イオンやヤマト運輸でも使われているスマートデータキャプチャ
今やスーパーやコンビニではセルフレジが当たり前の世界になりつつある。それを可能にしているのがバーコードスキャン。今ではバーコードだけではなく、テキストやIDなどをデバイス上で読み取ることが求められていることから、スマートデータキャプチャと呼ばれている。そしてこの技術を牽引しているのが、スキャンディットである。
スキャンディットの設立は2009年。従業員数は約400人だが、スイス・チューリッヒの本社以外に、日本、アメリカやイギリスなどでオフィスを設け、世界規模で事業を展開している。現在は非上場だが、世界中の大手企業を含め約2000社に採用されており、その信頼性の高さから投資家から投資を受け、ビジネスを拡大。またAppleやサムスンなどのデバイスメーカーやOSメーカーともパートナーシップを組んでおり、新しいOSや端末でトラブルがあれば、メーカーがサポートするという体制も構築しているという。
「日本国内でもイオングループやセブン&アイ・ホールディングス、ヤマト運輸などの大流通や物流をはじめ、カルビーなどの食品会社、トヨタ自動車などの製造業でも採用いただいています」こう語るのは、同社日本法人でカントリーマネージャーを務める秋谷哲也氏である。
スキャンディット合同会社 カントリーマネージャー 秋谷哲也氏
撮影場所:WeWork 渋谷スクランブルスクエア(以下、同様)
例えばイオングループの店舗では「レジゴー」という消費者自身がスマートフォン(以下、スマホ)で商品のバーコードをスキャンし、専用レジで会計するサービスが提供されている。このレジゴーを実現しているのがスキャンディットの技術である。レジゴーは昨年、イオングループの公式アプリ「iAEON(アイイオン)」にミニアプリとして実装された。「レジゴーはレジ待ちを避けたいというお客さまに選択肢を提供するサービス。非常に多くのお客さまに使っていただいて嬉しく思っています」(秋谷氏)
スキャン技術に違いがあるの? 現場の「使いづらい」を無くす進化
スマートデータキャプチャ技術をけん引し、進化させてきた同社だが、「例えばバーコードだけというように1つの製品をスキャンするシングルスキャン機能だけであれば、無償のバーコードスキャンソフトや赤外線によるスキャナーなどと、差別化を十分に感じる場面はなかなか少なくなってきているのは事実」と秋谷氏は本音を吐露する。
ではどう進化させてきたのか。秋谷氏は第一に「読み取り精度の高さと読み取りスピードの速さを進化させてきたこと」を挙げる。例えば倉庫や店舗のバックヤードなど、オフィスなどと比べて照明が暗いところでも、スキャンディットのバーコードスキャンソフトウェアであれば、精度高くかつスピーディーに読み取ることができる。またスキャン位置が斜めでも容易に読み取ることもできるのも特徴だ。無償のバーコードスキャンソフトは、スキャン位置を正面に合わせなければ読み取ることが難しい。だがスキャンディットは斜めからでも読み取れるよう、AIを活用している。「ここも従来の赤外線スキャナーや無償ソフトと違うポイントです」と秋谷氏は言い切る(対応するバーコード一覧)。
第二は複数バーコードの同時読み取りを可能にしたこと。例えばスマホのパッケージにはシリアルナンバー以外にもIMEIなど、複数のバーコードが添付されている。これを従来のガン型の赤外線スキャナーで読ませようとすると、「狙いを定めるのが難しく、例えば4個のバーコードを読み取るのに、かなり時間がかかっていました」と秋谷氏は話す。だが、スキャンディットであれば4個のバーコードが貼られている部分にかざすだけで、一気に複数のバーコードを読み取ることが出来る。「このようにニーズがあり、カメラでしかできない機能の開発に努めています」(秋谷氏)
その一つが、マルチモーダルキャプチャー機能の提供である。「特にスーパーでのニーズにより開発された」と秋谷氏。賞味・消費期限の管理が効率的かつ正確に管理できるようになるからだ。
賞味・消費期限が近づいた食品は、一般的に割引の対象になる。だがこれまで賞味・消費期限の管理については、「店頭に並んでいる一番新しいものと一番古いものを店員が調べて紙に記し、それをパソコンのデータベースに入れて管理することが多かった」と秋谷氏は言う。そのため割引の見逃しや誤った割引をすることもあったという。だが、スキャンディットの「Smart Label Capture」であれば、バーコードと賞味・消費期限を同時に読み取ることができる。しかも袋や筒状の食品のように賞味期限が記された部分が波打ったり、曲がっていたり、またペットボトルのようにキャップ部分にドットで印字されていたりなど、難読性の高い文字も容易に読み取ることができる。さらにバックヤードの商品管理システムと連携すれば、取得した賞味期限のデータを、直接データベースに登録することができる。
またARを活用し、ピッキングをサポートする機能の開発にも取り組んでいる。これも「お客さまからのニーズがあったため」と秋谷氏は語る。
コロナ禍以降、需要が高まっているネットスーパー。需要の高まりと共に、課題になってきているのがピッキング作業をいかに効率的にするかである。ある大手スーパーでは、ピッキング業務をベテランの社員に任せていたという。ベテランであれば、どこに何が置かれているかを把握しているため、効率良くピッキングできるからだ。だが経営の視点から見ると、ベテランの社員をピッキング業務に当てるのは生産的ではない。そこでスキャンディットでは売っている場所を知らない新人でも、効率的にピッキングできるソリューションを開発。棚割の様子を動画で取得した上で、効率的なピッキングルートを計算、ARオーバーレイで表示させることを可能にしたのだ。「バーコードスキャンから始まった技術ですが、お客さまのニーズに応える技術に関しては、積極的に投資をして、開発に取り組んでいます」(秋谷氏)
