異なるキャリアの4人の女性エンジニア、共通するやりがいとは?
本セッションに登場したWHIで働く4人の女性エンジニアは、それぞれ「Product Div.」に所属しながらも、リーダーやマネージャーとして活躍していたり、キャリア転換していたりと、異なるキャリアを歩んでいる。
丸山氏と伊藤氏は、2011年新卒入社の同期で、共に2児の母として産育休をとりながら、プレーヤーとマネージャーを行ったり来たりし、キャリアを重ねてきた。2年前に産育休から戻った丸山氏はプレーヤーを経て現在マネージャーを務め、戻ったばかりの伊藤氏はプレーヤーとして業務に当たる。一方、2016年入社の和波氏は2023年1月にマネージャーになったばかりだ。今後予想されるライフイベントと仕事の両立に漠然とした不安があると語る。そして3人の先輩であり7歳の男児を育てる高橋氏は、2008年に中途入社後、2015年まで「COMPANY」の保守コンサルとして務め、育休後から現在までは「COMPANY Talent Management(CTM)」の開発に携わる。
まず「エンジニアのやりがい」について口火を切ったのは、丸山氏だ。「開発はすべての段階が苦労の連続。それだけにやりがいも感じる」と語る。その中でも最も苦しくて、やりがいを感じるのが「企画段階」だという。WHIでは、顧客へのヒアリングに始まり、機能企画や実装、テストに至るまで、同じエンジニアが主体となって進めていける。その中でも、顧客の課題に対する解決案を考えて製品や機能に落とし込む企画については、顧客の業務を踏まえ、どうしたら解決できるのか「ひたすら考えて考えて考え尽くす」という。チームメンバーや関係者とディスカッションを重ねてブラッシュアップしていく。
「正解のない領域で最適解を決める責任に怖さはあるが、自分たちが選んだ解決策を盛り込んだ機能を顧客に使ってもらい、ポジティブな言葉をかけてもらえた時の喜びはひとしお」と丸山氏は語る。伊藤氏も「誰もが企画段階に重きをおいて開発業務に当たっている。大切にしているのは『解決ベースのモノづくり』であり、問題解決こそ仕事」と応じた。エンジニアとしては課題解決のためにシステムを作るのが仕事だが、それはあくまで手段であり、根底には「顧客の課題を解決したい」という情熱があるというわけだ。
さらに同社の提供する統合人事システム「COMPANY」は約1200法人グループのユーザーに提供されていることもあり、課題を抱えた個々の顧客の意見は大事にしながらも、全ユーザーに提供するパッケージシステムとしての根幹を崩さないことが大前提となる。その点も企画の難易度が高く、やりがいを感じる理由だという。
高橋氏も「個別の機能要望に応えるだけでは、要望した顧客のみに必要とされるものに留まる。パッケージ全体に反映させて運用する場合とのバランスが難しい」と語る。1社だけが便利になるのではなく、他のユーザーにも有用となる必要があるが、課題を抱えたユーザーの不便さが解消できなくては本末転倒である。両者のバランスが重要であり、そのポイントを押さえて解決策を考えるところに、難しくもやりがいがあるというわけだ。
和波氏は「WHIのエンジニアなら誰もが共感できる。WHIの開発の良さとして必ず挙げられることだが、特段に言葉にするものでもなく、働いている中で自然に思う文化のようなもの」と述べ、「その文化が気に入っている」と語った。
自由な働き方とチームワークを両立するコツとは?
もう一つ、好ましい文化として和波氏が挙げたのが、「ルールが少なく自由な環境で、多様な人たちとチームで働けること」だ。和波氏は「エンジニアは職種上1人で手を動かす時間が多いためか、個性の幅が広い。WHIは裁量労働制で働き方の自由度が高く、多様性を重視している。そこに魅力を感じて入社した。実際入社してみると想像以上に自由度が高く、それが仕事の幅の広さにも繋がっていると感じる」と語る。例えば、マネージャーが依頼する案件もあるが、エンジニア主体で課題を出したり、やりたいことに手を挙げたりして自らやっていく仕事も多いという。
和波氏は「手を挙げてチャレンジすると、みんなが応援してくれるので発言しやすい。ただし、プロダクト自体が長く作り続けられており、1人でやるには大きすぎる仕事が多いところが難しい」と語る。
普段からチーム単位で仕事をし、どんな仕事も基本は人を巻き込む。そのため、チームメンバーとの業務時間のずれに対応する方法や、完全オンラインでのコミュニケーション、仕事の進め方など、全員が気持ちよく前向きに働くための下準備に工夫が必要となる。
和波氏は「自由が認められている文化は大事にしたい。同じ目標を持って仕事に取り組むからには、自ら積極的に改善していきたい。そのための最低限のルールはどうするか、ルールでなくても改善できる空気感や関係性をどう作るか、マネージャーになって考えるようになった」と語り、高橋氏も「チームの中に改善提案をしていいという空気があるのはすごくいい。目の前の仕事が多少やりにくくても、仕組みを変えていけるのなら、どう改善するかを考え、前向きに仕事に取り組めるはず」と語った。
これという正解がない中で、関係者や仕事が変わる度にやり方を工夫し、パズルのピースがはまるように個人が上手く噛み合って仕事が進む。そうしてプロジェクトをやり遂げたときには、1人でやるよりも何倍も達成感が得られることだろう。
チームとして成果を上げる、開発をしないマネージャーだからこそのやりがいとは?
