「アプリケーション基盤としてのWeb」を実現するHTML5
プラグインの置き換えと聞くと、マルチメディア再生やグラッフィクスといったAPI機能を真っ先に思い浮かべがちだが、HTML5にはそのほかにもスレッド管理やストレージアクセス、ネットワーク、ファイル/ディレクトリ管理など、従来はOSのネイティブAPIがカバーしてきた機能が多く盛り込まれている。つまりHTML5の世界では、従来はネイティブアプリしか取得できなかった多様な情報を、Web APIを通じて自由に取得・利用できるようになるのだ。
「つまり、ブラウザがアプリケーション基盤になるということだ。ブラウザの上で動作するものは、『Webページ』だけではなく、『アプリケーション』という文脈で多くが語られるようになる」(羽田野氏)
ブラウザがアプリケーション基盤になるということは、同じアプリケーション、同じコンテンツが、HTML5対応ブラウザを搭載したあらゆるデバイス上で動作することを意味する。つまり、今までにないほど広範なレベルでの「マルチデバイス化」が実現するかもしれない。これにより、コンテンツ配信事業者は多くのビジネスチャンスを掴むことができるし、消費者側にとっても同じコンテンツをさまざまなデバイス上で楽しむことができるというメリットが生まれる。
さらに言えば、エンタープライズITの世界にも大きな革新をもたらす可能性がある。現在、企業システムの世界では、社員個人が所有するデバイスを使った業務システムの利用、いわゆる「Bring Your Own Device」(BYOD)が注目を集めているが、異なるデバイス間の差異を「アプリケーション基盤としてのブラウザ」が吸収してくれるHTML5は、これを実現する上でも大変有利だ。
「企業の経営者やIT部門にとっては、HTML5によるアプリケーションの利用・開発環境の統一が、企業システム構築・運用のコスト削減の切り札になる可能性がある」(羽田野氏)
このような、「アプリケーション基盤のWebへのシフト」は、決して遠い未来の話ではない。それどころか、現にあらゆるところで既に着々と進行しつつある。例えばGoogle Chrome OSやOpera Widgetといった技術は、まさにWebをアプリケーション基盤とする試みであるし、Webアプリケーションをさまざまなプラットフォームのネイティブアプリケーションに変換するPhoneGapやTitanium Mobileといったソリューションも、同じ系譜上に連なるものだ。
さらには、次期Windows OSである「Windows 8」のアプリケーション基盤「メトロスタイル」では、HTML5とJavaScriptだけでネイティブアプリケーション並みの高度なアプリケーションを開発できるようになると言われている。ここまで来ると、もはや『ネイティブアプリか、それともWebアプリか』といったことは問題にならなくなる。
かつては、Webアプリケーションはネイティブアプリケーションに比べ、性能面で劣るのが一般的だった。しかしこれも、近年のブラウザの劇的なパフォーマンス向上と、それを下支えするハードウェアの進化により、ほとんど問題にならなくなった。特にスマートフォンやタブレット端末に関しては、搭載されるCPUのマルチコア化による性能向上や、タッチパネルデバイスのコモディティ化と進化により、アプリケーション基盤としての利用環境が十分に整いつつある。