遊び心と実装力が交差する個人開発 ポケコン愛を語る
クラウド構築という本格的な技術スタックを披露した学生たちの後、ひときわ異彩を放ったのが、Faber Companyの菅原政行氏による発表だ。昭和の計算機「ポケコン」で、Twitterクライアントを作るという、遊び心と実装力が交差する世界観に、会場はどよめきと笑いに包まれた。


発表冒頭、懐から取り出されたのは、小型の携帯型コンピュータ「ポケコン」。いまや知る人も少なくなったこのデバイスで、会場のハッシュタグツイートを取得・表示するリアルタイムデモが披露された。使用されていたのは、なんとTwitterのAPIを直接叩くという仕組み。表示されるのは、漢字混じりの日本語のツイートだった。しかし、「ポケコン(SHARP PC-G850VS)は半角英数字しか扱えないはずでは?」という疑問に、菅原氏は自ら開発したフォント変換や通信処理の仕組みをユーモアたっぷりに解説する。

通信処理はHTTPのリクエストを手書きで構築し、JSONのタイムラインレスポンスを読み解く。数百KBのデータを扱うにはメモリが足りず、デシリアライズせずに冒頭から必要な情報だけを拾って処理。フォント変換はUTF-16→UTF-8→Shift_JIS→ビットマップという複雑なステップで実現されている。


このプロジェクトは、2018年にハッカソンで着想を得て以来、展示会などを通じて機能強化を続けてきた。菅原氏は、プログラマーであると同時に「テーブル職人」だと冗談交じりに語りつつ、3種類の表示モードを駆使した文字描画の違いによって「頑張ってる感」を演出する細やかな設計思想を披露した。
なんとも驚くべき「愛と狂気」だが、実用性があるかと問われれば「誰の役に立つの?と言われるでしょうね」と菅原氏。だがすかさず、「それでいいやん、と言い切れるのが個人開発のいいところ」だと言葉を続ける。
「どれだけ制約が厳しかろうと、好きなだけ時間を使って取り組める。ツイートがゆっくり描画されていく…なんて表現にも自由にチャレンジできる」(菅原氏)
菅原氏とポケコンとの出会いは中学2年のクリスマス。サンタクロースが届けてくれた初めてのコンピュータが、いまの開発者人生の原点になった。アップデートも降ってこない、マニュアルもない。でも自分で解析すれば、できることが増えていく。そんな喜びが、ポケコン開発には詰まっている。
発表の締めくくりには、「皆さんもポケコンをゲットして、プレイヤーとしての一歩を踏み出してほしい」と笑顔で呼びかけた。その姿勢は、個人開発という営みの根本的な自由さと楽しさを体現していた。
