あらゆる領域にWeb技術が入り込んでいく
羽田野氏は、今後アプリケーション基盤としてのWebテクノロジーは、さらに幅広いデバイス上に適用されていくだろうと予想する。
「ブラウザの搭載が前提にはなるが、Webテクノロジーの適用範囲がさまざまな領域に広がっていくに従い、アプリケーションも同じようにその利用シーンを広げていくだろう」(羽田野氏)
その一例として、同氏はテレビ製品を挙げる。サムスンの「Smart TV」はアプリケーションをテレビ画面で楽しむことができ、もはや放送の受信端末というよりは、スマートフォンやタブレット端末が巨大化したものだ。つまり、テレビの「アプリケーション化」とも呼べる進化形態である。このほかにも「Opera TV Store」や「NetFront Browser NX」など、テレビや家電製品上でHTML5のWebアプリケーションを利用可能にする製品が注目を集めている。
また、羽田野氏が現在関わっているプロジェクトの1つに、デジタルサイネージの分野でHTML5を活用する取り組みがある。現在、デジタルサイネージには専用システムが使われているが、これを汎用デバイスとWeb技術の組み合わせで作れば、現状よりはるかに低コストでシステムを実現できるようになる。このように、Webテクノロジーはもはや「Webページ」という文脈を越えた世界での利用が始まりつつある。
先進的なベンダーは、さらに先を行くWebの未来予想図を描いている。例えば鏡やガラスがディスプレイになってコンテンツが表示されたり、タッチパネル操作でWebアプリケーションを操作したりといったことが、研究開発レベルでは既に実現しつつある。中には、何もない空中にディスプレイを表示するような技術も登場してきている。
ただし、ハードウェアの進化だけでは、こうした技術は普及しないだろうと羽田野氏は指摘する。ソフトウェア技術、それもHTML5だけではなく、それを周辺で支える基盤技術の整備が待たれる。例えば、IP技術をベースにした放送と通信の連携技術や、業界の垣根を越えたマルチデバイス化のための共通基盤作りが現在進められている。
「今後はテレビ機器業界や出版業界、サイネージ業界、車載機器業界など、あらゆる業界のコアビジネスの中にWebが組み込まれていく。つまりHTML5により、われわれが持っているWebのスキルが『Webページ制作』という文脈を越えて、あらゆるビジネスで活用されるようになる。Web技術者が今後進むべき道を考えた場合、従来のスキームの中に留まるのもいいが、このセッションをきっかけにぜひWebが持つ新たな可能性に目を向けてみてはいかがだろうか」(羽田野氏)
羽田野氏はそう語り、セッションを締めくくった。