ソフトウェアの知見をビジネスに生かし、ビジネスをサービス化する
セッション後半のテーマは「ソフトウェア駆動ビジネス」だ。ここで長沢氏が紹介した言葉は「Software is teaching the world」。ソフトウェアが世界を教導する、という意味だ。
長沢氏は「ソフトウェア開発という仕事は、もっとも複雑な業務と言える。開発で出てきたナレッジは、世界中のビジネスシーンに生かせる」と語る。「価値の流れ」で出てきたポイントを、ビジネス寄りの表現に当てはめると、バックログ駆動は「やることの交通整理」、情報Hubは「情報収集の交通整理」、作業のシフトチェンジは「やり方の交通整理」ということができる。
要は「人・作業・成果物」の交通整理だ。たとえば顧客や営業同士のやり取りには様々なものがあるが、業務の現場では大体、情報が残らない。また、それぞれの頭の中にしかない情報も多い。
それをどのように解決するのか。長沢氏は「一般的には、とにかくナレッジを軸にする。ファイル共有の仕組みを持つ。そこに正式で正確な情報を入れるとされている」と言う。ただ、自分が持っている情報が正確であることに自信がある人はほとんどいないため、場所を作っても情報が載らない。もしくは作って、蓄積して、咀嚼して、寝かせて、それから勇気を振り絞ってアップするのだが、誰も見てくれない。情報が遅いからだ。
そこで情報Hubを使い、ミーティングの議事録などに、必要な人がアクセスできるようにする。議事録があると、誰が参加していたか、誰に知ってもらいたいか、ミーティングの目的、そこでの依頼の結果が分かる。
例えば、ミーティング直後に議事録がメール添付で送られてきても、添付ファイルを開かないことも多いが、チャットで展開されると目に止まりやすくなる。ドキュメントを横串で刺して見れば、やるべきことの中で、やったこと、やっていないことなどのアクションアイテムも気軽に見ることができる。同様に他の人に依頼したアクションへの反応も確認できる。また検索に引っかかり、思わぬ収穫を得られることもある。議事録を取ったあとに入った情報で、アップデートすることもできる。
これまで紹介したように、ソフトウェア開発で行ってきたことがビジネスのシーンで活かせるが、とはいえまだ成熟はしていない。「ビジネスシーンは多様化しているため、情報Hub、チャットといった基本的な仕組みをベースにお客様に応じたソリューションを作る必要がある。これができるのは開発者だけ。このようなソフトウェア開発のシーンがこれから出てくるだろう」と長沢氏は予言する。
アトラシアンでも2015年10月より、JIRAを3つの製品構成にして、ビジネス向けタスク管理ツール「JIRA Core」を提供している。これは、ソフトウェア開発のように複雑なプロジェクトではなくても、タスクフォースを作ったり、プロセスを管理して承認の仕組みを作ったりといったところに特化したJIRAである。今後、カンバンボードも搭載予定だ。
ソフトウェア開発もビジネスも、どちらも同じ仕組みで複雑さに対応することができる。変化が大きく、仮説で動く必要があり、情報の正確性は選別しなければならない。そんな状況下では、チームの力を活かすことが重要だ。「チームが使うインフラは、ソフトウェア開発もビジネスも同じものを使うことができる」と長沢氏。
実際に働く人が働きやすいしくみをつくるところにも、ソフトウェア開発者の知恵が生きてくる。例えば「JIRA SoftwareとJIRA Coreを連携させることで、お互いの間にあった壁を取り払うこともできる。そのプラットフォーム上にお客様に応じたソリューションを構築できるのも開発者だ」と長沢氏。
ビジネス現場の知的創造プロセスについて、長沢氏は「SECIモデル」を引き合いに出しつつ、次のように述べた。例えば、ビジネス現場では「課題やいいアイデアを思いついた時に、誰に伝えればいいか分からない」といった問題が発生する。これまで述べたような仕組みを作ることにより、ふわっとした情報を上手く見せることができる。その仕組みを使うことで、「誰に伝えればいいか」といったことを自分で探し出せるようになる。これがビジネス現場のサービス化だ。サービスがいくつかメニュー化されて、自分がやらなくてはならないことを適切に選べるような仕組みができている。さらに発展すると、色々な問題を自己解決できるセルフサービスモデルになるというわけだ。
最後に長沢氏は「どんどん新しい、イノベーティブなソフトウェアを作ってほしい。さらにテクノロジーのハックだけでなく、ビジネスもハックしていただきたい」と呼びかけ、セッションを閉じた。
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