使ってもらい、改善し、さらに利用者を増やす。草の根活動の重要性
最後に、化学事業部側のIT知識不足への対応が必要な点だ。利用と運用に関する難易度を下げるため、アーキテクチャ導入に当たっては、GitHub Actionsを利用したCI/CDパイプラインを構築する際デプロイをActionsからのみに制限したり、デプロイ前にLambda関数のテストをローカルで行うことができるようDockerやLocalStackを用いたローカル開発環境を構築。開発やテストが実施しやすいよう、多くのツールを開発した。
他にもLinterとGitフックを組み合わせ、チームのルールに則っていないコードはコミットできないよう調整。さらに事業部内で解析データを横展開する際、展開を正確かつ簡素に実施できる対話型スクリプトも開発した。これはスクリプトから聞かれた内容を入力するだけで、別チームの追加に必要なリソースを自動で作成できるというものだ。
これらの問題に対処した結果、実装したアーキテクチャは当初想定していた数倍の規模に膨れ上がった。パイプライン開発という観点からは、「むしろこのくらいの問題で済んで良かったという感覚」(幸浦氏)だったが、リファレンスアーキテクチャというプロジェクトの観点から見ると、今後の展開に課題を残す結果となった。「当初の想定とは全く別物になった」という事態は、他の事業部に対しても起こる可能性があるためだ。
「現状のリファレンスアーキテクチャは、お世辞にもそのまま利用できるとは言いづらい実情が明らかになった。現時点では、利用者側に実装や運用を委ねるのは厳しいだろう」と結果を受け止める幸浦氏。
今後は個別支援のような形で直接プロジェクトに参画して支援活動を行っていき、社内の技術レベルの底上げを図るという。さらに、その活動と並行して「共通モジュールやプラットフォームの開発を進めていき、利用者が自力で利用できるレベルの成果物の整備を進めていく」ことも展望として示した。
もう一つの課題が、困りごとに気づいていない部署に対するアプローチだ。今回のケースにおいては事業部側での困りごとが明確であったため、ゴールが見えやすかった。しかし他の部署では、「自分たちの状況に気づかずに開発を進めている場合が多々ある」という。そのような部署に対して、クラウド活用の有効性やCI/CD、IaCなどの利用を推進していくために、どのようなアプローチをかけていくかも再度検討する必要性を実感したのだ。
同時に多くのチームを支援する体制を整えるべく、チーム全体のリソースとスキルセットの向上にも意欲を示す幸浦氏。既存成果物の運用についても、「提供の形態やラインナップの拡充、生成AI系のサービスとの棲み分けなど多くの要素で議論の必要がある」としている。
講演の最後に、幸浦氏は「個別支援を通じて、作ったものを広げていくことは大変だと改めて感じた」と語る。新たな制作物や仕組みをいきなり会社全体に浸透させることは難しく、「一歩ずつ普及活動をしていくしか方法はない。徐々に巻き込む人を増やして輪を広げていき、フィードバックを通じて改善し、改善したものが新たな利用者を生むという好循環を作ることが重要だ」と、草の根活動の重要性を力説した。
「今後も更なる適用先部署と連携を広げていきながら、社内のクラウド活用の輪を広げていくための活動を続けていきたい」と意気込みを語り、講演は終了した。