文系出身でITほぼ未経験なのになぜエンジニアに?
本稿に登場するWHIの若手社員は、2年目の久保本海里氏と1年目の鏑木瑛司氏。なお二人は今年のメンターとメンティの関係でもある。久保本氏は文系出身で、ITはほぼ未経験だった。現在はAWSを触る機会が多く、AWSアーキテクチャの知見を高めることに意欲を持つ。また仲間と協力して開発するコラボレーションに関心が高く、将来は何らかの専門分野を持ちつつマネージャーに進むことを目指している。
後輩の鏑木氏は応用数学専攻の理系出身。大学の研究室ではJulia(高度な計算や数値解析ができるスクリプト言語)を扱い、プログラミングスクールでアルバイトをするなどIT経験者だ。それでも就活時は「IT、なんかかっこいいな」という程度のイメージだったという。今はITを使ったものづくりの楽しさを覚え、将来は、自分の代表作となるプロダクトを世に送り出したいと思い描いている。
WHIでは新人教育の整備が進み、若手の段階から自分のキャリアについて高い解像度で考えることができるような工夫が凝らされている。また、新卒社員は「総合職」で採用し、適性を見極めた上でどの職種(エンジニア、コンサルタント、営業)になるか決めていく。そのため採用時点ではどの職種に就くのか分からない。IT未経験でエンジニアになることも多い。
入社直後は全員対象の研修があり、ここで適性が見極められ職種が決まる。IT未経験で開発部門に配属が決まった新入社員の中には、適性でエンジニアと決まったものの「エンジニアって何するの? ビル・ゲイツ? スティーブ・ジョブズ? 黙々とパソコンに向かってプログラミング? それってかっこいい?」といった漠然としたイメージしか持っていない人もいる。
そんな中で開発部門での教育が始まり、エンジニアについての解像度を高めていく。IT業界全体を俯瞰し、フロントエンド、バックエンド、セキュリティなど、より詳細に役割や仕事があることを学ぶ。エンジニアのキャリアについて高い解像度で理解し、自分が将来進みたい方向を明確に定められるようにするためだ。
RPGゲーム風に表現するなら、最初の新人研修で王様から「そなたは今日からエンジニアじゃ」とお告げが下り、次の部門研修で神父から「あなたはどのキャリア(部門)を選択しますか?」と訊ねられるようなイメージだ。
鏑木氏はIT経験があるものの、適性見極めでエンジニアと伝えられた段階ではどのようなキャリアに進みたいのか漠然としていた。「なりたいエンジニア像はありましたが、そこに向かうために何をすべきかはイメージできてなかったです。エンジニアに求められるスキルも想像より幅広く、何を選べばいいか自分で判断するのは難しかったです」と話す。
若手の段階からキャリアについて高い解像度で考えることができる工夫
開発部門の研修では、内容をスキル系、知識系、心得系と3つに分類し、広く浅く学んでもらう。そうすることで自分にとって楽しいと感じるものが何なのかという感触をつかんでもらう。
さらに解像度を高めるために、キャリアで先を歩んでいる先輩社員との交流機会を設けている。新人は常に1年先輩のメンターが伴走しているが、その他にも3〜5年先輩との1on1や、10年以上の先輩たちとの座談会もある。
久保本氏と鏑木氏の場合、1on1は毎日実施していた。久保本氏は鏑木氏に対して、研修がその後の実務とどう結びつくかを理解できるように話を進めていたそうだ。他にも、久保本氏は年代が近い同僚との1on1を鏑木氏に促していた。例えば久保本氏の同期で1年目からバリバリとコードを書いていたエンジニアを鏑木氏に紹介したところ、鏑木氏は「自分もがんばらなきゃ」と大いに刺激になったそうだ。
久保本氏は「メンターとメンティーだけで閉じようとせず、優秀な同期に頼ることができてよかったです」と話す。他にも鏑木氏はマネジメントに興味があったため、マネージャーと1on1することで「マネージャーの仕事のやりがいや難しさも知ることができてよかった」と話す。