エンタープライズでの信頼性を数千万回に及ぶテストで担保
一般的にスマホアプリを開発する場合、テスト環境で使われる端末は最新かつハイエンドなものが多い。だがスキャンディットは、「約2万機種でテストしている」と秋谷氏は話す。というのもスキャンディットのアプリを利用する端末は千差万別だからだ。特にレジゴーのように一般消費者が使うアプリの場合はどんな端末で使われるかわからない。中には7年前ぐらいに発売された端末を使っている顧客もいる。そういう顧客でも使えるようにしているのが、スキャンディットの信頼性の高さにつながっているのだ。
また印字の読み取りについても、何千万回ものテストを繰り返し実施し、精度を高めているという。例えば印字が汚れていたり、すれたりしていても、正確に読み取れるよう機械学習や深層学習などのAI技術を駆使し、読み取れるようにしている。
また細かい設定ができるのも、スキャンディットの特徴だ。「自分たちがやりたいことができるよう、GitHubでサンプルコードやガイドをたくさん公開しています。それらを見れば、やりたいことを実現する方法がすぐ分かるようになっているのも、私たちがエンタープライズ環境で選ばれている理由だと思います」(秋谷氏)
Flutterや.NET MAUIにも対応したSDKでアプリ開発も容易に
スキャンディットを自社アプリに実装する方法は3つ。1つはネイティブアプリ用の「Scandit Barcode Scanner SDK」を使用する方法。「Flutterや.NET MAUIなどはじめ、マルチプラットフォーム対応のフレームワークにも対応しているので、OSを意識することなくアプリの開発ができます」と秋谷氏は語る(対応するフレームワーク一覧)。
2つ目はウェブアプリ向けSDKを使用する方法だ。「今あるWebの業務アプリに当社のライブラリを入れ込むことで、OSを選ぶことなくスキャンディットのエンジンが使えるようになります」秋谷氏は言う。さらにウェブアプリでも、ネイティブと同等の精度・パフォーマンスを発揮することはスキャンディットの大きな強みだ。
3つ目は「Scandit Express(スキャンディットエクスプレス)」として組み込む方法。これや秋谷氏曰く「キーボードアプリのようなもの」とのこと。キーボードアプリをインストールするのと同じように、Scandit Expressをデバイスにインストールし、設定するだけで使えるようになるという。
「一般消費者向けのアプリに組み込むのなら、ネイティブSDKが良いと思います。一方で業務アプリならネイティブ、Webのどちらでも良いでしょう。ですが、通信環境が良くない、オフラインでも使いたいのであれば、ネイティブがおすすめです。予算やスケジュール、状況などに応じて、柔軟に対応できるのも特長だと思います」(秋谷氏)
これらの方法を使ってスキャンディットを組み込み、さらなる設定の微調整が必要な場合が生じても、同社のエンタープライズサポートチームが対応してくれるという。実際に前述のレジゴーでは、スマホをショッピングカートに取り付けて利用するため、当初はカゴの縁が画角に入っていたという。それをエンタープライズサポートチームに伝えたところ、カゴの縁が画角に入らないようソフトで微調整を行い解決した。
「例えばある程度までつくったものの、もう少し細かい設定をしたいという場合は、当社でサンプルコンフィグをつくり提供します。その他、特定の場面でうまくいかない場合のコードの相談やレビューなどにも対応するなど、サポートの手厚さには自信があります」(秋谷氏)
エンタープライズサポートチームは本社(スイス)にあるが、日本語でできるのも心強い。サポートからの返信も翌日、遅くても翌々日には来るという。「悩んでいるのであれば、まずはサポートに問い合わせ、開発工数の削減につなげてほしいです」(秋谷氏)
共にスキャンから始まる体験を進化させるために
実際、スキャンディットを導入した企業では業務効率の削減に繋げている。例えばスーパーマーケットを展開するオーケーでは、ネットスーパーのピッキング業務に活用。従来、紙のリストを使ったピッキングでは1商品当たり5秒かかっていたところ、アプリでは2秒に短縮。ピッキングミスもほぼ0になったという。
またヤマト運輸では配送パートナーが使用する業務アプリにスキャンディットを導入することで、トラックの積み込み作業時間を従来の3分の1に削減したという。
そして、現在は流通や物流、製造業以外にも、トレーサビリティが必要な医療や製薬業界、パスポートのスキャンなど観光業界などでもスマートデータキャプチャ技術の利用が求められていると言う。
「バーコードスキャン専用のデバイスにも、OSにAndroidが使われているなど、スマホとの境目がなくなってきています。加えてスマホの方が専用端末より、利用に対する心理的ハードルが低い。それから考えても、今後はますますバーコードを読み取る機器としてスマホを使われるケースが増えてくると思います。
スキャンディットであれば、容易に読み取り機能を自社のアプリに組み込むことができます。そういうアプリの開発を検討しているのであれば、一度、ぜひ試してみてほしいですね。スキャンディットでは、無料のデモアプリ、無料トライアル、無料ドキュメンテーションもご用意しています」(秋谷氏)
スキャンディットはあくまでも要素技術である。組み込んだアプリを開発するのは容易にできても、業務効率化や使い勝手の良さなどにつなげるには開発者の知恵が必要だ。例えば複数のバーコードスキャンによって、取得した異なるデータをどうデータベースの適材適所に入力し、管理するのか。そこにはシステム側の調整が必要になる。特にARの活用については、「開発者が考えるべきことがたくさんある。それが面白いところだと思います」(秋谷氏)

