小さなエンジニアたちへの道しるべ──プログラミング学習をどのようにサポートするのか
──今までの取り組みの中で、子どもたちがプログラミングに興味を持ってくれたエピソードがあれば教えてください。
若葉さん:毎年、岡山県で「おかやまキッズプログラミングアワード」というコンテストが開催され、私はその大会に向けたワークショップの講師をしていますが、このワークショップに毎年参加してくれる子の成長には驚かされました。ワークショップでは与えられたマップ上のコースを走る自動車を製作して、プログラミングで動かします。ワークショップに参加してくれた子どもたちの中に「お家でももっとやりたい」と言ってくれた子がいたので、自動車の教材を貸し出しました。その子は、ワークショップで学んだ知識だけでなく自力でアクセルとブレーキの踏み間違いを解決するシステムを開発し、次の年の岡山県代表にも選出されて、全国大会に進んでくれました。
さらに、「TECH未来」のパーツを駆使して課題を解決する「TECH未来活用力コンテスト」に応募してくれた子どもたちのアイデアも素敵です。昨年グランプリを取った子は、お年寄りがシルバーカーを引く様子を目にして、自動で人の後をついていくカートのモデルを開発してくれました。また、学校の先生が朝早くから運動場に石灰の白線を引いている姿を見て、遠隔操作で校庭に白線を描ける「自動ラインカー」を提案した子もいます。この「自動ラインカー」は、操作用コントローラーと本体にそれぞれ「micro:bit」を搭載し、それらを通信させてラジコンのように本体を動かすという超大作でした。均一な粉の出方を実現するために攪拌機まで作り込んでいて、ソフトウェアだけでなく、ハードウェアの仕組みも工夫していました。
子どもたちは「こんな車があったら便利なのに」と自分で課題を見つけると、夢中になって作品作りに取り組んでくれます。これからも彼らのそういう気持ちに向き合える教材を提供していきたいです。
──STEAMを伝えるうえで、苦労している点はありますか?
若葉さん:学校のIT環境について、まだ整備が必要だと感じる点があります。授業を始めたくても、アクセス制限が厳しくネットワークに接続できない場合や、教材のインストールに問題があることなどです。
また、プログラミングに関しては、教える側も関数などの抽象的な概念を理解していないと、分かりやすく伝えることは難しいと感じています。私も数学の専門的な内容はあまり得意ではないので、この点は頑張っていますね。「関数」や「乱数」などの専門的な用語は、ワークショップや授業で扱う範囲を超えるのですが、子どもたちの年齢や学習レベルを考慮しつつ興味や意欲を尊重できるように、どこまで教えるべきかを慎重に判断しています。こういった専門用語が出てくるとプログラミングに対して苦手意識を持ってしまう子もいるので、用語を解説するというよりも考え方を伝えることが重要です。そのためにも、教える側のきちんとした理解は欠かせないと思います。
──子どもたちのプログラミングの学習をどのようにサポートしているのですか?
若葉さん:初めてプログラミングに触れる小学校低学年向けのワークショップだと、「人間プログラミングゲーム」というアイスブレイクを行うことがあります。これは二人一組でペアになり、お互いに「右手を上げて」「足を開いて」といった指示を出します。指示を受けた側は、命令の通りにしか動くことができません。相手の指示に従う体験を通して、コンピューターにとってプログラムが、ゲームで出される指示と同じであることを理解してもらうのが目的です。
ワークショップでは、一緒にプログラムでモデルを動かす練習をしながら、意図的に間違ったプログラムを示すこともあります。例えば信号機の場合、青から赤に変わる際には、青色のライトを消して、次に赤色のライトを点灯させるという2つの操作があります。しかし、多くの子供たちが青色のライトを消す手順を見落としてしまうんです。うまくいかない経験をしてもらって、一つ一つのプログラムの重要性に気付いてもらいます。