DX支援で日本の労働生産性向上とエンジニアのキャリア拡大を目指す
「先端技術を、経済実装する」をミッションに掲げ、2014年に設立された株式会社アイデミー。発表を行った東京工業大学出身の清水氏を含め、東大以外からも幅広く人材を募り、現在は88名規模の組織となって事業を拡大させてきた。
企業向けeラーニングプラットフォーム「Aidemy BUSINESS」でDXリテラシーや機械学習の専門知識などの修得支援を行い、その後、DX内製化支援サービス「Modeloy」で実際の課題選定やPoC、システム構築・運用などの支援を行う。コア技術はTypeScript、Pythonを使用し、いわば「理論」を学ぶ場の提供と「実践」での伴走型支援の両面から、顧客企業のDXを支援している。
そんなアイデミーが、解決すべき社会問題として掲げているのが「日本企業の労働生産性の向上」だ。しかし、清水氏は”個人的な裏テーマ”として、「ソフトウエアエンジニアのキャリアの拡大」を挙げる。
「DXが成功して内製開発が当たり前になれば、非IT企業のソフトウエアエンジニアの雇用が拡大し、働く会社の選択肢が増えれば、競争原理としてよりよい環境が整う。その潮流は海外ではごく普通であり、日本でもユニクロや日本経済新聞社、セブン&アイなど、自社内に高給でソフトウエアエンジニアを雇い入れる企業が登場しつつある。そうした会社をアイデミーのDX導入・活用支援によって増やしていきたい」と清水氏は熱く語った。
打ち上げた衛星からのデータ活用で、世界の問題にソリューションを
2018年の創業のSynspective(シンスペクティブ)は、自ら開発した衛星を打ち上げて運用し、それによって取得したデータを解析してソリューションとして提供するベンチャー企業だ。23カ国から多様なプロ集団が集結し、その活動は世界からも注目され、創業17か月で累積109億円の資金調達にも成功している。
今泉氏はSynspectiveの事業について、「世界にはさまざまな社会問題が山積しているが、人の認識は範囲が狭くて十分なデータが取れておらず、たとえ膨大なデータを取れても分析・理解して解決のための行動につなげることができない。そこでSynspectiveでは、宇宙から見た膨大なデータをテクノロジーで分析し活用できる形にすることで、人の可能性を広げたいと考えている」と語る。
その例として、衛星から電波を発信して得た画像から、洪水の際の被害情報を把握し、意思決定に役立てるソリューションが紹介された。なおサービスについてはGoogleクラウド上で提供されており、オーダーから計画を立案し、コマンドアップリンク、衛星による観測、データダウンロード、画像分析までをワンストップで行う。
衛星は現在1機で、2022年2月にもう1機を打ち上げたところだが、2023年までに6機、2026年までには30機とすることを予定している。そうなればリアルタイム観測が可能になるため、ビジネス拡張が期待されている。
大量のデータ分析で社会インフラの維持管理を効率化
2020年4月の設立より、まもなく2周年を迎えるアーバンエックステクノロジーズ。「都市インフラをアップデートし、すべての人の生活を豊かに。」をミッションに掲げ、デジタルツインを用いた問題解決事業に取り組んでいる。その中核をなすプロダクトが道路損傷検出サービス「RoadManager」だ。
日本における道路点検については、知見のある人材が不在という自治体は30%に上り、対象となる道路は総距離120万kmと長く、さらに点検コストが高いという問題がある。そこで日本の道路事業は「新設から維持管理」へと移行しており、国土交通省も「道路管理DX」を掲げて取り組んでいる。「RoadManager」もまた、目視でのパトロール点検の効率化、さらに地図への損傷箇所の記入や補修事業者への委託などの関連業務をも効率化することで注目されている。
具体的には、全国で3万台もの保険会社のドライブレコーダーにAIを搭載し、得られたデータから損傷箇所を検出して可視化。自治体ごとに最適化することで、点検の効率化を推進するというものだ。
合田氏は「道路だけでなく、電柱や信号などの道路構造物も点検対象とし、道路管理者が使いやすいデータの可視化に取り組んでいく」と、今後の展望について述べ、「大量データをさばきたい方や第一線でプロダクト価値を見出したい方、社会インフラを変えたい方の参画を期待している」と語った。
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ロボットの遠隔操作技術で、建設業界に安全と効率を
ロボットベンチャーのARAV(アラブ)では、創業2年目の現在、建設現場の課題解決に特化した事業を展開している。その背景にあるのが、建設業界のさまざまな課題だ。年死亡者数は300人と全産業の3割を占め、従事者の高齢化が進み、人材採用が難しい状況にある。そこで、ARAVでは建設機械に後付で遠隔操作や自動運転などの機能をもたせ、働きやすさや安全性を高めることで、建築業界の活性化に貢献しようとしている。
なお、建設機械の自動化については、30年ほど前から取り組みが進んできた。ただし、かつては安全性の担保が主目的だったが、現在は就労人材不足に伴う効率化が求められ、どこからでも遠隔操作ができることが求められている。
ARAVのソリューションでは、建設機械本体に通信用のSIMを内蔵し、インターネットを通じて操作が可能だ。つまりネット環境さえあれば、1000km先からでも海外からでも操作できるというわけだ。さらに特殊なコントローラーではなく、ブラウザが開けるあらゆるデバイスに対応しており、機械に後付する機器も小型で取り外しが容易。さらに自動運転機能を搭載する予定となっており、土砂の自動積み込み動作での実証を成功させたという。