続いて、今年1月からマネージャーになり、「チームの文化作りに試行錯誤中」という和波氏から、丸山氏と伊藤氏に「マネージャーとしての苦労ややりがいとは?」という質問がなされた。
まず伊藤氏は、前マネージャーが産休になり、時短勤務でマネージャー職につくこととなった。最初は「全部やる」つもりで頑張っていたものの、メンバーが増えてチームとしての対応案件が増え、フォローする時間が圧倒的に増えたことで、自分の仕事にまで時間内に対応できなくなってきた。そこで、「自分で作ること」よりも、「チームとして成果を出せること」を重視し、時間の使い方を変えていったという。
しかしながら、そのマインドシフトにはなかなか勇気が必要だ。エンジニアは自分で開発をしたい人が多く、「開発をしない」という状態に不安を感じる人も少なくないだろう。しかし、伊藤氏は「メンバーの勉強会でも自分で勉強したり、ペアプロなどを通じて機能開発に関わったり、プログラムに全く触れないっていう状態ではなかったため、つらくなかった」と振り返り、「自分で全部やるよりも多くのものが出せるようになった」と語った。
同様に時短勤務でマネージャーになった丸山氏も、「自分がこれまでに培ってきた技術や知識をメンバーに伝えたり、相談に乗ったりすることで、チーム全体の開発スピードが上がったと感じる場面があった」と語り、「自分で開発することはほぼなくなったが、それが苦でないことに驚いた。むしろチームメンバーの開発プロセス全てに関われるので、みんなと一緒に機能をリリースしている感覚がある」と評した。
他にも、「マネージャーになってよかったこと」として、伊藤氏は「各々が自分で開発をする状態から、チームで決めて機能を作れるようになったこと」を挙げた。メンバー全員が同じ方向を向いて機能づくりができるようになったことで、お互いにフォローし合って良い機能を作れるようになり、次の機能開発に対しても意欲が増してきた。また各々のやりたいことを汲みながら、チームや機能の未来を考え、実現するところにもやりがいを感じているという。
一緒に手を動かし、チームとともに成長するマネージャーへ
それでは、マネージャーになって10カ月という新米マネージャーの和波氏の場合はどうだろう。和波氏は、新卒時からの上司の退職に伴い、マネージャー職へと昇格した。しかし、「その上司がいて当たり前で、その人に認められることが一つの目標だったため、次に何を目標とすべきか考えさせられた」と語る。
「偉大な上司の後任ということで自信がなかったため、2年間の準備期間で、これまで以上に多くの製品知識を身に着け、ソースコード読解などを頑張った。実際には初めて見る仕様や見たことのないソースコードについて質問を受け、自分はわからないものの答えを求められる苦しさに戸惑った」と和波氏。マネージャーとしての業務も増え、手が回らなくなったときには、周りの先輩からアドバイスをもらうことで乗り切ってきたという。
和波氏は「ずっと慕ってきた人が上司だったため、マネージャーは絶対的な存在で、自分もそうなりたいと思っていた。自分自身を勝手に追い込んでいたところがあったが、自分も分からないものは一緒に手を動かし、それを見せたらよいというアドバイスに基づき、今では課題をメンバーと一緒に解決するようにしている。メンバーの近いところで成長を実感できるのが楽しい」と語った。
丸山氏は「確かに圧倒的なリーダーシップがあるマネージャーは安心感があるが、つい頼りすぎてしまいがち。しかし、和波氏のような自身も一緒に成長できるマネージャーのあり方も素敵」と語る。丸山氏もまた、産休前にマネージャーだったのが、育休復帰時に希望してプレーヤーになり、再びマネージャーになった。マネージャーに戻ったきっかけが、新たなチームに入った際にやりづらさを感じたことだという。
「シニアメンバーたちが各々のサブシステムを守り育て、凄腕のマネージャーが統率する状態だったため、チームメンバー間の状態や課題が見えにくくなっていた。新参者としてやりにくさを感じつつ、状況に気づきつつも変えられない自分にもモヤモヤしていた。そんな時に新たなメンバーが相次いでチームに合流し、仕事をしやすいチームにしたいと考えた。また、凄腕マネージャーの退社という激震もあり、チーム内の風通しを良くして、ベテランも新人もサブシステムを越えて連携しやすくしたいと、希望してマネージャーへのキャリアチェンジを図った」
その結果、まだ試行錯誤中というものの、メンバー間で相談やペアワークが盛んに行われ、いい雰囲気になりつつあるという。
キャリアの大きな転換点、出産後はどのように働くべき?
