キャリアプランが案件に振り回されてしまわないための可視化
ここでEM不在により生じた課題の2点目、キャリアプランに話を移そう。エンジニアの案件参画が営業引き合い依存になるケースが多く、経験がアサインに振り回されてしまうためキャリアプランが描きづらいということが起こる。振られてくる案件が自分の目指す傾向と異なるのでエンジニアとしては悩ましい(それでもアサインされたら自分の得意分野や目指す方向と違っていても、チャレンジしようとするが)。
営業としても悩ましい。「せっかく仕事をとってきたのに、エンジニアが対応できないとはどういうことか」と営業も困ってしまう。池ノ上氏が間に入ることもたびたびあった。ある時はゼロトラストのサービスに申し込んだ顧客がいて、エンジニアが出向くとそこには物理的な電話回線で、ソリューションと大きく乖離した現場だったということもあるという。
そこでソリューションマップを作成し、既存の事業との関連性が分かるように、かつエンジニアがキャリアを描けるようにした。もともと同社は業務プロセスを分解して効率化するのが得意なので、そこからテスト設計・実行・管理などに分かれ、さらにテスト自動化、CI/CD基盤、RPAなどを発展させてきた。そうした背景を活用すべくアジャイル(テスト・チーム支援)も加わり、DevOpsへと昇華された。一方、テスト経験者がプロジェクト管理のなかでPMOやベンダーコントロールを担うようになり、そこから多様なソリューションが発展、展開している。

こうして既存のビジネスから新しい分野を発展させているところを可視化することで、営業とエンジニアのアライメントが生まれ始め、いい関係性が築けるようになってきた。
3点目はチーム醸成。これはナレッジマネジメントの話でもある。プロジェクトの経験や実績がプロジェクト内に留まってしまい、組織全体に展開されないことで属人化や知見の断絶が発生してしまう。結果として、開発の非効率化や技術負債の蓄積を招く状態が発生していた。
そこでプロジェクトのライフサイクルマネジメントのなかでナレッジ共有の仕組みを整備することにした。受注の背景などから定期的に進捗をウォッチして、無事終了したらポストモーテムで振り返り、資産を残して次のプロジェクトに活かせるようにした。

それでもプロジェクトが増えてくると、プロジェクトライフサイクル活動により開発品質のばらつきが生じてきた。対策として池ノ上氏は開発標準を作り、アセットを揃えることにした。これを実際に運用していくためにCoEを設置した。発足当初、コストを疑問視する声も出たため、セールスへの責任を追う「利益を出す部門」として運用しているという。
さまざまな価値観のギャップに直面し、エンジニア部門の環境整備を進めてきた甲斐もあり、エンジニアが満足できる環境が整ってきたと言える。近年の実績平均では、年間給与上昇率は9.84%、離職率は6.1%まで減少した。
池ノ上氏は最後に次のように述べて講演を締めくくった。「こういう講演の機会をいただけるような企業になり満足しています。まだやりたいことは残っています。これからも『技術といえばSHIFT』と言われるところまで持って行けるようにがんばります」