なぜ個人開発ではリリースにこだわるのか
やる気をなくさせる「言い訳の悪魔」
ここまででリリースを軸に話を展開してきました。それは、個人開発者にとってリリースが最大の障壁だからです。個人開発に慣れないうちから、リリースも学習も両立させたいという野心で馴染みのない技術・ツールを使って開発をするのは避けるのが吉でしょう。
「学習コスト」という単語が表すように学習には時間がかかります。やりたいことを頭で思い描いていてもそれを実現するための歩みは遅々として進みません。リリース日が先になればなるほどモチベーションの維持が難しくなり、学習はできたけどリリースはできなかったという結果に陥りかねません。これはまさしく冒頭で定義した「個人開発における失敗」です。この失敗を避けるため、リリースか学習か目的のどちらか一つだけを選びましょう。
リリースは最大の障壁です。このため、個人開発者は無意識のうちに以下の問いかけを自分にしてしまいます。
- 技術の勉強になっているからもう十分じゃないか
- 使ってくれる人がいるかわからない
- デザインがイケておらず人に見せたくない
- ダサいプロダクトを出して大外れしたと思われたくない
中途半端な満足心と労力が報われないかもしれないという不安から生じるこの自問の後に、「だったらリリースしなくても良いじゃないか」とささやきかけてくる存在があります。それこそが言い訳の悪魔です。この言い訳の悪魔を倒すには、素早くリリースするしかありません。
一度リリースをすると上記の不安は解消され、「誰にも使われていない」「デザインが悪いかも?」「宣伝が足りていない?」など現実的な課題と向き合うことになります。曖昧模糊(もこ)とした不安が去り、プロダクトに関する課題を見つめることができて初めて、次のステップへ踏み出せます。個人開発が初めての場合は、まずこの状態を目指しましょう。これがリリースにこだわっている一つ目の理由です。
個人開発の本当の開発リソースとは
個人開発においてリリースを重視する二つ目の理由は、開発リソースが自分一人であることです。個人開発は、一見お金がかかるなど、飛び抜けたスキルがないとできないように思われます。しかし、スキルが足りないなら先に学習を目的とした個人開発をすれば良く、またSaaSの無料枠を使えばお金はかかりません。このため、お金もスキルも必須のものではありません。
個人開発の真の開発リソースは、自分のプライベートな時間とモチベーションです。課題を特定し、仕様とデザインと使う技術を決めた後、ローカル環境を構築してデバッグしながら開発することはやはり時間がかかります。また、先の言い訳にある悪魔の例のように個人開発者は常にモチベーションの低下と戦っています。これらの減り続ける要素こそが、個人開発における本当の開発リソースなのです。
時間の浪費はなるべく避けましょう。たくさんの時間を注ぎ込んで開発してリリースしたのに、プロダクトが誰にも使われないという事態には目も当てられません。個人開発はMVP(Minimum Viable Product)を無駄なく開発してリリースし世間の反応をうかがうリーン開発の思想と相性がとても良いです。
プロダクトが使われるか使われないかは世間に出してみるまで分かりません。もしユーザーが0だったとしても、プライベートな時間とモチベーションが残っていればテーマを変えて再トライができます。有限である自分の時間とモチベーションの浪費を避けて、まずはリリースに注力しましょう。
実のところ、個人開発に慣れてきたら学習とリリースの両立は可能です。ただしその場合でも、フロントエンドは既知のものでバックエンドは未知のものを採用するなど、全方面で初めての技術・ツールで進めないことに留意すると良いでしょう。