原著者本人に会って直接翻訳を許可してもらった
―― 『システムテスト自動化 標準ガイド』の翻訳・刊行は、テスト自動化研究会からご提案で実現したものでした。翻訳しようと発案したのはどなただったのですか?
松木 永田さんです。勉強会って、定期的に集まって話すだけだとどうしても分解してしまうので「活動の背骨となるものを用意しよう。それもテスト自動化分野では先を行く海外から持ってこよう」ということで、テスト自動化研究会の設立直後から、TEFで辰巳さん[3]からご紹介いただいた『Test Automation Body of Knowledge(TABOK)Guidebook』の輪読をやっていたんです。
何度目かの研究会でいよいよTABOKの輪読が終わりそうだとなったとき、まさにそのタイミングで、永田さんから、『システムテスト自動化 標準ガイド』の原著である『Software Test Automation』(以下、STA本)の翻訳をご提案いただいたんです。「よしっ、それでいこう!」と。
永田 私はTom Gilb[4]と縁があり、英国で行われた彼のセミナーに出席したんです。そこでたまたま、『システムテスト自動化 標準ガイド』の原著者であるDorothy(Graham)と知り合いました。
これをきっかけに、まず2012年のJaSST[5]の基調講演を私からDorothyにお願いしました。基調講演では、テスト自動化の話をしてくれました。これがすばらしい講演だったので、DorothyにSTA本の翻訳をやらせてもらえないかと頼んだんです。そうしたら「いいわよ」と。
そこで、松木さんにテスト自動化研究会で翻訳しないかと提案したところ、「いいじゃないか、やってみようよ」となったんです。これがSTA本を翻訳することになったきっかけです。
永田 Dorothyもそのころ、最近のプラクティスをまとめた書籍を出したんですが、STA本には今もこれからも使える基本が書かれています[6]。海外で開催されるSTAR[7]でいつも基調講演を行うDorothyが、壇上で話す内容はこの本に書かれていることです。
[3] テスト自動化研究会アドバイザの辰巳敬三氏。富士通株式会社に勤務。http://a-lifelong-tester.cocolog-nifty.com/
[4] ソフトウェアメトリクスやソフトウェアインスペクションなどの革新的な手法を提唱した重鎮。1940年生まれ。著書に『ソフトウェアインスペクション』(Dorothy Grahamとの共著)など。
[5] NPO法人ソフトウェアテスト技術振興協会が運営する年次開催のシンポジウム(Japan Symposium on Software Testing)。
[6] 米software Quality Engineeringが開催するカンファレンス「Software Testing Analysis & Review」のこと。
[7] ちなみに、『Software Test Automation』の刊行は1999年。本書の内容は15年経った今も現役である。
松木 日本国内では、システムテスト自動化に関する本が10年くらい出ていなかったんです。それもSTA本の翻訳に取り組む動機の1つでした。私たちが勉強しようと思ったときに、日本にそのための本がなかった。だから、ここらで1冊やりたいねと。
とはいえ、STA本の翻訳を出版しようとまでは当初考えていませんでした。TABOKの輪読は、回し読みして勉強しようというだけが目的でしたので。しかし、鈴木さんを中心に「がっちり翻訳して出版したいね」という話になりました。
鈴木 自分が提案した覚えはないんだけど、なぜ、そういう話になったんでしたっけ?
松木 なんとなく「やるか」ということになったんですよ。でも、翻訳を始めた時期から鈴木さんがリーダーをやってくれたことは間違いないですよ。
鈴木 今だから明かしますけれど、リアルなデモとかを行うスキルが自分にはないので、ここでがんばろうと。テスト自動化研究会に返せるものが少ないので、これをその機会と考えました。
一同 それは初めて聞きました(驚)
鈴木 翻訳の出版はもっと難航するものと覚悟していましたが、太田さんが翔泳社さんとご縁があったので思ったよりスムーズに事が運びました。もう電子書籍だけでもいいとさえ思っていました。
間違いのないテスト自動化を行うための重要な指針を示してくれる
―― 最後に、CodeZine読者や、テストの自動化で悩んでいる方に向けて、『システムテスト自動化 標準ガイド』がどのようなことを解決してくれるのか、ご紹介くださいますか。
鈴木 「テストがつまらない、退屈だ」と思ったら、テストを改善する余地があります。その解決方法の1つが自動化だと思います。しかし、そこで短絡的に、じゃあテストスクリプトを書こうよという方向に行かないで、そもそもどんなことに気をつけなければいけないのかというところを理解してもらうのに、この本を役立ててほしいと思います。
松木 そもそもテスト自動化研究会は、テストエンジニアの可能性を広げたいと思って始めたコミュニティです。「テストエンジニアってもっと楽しいことができるよ、わくわくすることがあるよ」ということを広げたかったんですけど、マネージャや周囲の環境、周りの人が広げ方を間違うと「自動化するとコストがぐっと下がるんでしょ」などと言われてしまう。それでは不幸なことになってしまうので、本書を読んでもらって、テストエンジニアに幸せな可能性の広げ方を知っていただきたいと思います。
永田 Dorothyの講演をいろいろ聴いてきたのですが、いま松木さんがおっしゃったことを同じで、いっぱい誤解がある。その誤解を何度か解きたい……つまりうまくいってほしいとDorothyは思っていて、うまくいくテスト自動化というのはどんなものかを毎回講演で説明しています。そのエッセンスがこの本には込められていて、体系的に話されています。そうした本の翻訳をできたという我々はラッキーだったと思います。
今後、テストエンジニアはアジャイル開発の中へ入っていかなければならなくなります。そのとき、本書で解説している技術は絶対に必要です。本書は、間違いのないテスト自動化を行うための重要な指針じゃないかなと思います。
―― 現在、開発のスピードは加速する一方です。その中で品質を担保するのに本書で解説しているようなテスト自動化のスキルはますます重要性を高めるでしょう。米国のオバマケアは、システムの不具合が政策の足を引っ張ってしまいました。そのようなことの起こらないように、本書はテストとその自動化についての正しい知識を授けてくれるのですね。本日はありがとうございました。