指標が満たすべき条件
ただし、数値化すれば何でも指標になるわけではありません。指標は、次に示す4つの要件を満たしていることが必要です。
- Understandable(理解可能)
- Comparative(比較可能)
- A ratio or rate(比率)
- Behavior changing(行動を変える)
Understandable(理解可能)は、ただ数字を出すのではなく、その数字を出した目的や数字が表す意味まで誰にも明確であることを求めるものです。指標なのですから、ごく基本的な要件といえるでしょう。
Comparative(比較可能)は、指標は「過去と現在」「自社と競合」といった比較ができ、さらにそこから自サービスの弱み、強みが浮き彫りにならなければならないという要件です。Webサービスはその性格によって「学生のうち男性には刺さっている(関心が高い)けれども、女子にはそれほどでもない」「昼間はアクセス数がとても多いけれども、夜は少ない」といった違いがあります。そうした違いは指標の比較によって明確化できる必要があります。
A ratio or rate(比率)は、2つの数字を1つの値として扱うことを指標に求めます。例えば、弊社にはタウンワークとフロム・エーナビという仕事・求人サイトがありますが、両サイトに集まった応募数を単純に比較しても、応募につながりやすいのはどちらのサイトかは判断できません。応募数ではなく、たとえば求人数に対する応募率を比較することで、応募へのつながりやすさを判断する材料にできます。
Behavior changing(行動を変える)は、「指標はとるべきアクションが具体的になる数字にする」という要件です。Comparative(比較可能)やA ratio or rate(比率)の要件を満たしている指標は、自ずと次にとるべきアクションが浮かび上がってきます。これはWebサービスの運営側に限らず、ユーザー側のアクションを変えることも含みます(タウンワークとフロム・エーナビのどちらで求人すべきかとか)。
指標の深掘りでは時系列の視点も忘れずに
また、書籍『Lean Analytics』の著者であるAlistair Crollさんは、指標について次のような指摘をしています。ポイントは「指標をいかにアクションへつなげるか」です。
- いかにデータを細かくするか
- セグメンテーションする(ユーザーを分類する)
- 時系列を無視した平均化はダメ
いかにデータを細かくするかのデータとは指標のことです。Slicing and Dicingのイメージで指標が表している事象(意味)をさらに深掘りし、特定のユーザー層(セグメント)に顕著な傾向(トレンド)をつかんで、とるべきアクションを定めます。
そのために、指標に対しセグメンテーションを行ってユーザーを分類します。例えば、ユーザーを分類する場合、性別(男性、女性)、年齢(10代、20代、……)、職業(学生、会社員、自営業、主婦[1]、……)などからセグメンテーションを行います。このとき、思いつく限りセグメントするのが理想です。
ただし、ユーザーの行動は時間に応じて変化しています。セグメントに顕著なトレンドをつかむ(ユーザーの平均化を行う)場合には、時系列でユーザーの行動を見ることも忘れてはなりません。トレンドは時期的な要因など、サービス外からも影響を受けます。今週や今月といった局所的な数値や、前年同時期の数値を見ることで、こういったトレンドが把握できることが多くあります。
また、学生は平日の昼間は授業、土日は休日なので行動は日曜日と月曜日とで全然変わってきます。一方、主婦であれば多くの方が平日でも昼下がりに比較的時間があります。この場合、ユーザーの属性と曜日とを掛け合わせてセグメントを決め、トレンドをつかまなければ、正しいアクションはとれないことになります。
まとめましょう。指標が満たすべき要件の4つ目は「Behavior changing(行動を変える)」でした。これは、深掘り(PDCAサイクルのCheck)することで正しいアクション(PDCAのAction)が定まるようでなければ指標として使えないということです。しかし、深掘りする際に時系列で見ることを忘れると、誤ったアクションを定めてしまう恐れがあります。この点には十分注意してください。
[1] 本稿でいう主婦は、主に専業主婦を指します。