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未来のエンジニアへ──プログラミング教育の最前線

未来のエンジニアへの招待状──STEAMインフルエンサー田中若葉さんが語る、エンジニアリング教育の最前線

未来のエンジニアへ──プログラミング教育の最前線

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中学生が自動運転プログラミングに挑戦! 中学校技術科教材「TECH未来」の魅力とは?

──若葉さんは、STEAMとどのように関わっていますか? 若葉さんが取り組まれているプロジェクトについて教えてください。

若葉さん:私はSTEAMの中でも、特に「Engineering」と「Technology」を専門にしています。

 学校教育に関わる部分でいうと、中学校技術・家庭科技術分野(以下、技術科)で活用できる教材「TECH未来」や、小学校の総合的な学習の時間で活用できるプログラミング教材に関する開発や教員研修などの普及活動を行っています。

 学校を超えた社会教育の面では、ニチイ学館さんと共同で幼児向けの教育プログラムを開発したり、アクセンチュアさんと小学生向けのデータサイエンス教材を開発したりしています。ワークショップも積極的に開催していて、おもちゃ王国さんが主催する「STEM QUESTスタジアム」や宮崎県延岡市の延岡こども未来創造機構と共同で「STEAMラボ」などにもスタッフとして参加します。また、2020年からはAWSさんに協賛をしていただき、全国の小中学校に「TECH未来」や「プログラミング未来」の教材を贈呈する活動も行っています。

 2023年には、こども未来研究所から『レッツ STEAMチャレンジ! 発明編』と『レッツ STEAMチャレンジ! 宇宙編』(いずれも、くもん出版)の2冊の書籍を刊行しました。今後はこれらの本を利用したワークショップも企画したいと思っています。

──若葉さんが開発に携わっている「TECH未来」はどのような教材ですか?

若葉さん:「TECH未来」は、中学校の技術科で活用できる教材です。中学の技術科では、生活や社会で利用されている主な技術を「材料と加工の技術」「生物育成の技術」「エネルギー変換の技術」「情報の技術」の4つの内容に整理して学習していきます。本教材では、これらのうち「エネルギー変換の技術」と「情報の技術」を、ブロックの部品を組み合わせたりプログラミングしたりすることによって、これらの技術の裏側にある科学的な原理法則や仕組みについて学び、さまざまな製品のモデルを作る過程から問題解決のプロセスを学ぶことができます。

中学校技術科の教材「TECH未来」で制作した信号機と電気自動車モデル
中学校技術科の教材「TECH未来」で製作した電気自動車モデルと信号機モデル

 例えば、このような電気自動車や信号機のモデルを製作できます。電池で動く自動車は、歯車の組み合わせで車の速さや力強さが変わります。これで電池の力でモータを動かし、歯車、そして車輪へと動力を伝える仕組みから「エネルギー変換の技術」を体感していただけるのはもちろん、学習者向けのマイコンボード「micro:bit」に対応したパーツを追加することで、モータの制御やセンサを使った計測ができるようになります。車の前方に赤外線センサを付ければ、障害物にぶつからないように車を停止させるなどの動作も自動で行うことが可能です。このように教材を発展させると、「情報の技術」にまで学びがつながるように工夫しています。ちなみに、プログラミングには「Microsoft MakeCode」というビジュアルプログラミングができるソフトを使うので、中学生でも無理なくプログラミングに触れられるんです。

 「情報の技術」の中には「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによる問題の解決」という内容項目も含まれるので、交通管制システムをイメージした教材も開発しました。本教材では、まず赤外線センサを搭載した信号機をブロックで作ります。写真の信号機の横に付いているグレーの箱が「micro:bit」のコントロールボックスです。MakeCodeで制作したプログラムを書き込むことで、LEDを実際の信号機のように動かせます。さらに、赤外線センサを取り付けることで、人や車両の有無を判定し、ネットワークを介してセンサの計測情報を、管制センターを担うパソコンに届けます。管制センターでは、それらの情報を基にライトの点灯の秒数などを制御して、信号機に命令を送るんです。また、管制センターから提供される情報に応じて、もう1台のパソコンに「人が多いので注意してください」といった交通状況をカーナビ画面のように、文字や静止画、音声などで表示して警告することができます。

 「TECH未来」は実社会に即した内容になっているので、世の中の便利なものの裏側で働く技術や仕組みを体験することができます。信号機も最初は個別に制御されていましたが、IoT技術の発展により、1か所の管制センターで制御できるようになりました。「今の社会で実際に使われている技術」という点が、子どもたちにも響いていると感じます。電気自動車の制御も、プロのプログラマーの人が取り組んでいる自動運転の開発を自分でやってみようという方が、進んで学んでくれると感じます。

 また学校の先生方には、Word形式でのワークシートも無償で提供しているので、生徒の興味に合わせて項目を変更しながら活用していただけるようにしています。このような拡張性の高さも「TECH未来」の特徴です。例えば坂が多い街なら、その地形に合わせて最適化された自動車をそれぞれ考えてみるとか、地域の交通状況に合わせて課題を考えてもらうのも良いと思います。自動車に速さを求めるのでも、坂道を安定して進める性能を重視するのでも、子供たちが自分なりの最適解を考えて、モデルを作って課題を解決しようとすることが重要です。

 今成人されている方の学生時代だと、学校の授業では一斉にみんなで同じモノを作るのが主流だったかと思います。しかしSTEAMでは、身近なモノを作るスキルと同じくらい、自分で社会の課題に気付いて、それを解決するためにスキルを使うというアプローチを大切にします。「TECH未来」にもモデルはありますが、既存の教材よりも子供たちが自分のアイデアをかたちにしやすいという点で、今の時代により必要とされる教材にできたと思います。

「TECH未来」で電気自動車を組み立てる様子
「TECH未来」で電気自動車を組み立てる様子 

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小さなエンジニアたちへの道しるべ──プログラミング学習をどのようにサポートするのか

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この記事の著者

大河原 由貴(編集部)(オオガワラ ユキ)

 2023年に新卒で翔泳社へ入社し、CodeZine編集部に配属。筑波大学生命環境学群生物学類卒。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

関口 達朗(セキグチ タツロウ)

フリーカメラマン 1985年生まれ。東京工芸大学卒業後、2009年に小学館スクウェア写真事業部入社。2011年に朝日新聞出版写真部入社。2014から独立し、政治家やアーティストなどのポートレート、物イメージカットなどジャンルを問わず撮影。2児の父。旧姓結束。趣味アウトドア。

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