Microsoft 365とSFA/CRMの間のシームレスなデータ連携を実現
マイクロソフトではさらに、Dynamics 365 Salesの導入価値をさらに高めるためのソリューションとして「Microsoft Viva Sales」を提供している。これについて井上氏は「例えば、営業担当者が日々の活動のおよそ70パーセントという膨大な時間を、顧客や社内の方々とのコミュニケーションに必要な資料作りに費やしているという統計データがあります」と指摘する。具体的にそれは、メールの作成やスケジュールの登録、PowerPointによる提案書の作成、Excelによる見積書の作成など、およそMicrosoft 365のOfficeツールを使った作業だと捉えることができる。
「営業担当者がそうした作業に多くの時間を費やしているがゆえに、SFA/CRMにデータを入力して最新の状態に保つ作業に手が回らず、結果、SFA/CRMの活用が思うように定着しないケースも少なくありません。要するにViva Salesはそうした問題を解消し得るツールなのです」と井上氏は説明する。具体的には、Microsoft 365の提供する一連のツールとDynamics 365 Salesとの間のデータをシームレスかつ自動的に連携できる仕組みを提供している。
仮にOutlookとの連携を例にとるなら、閲覧しているメールをDynamics 365 Sales上に登録された営業案件やその進捗状況と紐づけ、SFA/CRMのデータとして保持することができる。「これによりDynamics 365 Sales上から、当該顧客との過去のメールのやり取りをクリック1つで簡便に呼び出したり、顧客にかかわる案件などのCRM情報の閲覧をメール環境から即座に行えたりします。一連の動作は、アプリケーションの起動や切り替え、ログインなどの操作を伴わず俊敏に行えます」と井上氏は語る。もちろんこうした連携については、Outlookに限らず、他のMicrosoft 365のツールとの間においても同様に実現可能だ。
またViva Salesの特筆すべき機能といえるのが、Teamsで実施した会議において録音される各人の発言内容をテキスト化することで、事後の確認を強力に支援していることだ。「例えば、『価格』や『売上』といった任意のキーワードを指定して、そこをピンポイントで確認したり、当該箇所の音声を再生したりといったことができるわけです。多分営業担当者の方々は、資料作成にあたってこのような録音内容のチェックに多大な時間を費やしているものと思います。そうした局面でも、Viva Salesが営業担当者の生産性向上に大いに貢献するわけです」と井上氏は言う。
最後に井上氏は、Dynamics 365 Salesの標準UIに対して、ユーザーからよく寄せられる要望についても言及する。例えば、営業担当者の活動計画において、時系列での各日の活動や顧客軸での活動の計画がわかりやすく一覧でき、漏れのない計画立案を支援するようなUIを求める声が多い。また、受注生産を行う部品メーカーなどで、向こう数十カ月といったスパンにより、売上、コストを踏まえた収支計画を算出して可視化できるようなUI、機能といったものについてのニーズも大きいという。
「Dynamics 365 Salesの標準機能では現状、なかなかそういったUIを表現することが難しいのが実情。それ以外にもさまざまなニーズがあるかと思いますが、そうしたカスタム開発が必要な部分については、グレープシティの提供するJavaScriptライブラリ製品を用いて実装いただくことが非常に効果的なアプローチになるものと思います」と井上氏は語りセッションを締めくくった。
JavaScriptライブラリで実装したWebアプリの活用によるカスタマイズ
続く2つめのセッションには、グレープシティの福井潤之氏が登壇。「JavaScriptライブラリではじめるMicrosoft Dynamics 365のお手軽カスタマイズ」と題するセッションを執り行った。
Microsoft Dynamics 365自体、標準機能が充実していることに加え、カスタマイズ性が高いところも大きな魅力の1つである。「例えば、リボンやフォームといった各種画面表示項目のGUI上での調整に加え、Microsoft Power AppsやSDKを使ったプラグインの追加といった拡張機能を実装するための方途も数々用意されています。なかでも、特に手軽にDynamics 365のUIや動作をカスタマイズする方法として、広く使用されているのがJavaScriptです」と福井氏は語る。
