なりたい自分から逆算して問題を発見、理想の社会を支えるために学ぶ「STEAM教育」とは?
──自己紹介をお願いします。
田中若葉さん(以下、若葉さん):特定非営利活動法人東京学芸大こども未来研究所(以下、こども未来研究所)でSTEAM教育プロジェクトの専門研究員をしている田中若葉です。東京学芸大学の博士課程にも在籍しており、この4月から3年生になりました。
研究員としてSTEAM教育に関わる他に、個人でもSTEAMの魅力を伝えるため、SNSやYouTubeで発信活動をやっています。発信活動の原点は、修士の1年生だった2020年に、コロナ禍で子どもたちが学校にいけない状況に直面したことです。STEAM教育について学ぶ自分が社会教育の中で何ができるのかを考えて、子どもたちがお家にいても学び続けられるように「おうちでSTEM」というアイデアを思いつきました。その時に立ち上げたYouTubeチャンネル「たなかわかばのSTEMチャンネル」では、STEM/STEAM教育に関するコンテンツを多数アップしています。また、「田中若葉のばっちゃんねる〜大学院生の日常〜」でも、私がSTEAM教育に興味をもったきっかけや大学院生の日常などをお話ししています。
──そもそも、STEAM教育とはどのようなものですか?
若葉さん:STEAMは、「Science(科学)」「Technology(技術)」「Engineering(エンジニアリング)」「Arts(アート・リベラルアーツ)」「Mathematics(数学)」の頭文字を取ったものです。こども未来研究所では、STEAMを以下の図のようにとらえています。
まず、歴史や文化など、社会の背景にあるものを知り、そこから自分が理想とする生き方や実現したい社会を想像する「Arts」から始めます。工作や音楽で自分の思いや生き方を表現する作業も、この領域です。上の図では、流れ星が降るように、自分の中で「ありたい姿」をアイデアとして思いつく様子を表しています。
自分にとっての理想像が思い描けたら、ありたい姿になるために、解決すべき問題はそれぞれ違うはずです。ありたい姿とのギャップを埋めるために、「Engineering」で課題解決に取り組みます。図でいうと3つの足に支えられた座面の部分です。エンジニアリングは、自分たちの生活や社会をよりよくするために、仕組みをデザインします。
そして、エンジニアリングを支えるのが実験・観察を基に法則性を見出す「Science」、最適な条件・仕組みを見出す「Technology」、数量を論理的に表したり使いこなしたりする「Mathematics」の3つです。この3つの軸足を組み合わせてうまく活用しながら、自分のありたい姿に近づいていく活動を、STEAMと呼んでいます。
──STEAM教育は、従来の学習とは何が違うのでしょうか?
若葉さん:STEAMというと、いわゆる理系教育を想像される方も多いと思いますが、ただ理系の知識や技術を教えるだけではなく、よりよい生活や社会の実現のために、新しい価値を創り出して、実社会や実生活における問題を創造的に解決できるようになることがSTEAMです。予測困難で複雑な時代を生きる子どもたちが、自分で公正かつ豊かな社会を作っていくには、スキルだけではない人間としての資質も重視されます。スキルを身に付けることが目的ではありません。より自分に軸足があって、自己実現や社会の課題解決を思い描ける力を育てる、そしてそれらのゴールから逆算して理系の知識も身に付けていきます。
プロのエンジニアのみなさんも、社会をよりよくするために、技術力を活かしてものづくりをします。STEAMでは、社会の中で課題を見つける方法からサポートするので、自分や社会にとって本当に役立つエンジニアリングができるんです。これはSTEAMの大きなメリットだと思います。