エンジニア職を続けている丸山氏、伊藤氏、和波氏に対し、高橋氏はコンサルから開発にキャリアを変えている。その転換点について、高橋氏は「前職のコンサルの時から、『COMPANY』の製品としての素晴らしさを知っていた。産休時に今後のことを考え、1回は作る側も経験したいと思い、思い切ってキャリアを変えることにした」と明かす。
技術用語などのキャッチアップには苦労しているが、コンサル時代に経験した製品の使い方や運用面での知識は現職にも生かされている。高橋氏は、「お客様からの要望をフィードバックできるのは喜び。以前より製品に近い場所にいて、よりよくしていけるという確信がある。新機能や不具合の解消を発信できることも嬉しい」と語り、そんな高橋氏を3人も頼もしく感じているようだ。
高橋氏はライフイベントが新たな挑戦へのきっかけとなったが、伊藤氏、丸山氏もまた出産という大きなライフイベントを経てきた。二人とも復帰後は時短勤務となり、体力が戻らない中、時間にシビアになったという。そして人に頼ったり、ツールを活用したり工夫するようになった。
「余裕を持ったスケジュールで前倒しで開発ができるよう相談するなど、減った業務時間と、急なお迎えやお休みに対応できるよう調整した。どうなるかわからない部分を考慮した調整は未だに難しいと感じている」と伊藤氏。さらにマネージャーになって見るべき部分が増えたが、それを得意とする他のメンバーに任せることもあるという。特にメンバーとのコミュニケーションにはしっかり時間を使い、勉強会を開催して自分も勉強しつつメンバーの技術の底上げを図った。丸山氏も「エンジニアにとって勉強は重要ながら、出産前よりも効率よく戦略的に勉強しようとする意識が強くなった」と語る。
さらに注意したこととして、高橋氏は「業務を自分のところで止めないこと」を挙げ、「時短勤務によりできる仕事量が減り、急に休むことも増えたため、常に状況を共有して代行できるよう工夫していた。人にもよるが、時短の期間は短いので、無理して成果を出そうとするより、マイナスにしないことが重要」と語った。
一方、フルタイムに戻ってからは、「成果を出すこと」を意識するようになり、目標管理制度(MBO)を上司にしっかり相談するなど、以前よりも建設的に考えるようになったという。無理なく続けられる目標のOKラインを設けることで、精神的にも安定した。無理なく達成できる目標を設けることは、働き方に関わらず、長く働き続けるための工夫といえるだろう。
また、ライフイベントは新たな領域に挑戦するきっかけにもなっている。丸山氏はマネージャーとプレーヤーを行き来し、高橋氏はコンサルからエンジニアへジョブチェンジ、伊藤氏は二度目の産休後、希望してプレーヤーに戻っている。マネージャーもやりがいがあるものの、産休時期に自身のキャリアを改めて考え、「自分の手で作りたい」と感じる人は多い。
新たな領域へのチャレンジについて、伊藤氏は「同じ製品で業務は変わらず、さほど戸惑いはなかったが、複数のサブシステムをまたぐ案件が増え、不具合を修正する際に影響範囲が広くなった」と語る。そして、「苦労といえば勤怠」と語り、胃腸炎やインフルエンザなどで子どもが休みがちな時期を伝えるなど情報共有の重要性を強調した。実際、入園後2カ月ほどは3分の2を休んだが、業務時間が取れない中でもいくつかの機能をリリースすることができた。それは周囲に状況を伝えて協力を仰いだことが大きいという。近年は、男女関係なく育児に参加する人が増え、周囲も自然に受け入れているようだ。
どんな立場でも変わらない「物を作るのが“好き”だから、“いいもの”を作りたい」
「四者四様」のキャリアを歩んできた4人だが、エンジニアとして共通するものも多い。たとえば、時間の使い方をしっかりと考えて仕事をしていることについては、マネージャーの経験やライフイベントによる生活スタイルの変化の影響が大きい。
和波氏は、「漠然とライフイベントでの時間の制約に不安を感じていたが、限られた時間で成果を出すことは変わらないことを実感した」と語り、高橋氏も「マネージャーになることも試行錯誤のきっかけであり、一人で抱え込まない、こまめな連絡など、やるべきことは変わらない」と語った。なお気になる評価や昇進についても、ライフイベントなどに応じてプレーヤーに戻ったり、マネージャーになったり、という自由度が安心材料になったようだ。高橋氏は「一番重要なのは開発や製品、人などに対して”好き”という気持ちを持つことではないか」と語り、「だからこそ、やりくりも苦労にならない」と評した。
伊藤氏、丸山氏も「物を作るのが“好き”だから、“いいもの”を作りたい」と語るが、それは製品や機能かもしれないし、チーム形成のような目に見えないものである可能性もある。丸山氏は「キャリアチェンジやライフステージがあっても、その時々で自分がやりたいことややるべきこと、できることを試行錯誤しながら精一杯ずっと続けていきたい。そのためにも“好き”を持続させて、楽しく働き続ける原動力としたい」と語り、伊藤氏、高橋氏、和波氏も大きく頷く。さまざまなキャリアやライフステージを経てきた4人の体験や実感は、多くのエンジニアの参考になるだろう。