Dynamics 365が公開しているWeb APIとJavaScriptを活用したアプリケーション開発により、使いやすく高機能なUIをDynamics 365に追加することができる。すでに述べたようにグレープシティでは、そうした領域の取り組みを強力に支援するJavaScript開発ライブラリ製品群をラインアップしている。福井氏のセッションでは、Dynamics 365をカスタマイズする際に特に最適な2つの製品、「Wijmo」「SpreadJS」による機能実装の概要がデモを交えて紹介された。
まずWijmoだが、この製品は業務上のさまざまな案件をカバーするJavaScriptライブラリであり、例えばグリッドビューやチャート、インプット、ゲージ、ピボットなど40以上の各種コントロールをオールインワンで提供するスイート製品となっている。グレープシティの提供するJavaScript製品は、「汎用型」と「用途特化型」に大別されるが、こうした観点でWijmoは汎用型のライブラリセットに該当するものであり、開発で重宝する幅広いツール群が収録されている。
一方の「SpreadJS」は、「用途特化型」にカテゴライズされるスプレッドシートライブラリ製品で、ExcelライクなUIや機能、操作性をWebアプリケーションにおいて実現するものとなっている。スプレッドシート部分のコントロールだけでなく、例えばリボンや数式バー、ステータスバーなども含めて、まさにExcelと同等のUIを実装できることが、その大きな特徴だ。
こうした汎用型、用途特化型を問わず、高速・軽量であることがグレープシティのJavaScript製品に共通する際立った優位性であり、洗練されたアルゴリズムによる実装でモジュールサイズを極小化し、高い処理性能を実現している。
セッションで実施されたデモでは、Wijmoに含まれる高機能なデータグリッドコントロールである「FlexGrid」とデータ管理クラス「CollectionView」の活用、およびSpreadJSのスプレッドシートコントロールを活用するという2つのアプローチであらかじめ実装されたWebアプリケーションをDynamics 365のWebリソースとしてホストし、リード情報をよりリッチなUIで閲覧しながら、既存データの更新や削除、新規データの登録などを扱えるようにするカスタマイズが実演された。
なお、これら2つのアプリケーションの具体的な実装内容については、グレープシティの情報発信メディア「GrapeCity.devlog」に掲載されているブログに詳述されているので、そちらを参照いただきたい。
参考情報
開発したアプリケーションに関する、Dynamics 365のWebリソースとしての新規登録について福井氏は「Dynamics 365の[詳細設定]メニューから[カスタマイズ]-[システムのカスタマイズ]を順次選択していくことで、表示されるPower Appsベースの管理画面やデザイナが画面から[新規]ボタンをクリックして、FlexGridないしはSpreadJSを組み込んだHTMLページをアップロードすることにより簡便に行えます」と解説する。
あわせてデモでは、こうして実装されたアプリケーションを、Dynamics 365の画面から起動しやすいように、コマンドバーにカスタムのリンクボタンを追加する方法も示された。
最後に福井氏は、前セッションで井上氏から話のあった、Dynamics 365 Salesの標準機能では現状、実装困難なUI表現をグレープシティのJavaScriptライブラリ製品によってどのように実現できるかについても説明。「例えば、時系列、顧客軸での活動計画を漏れなく立案できるようなUIについては、SpreadJSならば、Excelと同様の条件付き書式の機能が利用できるので、そうしたものを使って、特定条件のセルに色付けを行い視覚的に目立たせるといったこともできます」と説明する。
またもう1つの、製品ごとの収支計画を数十カ月先まで入力したいという要件に対しては、1レコードで複数行のレイアウトのグリッドを組み込むことができる、Wijmoで提供される「MultiRow」コントロールの利用によりニーズに応えられる旨を紹介した。
今回の福井氏の講演では、WijmoのFlexGridとSpreadJSが取り上げられたが、グレープシティがラインアップするJavaScriptライブラリには、例えば日本仕様の入力コントロールセットである「InputManJS」、あるいはUI関連ではないが、帳票ライブラリとして評価の高い「ActiveReportsJS」などをはじめ、いずれもクライアントサイドでの動作によってサーバー環境を問わず利用できるさまざまな製品が用意されており、Dynamics 365のUI、機能の拡張にかかわる局面でも大きな威力を発揮する。