WAKE Careerの最終目標は「バイアスによる格差をなくすこと」
最後に、咸氏はIT業界の抱える課題であるジェンダーギャップについて今後の展望を語った。IT業界の女性比率は約20%、女性管理職の比率は約6%とかなり低いのが現状だ。ライフイベントの影響が少ない20代ですら男女でリーダー割合に差が出ているのは、「確実にジェンダーバイアスの影響」と咸氏は結論づける。
ギャップを解消するためには、母集団を増やしつつ企業環境と意識を改革することが欠かせない。今後エンジニアになりたい女性が増えたとしても、ロールモデルが不足する"男性的な職場"が多いままでは、キャリアイメージが持てず離脱する女性エンジニアが増え、格差がさらに拡大することが予想されるという。これを踏まえて咸氏は、「女性が当たり前にリーダーの選択肢が持てる環境へアップデートしていくことが重要」だと強調する。
ロールモデルを増やした結果、ギャップが解消に向かった事例として、咸氏はインドで採用された女性のクォータ制(人種や性別などを基準都市、一定の比率で人数を割り当てる制度)を挙げた。同制度によって女性議員が5%から40%へ増加し、ロールモデルとなった結果、女子学生の家事に費やす時間が減少し、学歴の男女差が改善の兆しを見せているというのだ。「見えないものにはなれない。そこにいるから選択肢が広がる」のだ。
では、日本においてジェンダー格差を解消するにはどうすれば良いのか。咸氏は「逆差別や女性優遇と捉えられがちだが」としたうえで、やはりポジティブアクションが重要だと話す。「これは『女性ならば、能力が低くても採用しろ』という主張ではない。採用基準は下げないまま採用フローの仕組みを変えようということだ。人間には絶対にバイアスがある。そこを改善するだけでもギャップ解消につながる」というのが咸氏の見解だ。
企業側はもちろん、女性側のバイアスも無視できない要素だ。一般に女性は、「自分が何かを達成できたのは運が良かっただけである」と思い込みがちだとされる(※インポスター症候群)。このため女性は、たとえ管理職を打診されても辞退してしまうことがあるという。
「この傾向を理解し、アクションを起こしている企業はすでにある。たとえばメルカリは、女性を管理職に推薦する際は『3回誘う』という施策を講じている。またリクルートでは、管理職要件を言語化することにより女性候補を2倍に増やした。こうした支援を力にしつつ、女性側が自信を持っていくことが重要だ」(咸氏)。
講演の終わりに、咸氏は「今日の登壇者のうち、女性は何人いたでしょうか?」と問う。「きっと10%に満たないだろう。これを50%にすることが、私たちの夢だ」。そのためには今後、中途採用時の格差解消、女性エンジニアやリーダーの増加などを通じてギャップ解消に注力していくと述べ、講演を締めた。