SignalRの構成要素
ハブ
SignalRによるリアルタイム通信で中心的な役割を果たすのが「ハブ」です。ハブは、クライアントから呼び出し可能なメソッドを集めたものです。これらのメソッドは、主にクライアントからデータをサーバに送信したりなどの目的で用意され、メソッド自身が値を返したり、サーバがクライアント側のメソッドを呼び出して、必要な処理を行わせたりすることが可能です。
クライアント
ハブに用意されたメソッドを呼び出すのが「クライアント」です。メソッドを呼び出すことで、サーバにデータを送信したり、他のクライアントが送信したデータを受信したりすることができます。ハブのメソッドは、クライアント側でハブ接続オブジェクト(HubConnectionオブジェクト)を作成して呼び出します。上記の通り、クライアントで作成したメソッド、関数をサーバから呼び出す仕組みも用意されています。
トランスポート
サーバとクライアント間の伝送路は「トランスポート」といいます。SignalRでは、サーバとクライアントの組み合わせで最適なものを、以下の3つの方式から自動的に選択します。
(1)WebSocket
WebSocketとは、サーバ・クライアント間における非同期通信のための、HTTPを拡張したプロトコルです。最初こそHTTPによる通信を行いますが、WebSocketの接続確立後は独自の通信プロトコルに移行し、フレームと呼ばれるテキストまたはバイナリ形式のフォーマットでデータをやり取りします(図2)。
(2)サーバ送信イベント(Server Side Events)
サーバ送信イベントとは、文字通りサーバからクライアントにプッシュ送信するイベントをいいます。通常のイベントとは異なり、サーバ側のタイミングで通信を行います。クライアントは、あらかじめサーバにEventSourceオブジェクトを作成してもらい、サーバはこれによりプッシュ配信を開始、クライアントはそれを監視するという動作になります。
(3)Long Polling
Long Pollingは、クライアントからのリクエストがあったときに、返すべきレスポンスが用意できるまでサーバが待機するというもので、特定のプロトコルに依存しない最も単純な方式です。通常のポーリングに比べて遅延がない、無駄なトラフィックがないなどのメリットがあります。WebSocketが使えない、サーバ送信イベントが使えないという場合の最後の手段といえます。
最新の環境では、基本的にWebSocketが使われると思ってよいでしょう。これも、実際に何が使われているかは開発者もユーザも意識する必要はありません。また、後述するように、トランスポートの作成時にどの方式を使うかということを明示的に指定することもできます。
サポートされるプラットフォーム
SignalRは、Razor Pages、ASP.NET Core MVC、Blazorといったサーバプラットフォームがサポートされます。本記事のターゲットである.NET 6と.NET 7では問題なく動作します。これらのプラットフォーム上に、ハブを構築できます。
クライアントとしては、JavaScriptをはじめとして.NETクライアント、Javaクライアントが利用できます。かつてはC++クライアント、Swiftクライアントも存在しましたが、現在はサポートされていません。なお、JavaScriptの使用においてはES6(ECMAScript 6)のサポートがあるWebブラウザが必要ですが、現在利用されているSafari、Chrome、Firefox、EdgeといったWebブラウザでは問題なく動作します。
[NOTE]他のサブフレームワークとの違い
ASP.NET Coreには、Web APIやgRPCといった、SignalRと似た位置付けの通信主体のフレームワークがあります。これらの特徴は第10回の表2にまとめておきましたので、サービスを使い分ける際の参考にしてください。