「作る」から「使う」へ:意識変革とこれからのエンジニア像
これまでのオンプレミスの世界では、ITインフラを中心に自ら「作る」という作業が当然のように行われてきました。当社でも以前は、OSをインストールしたりサーバーをラッキングしたりすることがエンジニアの重要な仕事でした。
しかし、クラウドの世界では、そうした低レイヤー(レベルが低いという意味ではなく、単純に物理層に近いという意味)の仕事はクラウド事業者が行ってくれます。つまり、クラウドを「使う」ことで、「作る」という作業は無用になってしまうわけです。
これまで美しいケーブリングに命を賭けていたエンジニアが、突然「もうケーブリングはいらないから」と言われてしまう。数か月をかけてOracleとJavaで作られたアプリケーションが、ほんの数日で作られたKintoneのアプリに生産性で負けてしまう。「使う」というパラダイムへの転換は、このような痛みも伴うことを理解し、準備しておかなければいけません。
クラウドを前提にシステム提案を行うようになった当社では、エンジニアの仕事がインフラ全体の設計や実装といった、より上位層へとシフトしました。
T字型の知識セットを身に付けよう
では、クラウド時代のエンジニアに必要な準備とはどのようなものでしょうか? その点に関して、東急ハンズのCIOを務める長谷川秀樹さんから、大変興味深いお話をうかがいました。
「東急グループの会議で『店舗にアンケートをとろう』という話が持ち上がり、そのためのシステムをさっそく作ろうとなったんです。すぐに、『それ、SurveyMonkey[2]でできるんとちゃいますの?』と言ってやりましたわ」
これはクラウド時代のエンジニアのあるべき姿だなと感銘を受けました。
長谷川さんはハンズラボという、東急ハンズのIT子会社の代表取締役社長も務めていらっしゃいます。短期的な収益を見れば、アンケートシステムを受託したほうが(もしかしたら)儲かるかもしれません。ですが、長谷川さんはそうした短期的な利益を云々するのではなく、ServeyMonkeyの利用がベストと考えてそれを推薦しました。ユーザーである東急グループが、競争優位を確立できるポイントに資源を集中できるように、IT子会社側からサポートしたわけです。
このような行動とスキルセットは、ユーザー企業のCIOやIT企業の社長だけでなく、現場のエンジニアにも必要になると思います。今までは「インフラ」と「アプリ」が別々の世界にあって、それぞれの世界で知識を深掘りしていく「I字型」のスキルセットが必要とされていました。これからは、インフラとアプリの境界があいまいになり、業務の消滅や越境が起こることもあるでしょう。
例えば、今まではアプリを作る前に、それを載せるインフラを構築していたところが、Salesforceを使うことによってインフラの作業が不要になる。パフォーマンス確保のためにインフラ側がDynamoDBを提示し、その仕様に合わせて開発者がアプリケーションを作る、といった具合です。
そのように考えると、これからは次のような「T字型の知識セット」が必要になるのだと考えられます。
複数のクラウドサービスをインデックスとして保持しておき、作らずに実現できるものはクラウドを利用できる知識(T字の横棒)を持ちつつ、その中でも自分が深く知っているサービスがあって、それについてはただ使うだけでなく、高度な利用方法を含めて熟知している(T字の縦棒)
T字の縦棒となるクラウドの選定は不確定要素が多く難しいのですが、本稿の冒頭で挙げた主要クラウドや、最近話題になっているいくつかのサービス(Kintone、Google Cloud Platformなど)が候補になると思います。意識してT字型の知識セットを身につけることで、クラウド時代にふさわしい「アウトプットよりもアウトカム」を実現できるエンジニアへの道が拓けると確信しています。
[2] Webで手軽にアンケート調査を行うことのできるサービス。
