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増加する「ハイブリッドクラウド」環境でDevOpsが直面する大きな課題/公衆無線LANサービスを提供する「Wi2」は、どのようにその解決に取り組んだか

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2016/01/06 07:00

 ITインフラに関する技術の進歩とビジネス環境の変化によって、企業システムに「オンプレミス」「プライベートクラウド」「パブリッククラウド」が混在する「ハイブリッドクラウド」が増加している。ハイブリッドクラウドは、多くの企業にとって現実的な選択肢となる一方で、新たな課題も生んでいる。今回特にシステム開発・運用における「DevOps」の観点から、ハイブリッドクラウド環境における課題とその解決にどのように取り組むべきかを、公衆無線LANサービスで知られる「株式会社ワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)」の事例から考えてみたい。

多くの企業でITインフラの「ハイブリッドクラウド」化が進む

 企業ITを支えるインフラのトレンドは、技術の進歩とビジネス環境の変化が原動力となり、目まぐるしく変わり続けている。特に近年において、コンピューティングのあり方そのものを大きく変えるインパクトを持っていたのは、仮想化技術の成熟と、それに伴う「クラウド」と呼ばれるサービス形態の登場であったことは間違いないだろう。

 企業がハードウェア、ソフトウェアといったITリソースを自社で所有する「オンプレミス」でのIT活用には、さまざまな課題があった。社内システムの際限ない増加、それに伴うサイロ化や運用管理コストの増大は、企業にとって大きな負担となっていた。仮想化技術と、その発展型と言える「クラウド」型と呼ばれるIT利用スタイルの登場は、ITの「所有」を重荷と感じはじめていた企業にとって、歓迎すべき福音だった。

 仮想化技術は、物理的にバラバラだったITリソースを抽象化し、企業内に大きなリソースプールを設けることで、より柔軟に利用できるようにした。また、サイロ化したシステムをより高い性能を持った物理サーバに集約することで、運用管理負荷を軽減することも可能になった。仮想化技術をベースに、企業内のITリソースを柔軟かつ効率的に利用できるようにする環境は「プライベートクラウド」と呼ばれ、その実現を目指して多くの取り組みが行われてきた。

 一方、ネットワーク環境の整備と転送速度の向上によって、すべてのコンピューティングリソースをネット上の「サービス」として利用できる「パブリッククラウド」の利用も、企業にとって現実的な選択肢となった。自社では一切のITリソースを所有、管理せず、必要な時に、必要な分だけのリソースを調達できるパブリッククラウドは、イニシャルコストや運用管理コストの削減に大きく寄与するものとして歓迎された。多くの企業が実際に導入を行い、適用範囲の拡大についても検討を進めている。

 「オンプレミス」「プライベートクラウド」「パブリッククラウド」と、さまざまなITインフラの利用、運用形態が併存する現在。企業では、システムに求められる要件に応じて、これらを使い分ける「ハイブリッドクラウド」環境が数多く生まれている。

 それぞれの運用形態には、メリットとデメリットの両方が存在する。例えば「プライベートクラウド」は、自社の要求水準に合わせたセキュリティ要件への対応や、障害発生時のコントロールが「パブリッククラウド」と比較して容易といったメリットがある一方、その構築には、やはり多大な初期投資が必要になるほか、さまざまな利用者ニーズに対応するためのライセンスの確保、OSやミドルウェアを含む個々の仮想サーバの運用管理にはコストがかかるといった問題が残されている。

 そのため、高いデータセキュリティやミッションクリティカルな運用が求められるシステムには「オンプレミス」や「プライベートクラウド」を、よりタイムリーな調達が求められるシステムや開発・検証などの一時的な用途には「パブリッククラウド」を、といった形で、これらを使い分けながら、コスト対効果の最適化を図るというのが、多くの企業にとっての現実的な選択肢となっている。