こうして開発部門の教育が終わるころ「ふりかえり」を行う。ふりかえりは「Fun:楽しかったこと」「Done:やったこと」「Learn:学んだこと」の3つの観点からまとめて発表する。加えて、配属先の希望・野望と自己アピールも行ったうえで、配属先が決まる。
実際に久保本氏と鏑木氏がどのような「ふりかえり」をしたのかを見ていこう。
まずは久保本氏。「Fun」は仲間とプログラミングすること。当初エンジニアは寡黙にプログラミングするイメージだったが、モブプロをすることで孤独な作業ではないと理解できた。「Done」は同期の中でいち早くQiitaに記事を投稿できたこと。「Learn」は仮説を立てながらソースコードを読んだり、実装したりすることの重要性だ。「野望と自己アピール」では、久保本氏は「創意工夫して機能追加や改善に取り組みたい」「ゆくゆくはマネージャーとなりチームメンバーの成長を促進したい」と発表した。
続いて鏑木氏。「Fun」はWebアプリに好きな機能を実装することを体験できたこと。「Done」は研修中に毎日Javaを書くと決めて実施したこと。Javaは未経験だったものの、続けることでコーディング力が高まったことを実感できた。またプログラミングスクールでのアルバイト経験を活かして、同期向けにSpring Bootの勉強会を企画・開催した。「Learn」は学生時代に体験しなかった、テストを書くことやAWSに触れることなど。「野望と自己アピール」では「元々ものづくりが好きなので、将来的には製品をゼロから作るような経験をしてみたい」と述べた。
「この会社で大丈夫?」「市場価値は気になる?」働いている人の本音とは?
配属先が決まった後の感想を二人に聞いてみた。
鏑木氏は「やりたいことに挑戦できる環境がそろっていてうれしいです。配属されてまだ半年ですが、企画・設計・実装の流れを経験させてもらっています。本当に成長できるかどうかは自分次第ですね。あとチーム内に高い技術力を持つエンジニアやマネージャーがいるので、今後のキャリアを描きやすい環境だと思います」と話す。
久保本氏は「鏑木君同様、先輩やマネージャーの姿を見ると、こうなりたいとか、こういうことならできるのではと想像が膨らみます。逆に個人で開発をバチバチ楽しんでいる先輩を見ると『自分はこういうタイプではないのかも』と自覚できました。こういう形であれば、デベロッパーのキャリアの解像度をあげられるのだと分かりました」と話す。
どちらも同じチームの先輩やマネージャーを通じて、それぞれのキャリアの解像度を高められたようだ。さらに二人に本音を聞いてみた。
1点目は「この会社で働き続けて大丈夫?」。久保本氏は「研修前の配属が決まったばかりの時は、他の会社はどうかとか、ベストプラクティス的にはどうかとか、比較対象を知らないことによって、外部の技術から取り残されたりしないかという不安はありました。しかし、著名エンジニアの講演会が開催されたことで、改善を続けることが重要という会社の意思を感じ、そういった不安は払拭されましたし嬉しかったです」と話す。
2点目は「自分の市場価値は気になる?」。鏑木氏は「気になるかといえば、気になります。現在の自分と先輩の仕事内容で考えると、今は様々な技術を駆使して根本的な課題を解決するスキルを養っているので、数年後に自分のスキルがエンジニア市場で求められるものが乖離(かいり)することはないかなと思います」と話す。今の環境なら数年後も順調に自分の価値を高められるだろうという実感を持てているようだ。
最後に開発部門全体のオンボーディングを設計・運用している忍足庸平氏は「自分のキャリアは最終的には自分で切り拓いていくものですが、会社組織や先輩としてサポートできることはたくさんあると考えています。このやり方が絶対解ではないかもしれませんが、1つの事例として参考になれば幸いです」と述べて講演を締めくくった。