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Developers Summit 2025 セッションレポート

技術で組織に貢献する「参謀」──スタッフエンジニアが拓くキャリアの可能性

【14-E-1】「スタッフエンジニア マネジメントを超えるリーダーシップ」 時代の変わり目に考える自分のキャリア

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スタッフエンジニアになるには何が必要か

 スタッフエンジニアになるにはどうすればいいのか──多くの参加者が最も関心を寄せたこの問いに対し、増井氏は「入学方式」というユニークなメタファーを用いて説明した。ジュニアからミドル、ミドルからシニアまでは、一定のスキルや経験を積み重ねれば自然と昇格していく「卒業方式」が一般的である。しかし、シニアのその先にあるスタッフエンジニアは、誰かに「認められる」ことが前提となる。「自分で名乗る」のではなく、「周囲から任命される」ロールである点が決定的に異なるのだ。

 その認定に必要なのは、組織全体への技術的貢献と、リーダーや経営層からの信頼である。「この人に任せれば間違いない」「会社の未来を託せる」と思わせるだけの実績とふるまいが求められる。もはや技術力の高さは前提条件であり、それを組織的価値へと転換するソフトスキルこそが、差別化の鍵を握っている。

 具体的には、後進の育成に注力したり、部門横断で知見を共有したりする行動が評価されるポイントとなる。また、自身の実績を言語化し、推薦文(プロモーションパケット)として提出する手法も有効だ。増井氏自身も、過去に自らの強みを文書としてまとめ、元同僚たちから率直なフィードバックを受け取ることで、次なるキャリアの方向性を見出した経験がある。

増井氏が転職の際に作成したプロモーションパケット。過去に一緒に仕事をした人たちに意見を聞いてまとめたものだという
増井氏が転職の際に作成したプロモーションパケット。過去に一緒に仕事をした人たちに意見を聞いてまとめたものだという

 さらに、スタッフエンジニアというロールが今後より社会的に重要性を増していくことを見据え、「組織側にもその役割を正式に定義し、上位職として明示するメリットがある」と増井氏は指摘する。技術的に優れた人材を無理にマネジメント職に押し込むのではなく、技術を軸に組織を牽引する道筋を用意することは、企業文化の強化にも直結するからだ。

 セッション終盤では、ChatGPTをはじめとする生成AIの登場を契機とした「非連続な技術変化」への向き合い方にも言及があった。クラウドの普及、モバイルの浸透、機械学習の進化といった過去の技術革新と同様に、生成AIもまた、業務プロセスや組織構造に大きな変化をもたらす局面に入っている。こうした変化に対応する上で、スタッフエンジニアは単なる実装者ではなく、「組織に技術をインストールする翻訳者」としての役割を果たす必要がある。

 実際、非エンジニア職がChatGPTを活用して簡単なコードや自動化を行うケースも増加しており、「技術とは何か」という定義そのものが拡張されつつある。スタッフエンジニアは、こうした拡張された技術の価値を、組織のあらゆるレイヤーへと伝播させる触媒的な存在として期待されている。

 最後に増井氏は、次のように語りセッションを締めくくった。

 「スタッフエンジニアは、コードを書く職種というより、“技術で組織に貢献する役職”である。だからこそ、技術の力を信じ、それを社会や組織のために活かしたいと願うエンジニアにとって、このキャリアは非常に面白く、やりがいのある道だ。ぜひ皆さんのキャリアのヒントにしてほしい」

 スタッフエンジニアというロールは、単なる上級エンジニアではない。「技術による貢献」を軸に、現場・経営・文化のすべてを橋渡しする存在である。マネジメント以外のキャリアパスを模索するエンジニアにとって、その役割の定義と可能性を再考する貴重な機会となったに違いない。

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この記事の著者

水無瀬 あずさ(ミナセ アズサ)

 現役エンジニア兼フリーランスライター。PHPで社内開発を行う傍ら、オウンドメディアコンテンツを執筆しています。得意ジャンルはIT・転職・教育。個人ゲーム開発に興味があり、最近になってUnity(C#)の勉強を始めました。おでんのコンニャクが主役のゲームを作るのが目標です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

井山 敬博(イヤマ タカヒロ)

 STUDIO RONDINOのカメラマン。 東京綜合写真専門学校を卒業後、photographer 西尾豊司氏に師事。2008年に独立し、フリーを経て2012年からSTUDIO RONDINOに参加。 STUDIO RONDINO Works

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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

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