 このような背景から、オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウドが混在する「ハイブリッドクラウド」は、多くの企業で急速に進行していくと考えられる。しかし「ハイブリッドクラウド」環境は、企業がクラウドからメリットを得るための現実的な選択肢である半面、新たな課題を生じさせるリスクもはらんでいる。ここでは特に、ハイブリッドクラウド環境において「システム開発」が直面する問題について取り上げ、その解決にどのように取り組んでいくべきかについて考えてみたい。

「高頻度」「短期間」でのリリースがIT部門の価値を高める

 社会のあらゆる分野で、ITシステムの担う役割が増し続けている現在、企業におけるシステム開発のあり方にも、変化が求められている。要件定義からリリースまでに何か月もの時間をかける方法では、目まぐるしく変化するビジネスニーズに応えることは、もはや難しくなっている。より高頻度、短期間でのリリースを繰り返すことで、継続的にユーザーの満足度を上げていく、いわゆる「アジャイル」な開発手法が広く注目されるゆえんだ。

 こうしたITへのニーズに対し、企業でシステム開発・運用を担ってきたIT部門の存在意義が問われている。

 「従来のやり方にとどまっている企業のIT部門は、スピード的にユーザーがほしいものを提供するのに苦労しています。その結果、社内でアプリケーションを開発せず、社外のベンチャー企業などに発注したほうが良いという声も聞かれます。インフラの管理だけであれば、クラウドなどのアウトソースで十分にまかなえてしまうという現実もあります」

 そう指摘するのは、日本アイ・ビー・エム(IBM)シニアITスペシャリストの黒川敦氏(クラウド事業統括 クラウド・テクニカル・ソフトウェア)だ。黒川氏は、いわゆる「IT部門の空洞化」が、日本企業の競争力を低下させることにつながることを懸念しているという。

 「米国の多くの企業は、こうした環境の変化にも関わらず、自社でシステムを作っています。それは、最終的に自分たちで作らなければ、自社のコアコンピタンスを反映した競争力のあるシステムにはならないという考え方があるからです。そのために、求められる開発スピードを実現できる方法を実践し、IT部門の価値を高めることに取り組んでいます。より多くの日本企業にも、その考え方の重要性に気付いてほしいと思います」(黒川氏)

日本IBM シニアITスペシャリスト 黒川敦氏

日本IBM シニアITスペシャリスト 黒川敦氏

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「ハイブリッドクラウド」環境で乗算的に増大するデプロイの負荷

 システムリリースのサイクルを早めるためには、開発だけでなく、運用を含めたプロセス全体を考慮し、コミュニケーションとフィードバックの品質を維持しながらスピードを上げていくことが必要だという考え方が、近年主流になっている。いわゆる「DevOps」だ。とはいえ、そうした環境の実現は、口で言うほど簡単ではなくなっているのも、事実である。

 「ハイブリッドクラウド環境において、運用管理は従来以上に負荷の高い作業になります。環境構築手順、動かすサービス、アクセスできる権限などは、インフラごとに管理する必要が出てきます。さらに、システム開発・運用を自社で行おうとした場合、環境ごとの設定やデプロイ手順の違い、リリース管理などで、その負荷は乗算的に増えることになるでしょう。たとえ開発プロセスが迅速になったとしても、そのデプロイに運用側が追いつけなくなる可能性が高いのです」(黒川氏)

 こうした問題に対して、自動化ツールを利用するなど、何らかの対策をとっている企業は少数派だという。

 「インフラ部分の運用管理に関しては、自動化が進んでいる印象があります。しかし、アプリケーションのデプロイに関しては手作業に頼っている企業がほとんどで、何らかの方法で自動化しているというケースはまれなのではないでしょうか」(黒川氏)

 ハイブリッドクラウド環境におけるアプリケーションのデプロイについては、手作業、あるいは全体の状況に詳しい担当者が、独自のツールなどを作って対応しているケースが多いという。前者の場合、環境が複雑になるほどヒューマンエラーが発生するリスクが高まり、後者の場合は、将来そのツールが担当者不在の「ブラックボックス」化してしまう恐れがある。継続的にDevOpsをまわしていく場合、こうした状況がビジネスにとって望ましくないことは明らかだろう。

