツールを使うことをすすめるのか。それが巨人の肩に乗る方法を学ぶことにつながるからです」(松下氏)

 そして松下氏は「IoTエンジニアは、現実世界と人をつなげて価値を創り出す存在」だと、改めて語った。すでに、デバイスやクラウド、ネットワークといったIoTに必要な要素が、すべて高品質かつ安価で使える時代になっている。そしてIoTデバイスは、クラウドを味方に付けるインターフェースと言える。いち早く動くものをつくることが最大の説得材料となるのだ。

 最後に松下氏は、ケヴィン・ケリーの『〈インターネット〉の次に来るもの』という書籍の一節を紹介した。

 人間の歴史の中で、何かを始めるのに今ほど最高の時はない。今こそが、未来の人々が振り返って、「あの頃に生きて戻れれば!」と言う時なのだ。

 KEVIN KELLY ,〈インターネット〉の次に来るもの, NHK出版, 2016, P.18

 最後に「モノがつながるのが当たり前になる時代、エンジニアとして、あなたは何をやっていたいですか?」と問いかけ、松下氏はセッションをまとめた。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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https://codezine.jp/article/detail/15660 2022/03/17 12:00

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