白久氏は「技術に関してはすごい人が集まっている。ロボットをフィールドで動かしたいというエンジニアはぜひ声をかけてほしい」と語り、ピッチを終えた。
データの変化を監視し、AIの品質を保つMLOpsツール
2020年12月に設立したCitadel AI(シタデルエーアイ)。「AIを守るCitadel=堅固な砦」という社名の通り、顧客のAIの品質を自動モニタリングし、異常を検知・ブロック・可視化するなど、「AIを本番環境で使うためのサービス」を提供している。
AIの本番環境で意識すべきは、機械学習が入ることで、ふるまいがコードだけでなくデータにも依存することだ。そのため、コードだけに依存する典型的なソフトウエア開発と異なり、さまざまな困難が発生する。たとえばテストでは、入出力の型を見る単体テストだけでは不十分な一方、AI のあるべき振る舞いを定めてテストケースを列挙することも困難だ。また、監視においてはデータの分布が変化した場合でも、AIの性能が担保されないまま”正常に動く”という厄介さもある。
このような問題を解決するには、ソフトウェアエンジニアとデータサイエンティストの協業が必要だが、ツールやスキル、文化も異なり、難しいのが実状だ。その困難に対する取り組みとして、杉山氏は「MLOps」をあげ、「Citadel AIではそのノウハウをツールに込めて提供している」と語った。そして、Citadel AIが提供するソリューションとして、運用時の異常を自動検知・防御・可視化する「Citadel Radar」、モデルの自動テストを行う「Citadel Lens」が紹介された。
マンガの翻訳・デザインをAIで自動化し、世界に届ける
「世界の言葉で、マンガを届ける」をスローガンに掲げるMantra(マントラ)。代表取締役を務める石渡氏自身が先端技術と言語、そしてエンタメに興味を持っていたことから2020年に創業し、マンガの多言語翻訳ツール「Mantra Engine」、マンガで外国語学習が可能な「Langaku」の2つのサービスを展開している。
その背景には、国内外のマンガ需要の高まりがある。国内のマンガアプリの利用者はここ2年で2倍と飛躍的に増え、海外のマンガも読まれるようになった。さらに中国では5年で50倍近い市場に成長しており、日本のマンガにとっては新たな市場とも言える。
それぞれ障壁となるのが言語であり、人力で行っていたマンガ翻訳を、AIを用いて効率化したのが「Mantra Engine」というわけだ。石渡氏は、この「Mantra Engine」がクラウド上で自動的に翻訳・デザインを行い、それを翻訳者が修正するという流れをデモンストレーションしてみせた。これにより、従来の1/10の時間で仕上げることができるという。
そしてもう1つのサービスである、マンガで外国語学習ができる「Langaku」は、レベルに応じて表示される外国語が変化するという仕組みになっている。単にマンガを読ませるだけでなく、単語帳などの機能も備えている。これらのサービスに活用されている、マンガに特化した機械翻訳や自動彩色技術などについては、引き続き精力的な研究開発が行われている。
制約の多い福祉業界の課題を技術で解決する
もともと理論物性物理を研究し、現在は介護業界に身を置く吉岡氏。ベター・プレイスにCTOとして参画し、エッセンシャルワーカーの資産形成をサポートするFintechサービス「はぐONEシリーズ」および、意思決定支援サービス「Work/Life」の開発に携わっている。
「Work/Life」について、吉岡氏は「福祉サービスの質と働く人の生活の質、その両面に最も効果的にアプローチすることを考え、目をつけたのが『勤務シフト』だった。さまざまな思惑、希望が反映されるものであり、だからこそ働く人の生活の質にも関わってくる。さらにサービスの質も担保する必要を鑑みると、勤務シフトを効率的により良い形で作成することが重要」と説明。シフトの割当を命題論理式に変換できるものとしてMAX-SATソルバーを採択、さらに勤務時間の割当は整数計画ソルバーで対応し、数十秒で最適なシフトが作成できるシステムを開発した。
吉岡氏は、「技術者なら制約があるほど腕の見せ所と感じられるはず。実際、介護福祉の世界では、老眼だったり、スマホを持っていなかったり、さまざまな制約があるなかで、例えばMAX-SATソルバーをノーコードで書けるシステムを開発しなければならない。それはワクワクすることではないか」と語り、「福祉の業界にはいろいろと解決しなければならない問題が山積みとなっている。社会的な意義にも直結しており、大変やりがいのある仕事だと思う。是非興味のある方は参画してほしい」とアピールし、セッションをまとめた。
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駆け足ながら、それぞれ興味深い7社のピッチを振り返り、東大IPCの小澤彩織氏は「ベンチャーの事業についてもう少し詳しく知りたい、エンジニアのキャリアパスについて聞いてみたいという方がいらしたら、ぜひ連絡をしてほしい」と語り、改めてアカデミア系ベンチャーへの転職・副業・インターンの求人情報を提供する、同社の「DEEPTECH DIVE」を紹介。「完全無料でクローズドで面談もでき、コンサルタントのアドバイスも受けられる」とアピールした。
さらに新企画として、東大関連ベンチャーによるエンジニア向け限定公開の技術コンテスト「Tech Challenge」や、毎月平日夜に定期開催中の「東大IPCキャリアカフェ」などが紹介された。興味のある方は、ぜひ問い合わせてみてほしい。
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