 システムリリースのスピードアップが求められる一方で、それを配備するインフラはハイブリッド化し、複雑性が増していく傾向にある。その中で、アプリケーションデプロイの手順を標準化しつつ、人為的なミスを減らし、効率を高める「DevOps」を実現していくためにできることは何なのだろうか。

 「この問題は、単に開発部門がツールを入れれば解決するというものではありません。ビジネス面で得られるメリットをドライバーに、より広く、ビジネス部門、ユーザーからのフィードバックまでを巻き込んだ開発プロセスの再構築を行っていくことで、理想的なDevOpsの実現に近づいていくことができると、IBMでは考えています」(黒川氏)

ハイブリッドな環境で業務プロセスの見直しに取り組むWi2の事例

 日本IBMのサポートのもと、全社的な取り組みを通じて、ビジネスが抱える課題の発見と、システムの開発運用を含む業務プロセスの再構築に取り組んでいる企業の1社が、公衆無線LANサービスで知られる「株式会社ワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)」である。

 スマートデバイスの爆発的な普及で、公衆無線LANサービスに対する消費者のニーズは一気に拡大した。飲食店や観光スポットにとって、こうしたサービスは顧客を呼び込むためのセールスポイントとなっている。また、最近では日本を訪れる外国人向けの無料無線LANサービス「TRAVEL JAPAN Wi-Fi」を展開するとともに、アクセスポイントの利用動向をマーケティング情報として企業に提供するサービスなどの新たな展開も行っている。

 黒川氏は提案チームの一員として、Wi2の業務プロセス再構築に関わった。Wi2で技術部門を統括する取締役CTO技術運用本部長の小松直人氏からは、「本来あるべき姿がどのようなもので、そのために何をしなければならないかといった、コンサルテーションに近い部分も含めて、Wi2と一緒に取り組んでほしい」とリクエストされたという。

 「Wi2様は質と量の両面からサービスの提供範囲を拡大し続けており、業務プロセスの現状把握と課題を明確にして解決を図る必要がありました。アプリケーションのデプロイという観点ですと、『オンプレミス』と『パブリッククラウド』の2つの環境への同時デプロイが必要でした。現状や今後向かう方向を議論し図式化しました」(黒川氏)

 Wi2では、業務プロセスを再構築するとともに、「IBM Rational Team Concert」と「IBM UrbanCode Deploy」をツールとして導入し、ドキュメント整備や業務プロセスに関する課題に取り組んだ。

 Wi2はIBM UrbanCode Deployの導入によって、サービスのリリースがスピードアップするだけでなく、社内の知識やノウハウを共有するしくみもできていくと考えている。

 「リリースのために必要な作業を自動化するしくみの中には、それまで人が介在していた手続きが入っていくはずです。そこには、それまでに失敗したり苦労したりした部分がすべて網羅されるため、このしくみを使えば新たに担当する人でも間違いなくサービスをリリースできます。このように知識やノウハウを蓄積する方法が変わることが、今回の取り組みでの大きなポイントの一つだと思っています」(小松氏)

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「IBM UrbanCode」で実現できる開発プロセス標準化のメリット

 「Wi2様にとって、UrbanCode Deployはデプロイ自動化ツールだけでなく『ドキュメント化ツール』として評価されました。最近は、プロセスを可視化し部門間のコミュニケーションを良くしたいというモチベーションでUrbanCode Deployをご採用いただくお客様が多くなっています」と黒川氏は話す。

 IBM UrbanCode Deployは、同社が2013年に買収した製品である。デプロイプロセスを設定する専用のGUI画面に、パレット上に用意されたパーツを使ってビジュアルに定義し、保存しておくことができる。既存のスクリプトを呼び出すことも可能だ。Wi2では、この機能をプロセスの標準化のためにも活用している。

デプロイ手順をドラッグ&ドロップで視覚的に定義できる
デプロイ手順をドラッグ&ドロップで視覚的に定義できる

 UrbanCode Deploy上で定義したプロセスは、サーバ上で一元管理できる。各環境にデプロイされているアプリケーションの種類やバージョンを、ダッシュボード上で一覧化して確認することも可能だ。

 また、システムでの自動化手順だけでなく、人による承認フローもプロセスの中に組み込むことができる。例えば、特定のデプロイ作業を「アプリケーション管理者」と「運用担当者」の双方から承認された段階で、初めて自動実行するといった運用上の「ルール」まで定義しておくことができるのだ。スピードと品質の向上、手動のデプロイ作業に起因するエラーの削減に加え、「誰がいつデプロイしたか」「誰が承認したか」をログとして記録できることで、監査や証跡にも利用できる。

デプロイ結果も定義した順番でリアルタイムに参照できる
デプロイ結果も定義した順番でリアルタイムに参照できる

 DevOpsツールとしてのUrbanCode Deployが持つ大きな強みの一つは、プロセス定義に対応するプラグインの多さである。以下に挙げるとおり、多様なWebサーバ、データベース、ビルドツール、構成管理ツール、テストツールなどに対応している(2015年12月15日時点で146種類)。

UrbanCode Deployで提供するプラグインの一部 UrbanCode Deployで提供するプラグインの一部

 継続的インテグレーション(CI)を実現するためのビルドツールとして開発者からの支持が厚い「Jenkins」とUrbanCode Deployを組み合わせて利用することも可能だ。「開発部門だけでなく、運用部門、テスト部門などを含めた全社的なDevOpsを考える場合に、ビルドには開発部門が慣れているJenkins、デプロイには各部門間で理解しやすく可視化されたビジュアルなUrbanCode Deployを利用するという選択も実際に行われています」と黒川氏は言う。

 また、UrbanCode Deployでは現在OpenStackへの対応も進めており、OpenStackのオーケストレーション機能である「OpenStack HEAT Templates(HOT)」をビジュアルにデザインできる機能も提供している。アプリケーションだけでなく、インフラのデプロイにも拡充することで、将来にわたりDevOpsの「標準ツール」として使い続けられる拡張性を備えている。

 ハイブリッドクラウドにおける運用負荷の増大、そしてシステム開発におけるリリースサイクル短縮への要請といった課題にチャレンジし、IT部門の価値を企業が再認識していくために、「DevOps」に取り組むことは、今後あらゆる企業で重要になっていくだろう。

多彩なツールと提案力で「ハイブリッドクラウド」の課題解決をサポート

 今回は、特に「DevOps」にフォーカスしたが、これに限らず、IBMでは、ITインフラの「ハイブリッドクラウド」化によって企業が抱える新たな課題に向けたソリューションを日々拡充している。

 例えば、2015年11月には、企業におけるクラウドサービスの調達や運用、管理を行うソフトウェアを開発する「Gravitant」の買収を発表した。同社のソフトウェアを使うと、企業のIT管理者は、さまざまな企業が提供するコンピューティングサービス、ソフトウェアサービスの機能や価格の比較、評価、購入、そして購入後のサービスの管理を、統一されたコンソール上で一括して行うことができるようになるという。ハイブリッドクラウドの管理を合理化するための新たな選択肢として期待されており、IBMでは今後、このソフトウェアをSaaSとして提供することを予定している。

 グローバルでの多くのベストプラクティスを持つ日本IBMのコンサルティング力と充実したツール群は、ハイブリッドクラウド環境の新たな課題に取り組むすべての企業にとって心強い味方となるはずだ。

お問い合わせ

会社名 日本アイ・ビー・エム株式会社
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著者プロフィール

  • 高橋 美津(タカバシ ミツ)

    PCやネットといったIT分野を中心に、ビジネスやゲーム分野でも執筆を行うフリーランスライター。Windowsユーザー。

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